逆しまの空3-1
2007.08.10(Fri)
***

 門を抜けた先は、点々と光の標が続いていた。

 上も下もない空間を、白い翼を持った天使が二人飛んでいく。
 それは、降りているようであり、登っているようであり、世界の狭間を、ただ標を頼りに進んでいた。
 灯火の外は、光も闇も存在しない虚無の海。
 ここは、世界の外側。
 世界を結ぶ、次元回廊。
 二人の天使の後を、彼ら同様に結界に包まれた大きな荷持つがついてくる。
 運搬が二人の役目だった。
 ふいに小柄な天使が、もう一方の前に回りこむと、背筋を伸ばして、すました顔で言った。
「ねぇ。レイ、キスしてよ」
***
「お前っ、こんな所で何を言い出すんだ」
「だって、これから忙しくなるし、ここなら誰も見ていないじゃない」
「リィは、怖いとか思わないのか?」
「うん。だって、レイと一緒だもん」
 レイは照れた風に指を頬でかくと、恋人から視線を反らした。
 リィは、いつもこうだ。
 『辺境』に左遷されたときも、「これで、人目を気にせずに済むね」なんて、笑って言うのだ。
 どうしようか、と恋人に視線を戻そうとして、レイは視界の片隅で光が揺らぐのを見た。
「……人だ」
 レイは、恋人の両肩を掴んで呟いた。
「え? まっさかぁ」
 リィは正面に向きなおすと、レイの視線を辿って、道の先へと目を向ける。
 そして、瞬きをして、確かにそこに人影が居ることを認めた。
 地面が存在しないここでは、足音がしない。
 けれど、その人はこちらに近づいてくるようだった。
「ねぇ。誰か、先に行ってる人って居たっけ? あたし達が最初だよね? まだ、門だって固定してないし」
 リィは、そっとレイの腕を掴んで言った。
 目的地、第四世界の方から、天使ではない【何か】がやってくる。
 震える指に手を重ねて、レイは言った。
「向こう側の入り口から迷い込んだんだよ。そりゃあ、入り口は固定してなくても、不安定なのは同じだろ? だから、近くに居て巻き込まれた。きっと、そうだよ」
「でも、ここに居ても平気なんて」
「……少なくとも、世界障壁を超えるだけの力は持っている事になる」
「どうする。皆を呼んでこようか」
 レイにすがるような目を向けて、リィは言った。
 そんな恋人の肩をレイはそっと抱くと、
「…会おう。会って話をしてみよう。リィは隠れていて。そいつは、皆の帰り道を確保するのに絶対に必要なんだ。必ず、第四世界に届ける」
「うん。わかった……でも、危なかったら無理しないでね」
「信じろって。天使の守護魔法を抜けるモノがあったら、そんなの神様だけだよ」
 恋人が荷持つの陰に隠れるのを見届けてから、レイはひとつ咳払いすると、来訪者を出迎えた。
「……えーと、こんにちは。言葉、わかるかな?」
 にこやかに、腕を広げるのは武器を持っていないことと、自分が張っている結界への信頼の現れだった。

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