flower border

一角獣の都-帰還者(2)

Categoryゼロの刻
  •  closed
  •  closed
<<1へ

 人型系魔族の王国ダリアロ。
 広大な森を削るようにして、その都はあった。
 極彩色の街並みが立ち並ぶ大通りの先には、滝の流れる崖がある。
 崖の上にも街が続き、隙間を埋めるようにして、いくつも純白の塔が建っていた。
 翼や角、尾のある魔族、下半身が動物であったりする人々が大通りを行き交っている。
「アルマ。こっちだ」
 大通りを進もうとするアルマに声をかけて、ガルガは横道に入った。


FAMILIAR ~ゼロの刻~ -->説明書


   帰還者(2)


キーワード:【白】、魔界、兵士、なりそこないの魔物、異界の門
 そこは色鮮やかな表通りとは違い、灰色の街並みがひろがっていた。
「俺の市民権で入れるのは、大通りからこちらの新市街地だけなんだ。あの塔が見えるか」
 ガルガの指さした先に、一角獣の角を思わせる塔が建っていた。
「あれが境界、魔王様が建てたものだ。塔には近寄るなよ。使い魔に絡まれると面倒なことになる」
 この都は、魔王様の加護によって守られ、建てられたものだとガルガは説明した。
 ダリアロの首都は、上から見ると長方形の形をしている。
 それぞれ、滝と段差によって三層に分かれており、今歩いてるここが最下層に当たる。
 最下層には、下級魔族とガルガのように兵士として雇われた《なりそこないの魔物》たちが暮らしている。
 階層があがるごとに生活している魔族の位も上がった。
 魔族にとって階級差とは、そのまま強さの違いを示す。
 強きと弱きを共にすると、そこで争いが生じるからと、生活圏を分けたのだ。
 下級魔族が上の層に立ち入れないのと同様に、中級魔族が許可なしに下層に降りる事も禁じられている。
 こうした民の動きを監視しているのが、あの白い塔だ。
 塔に勤めているのは、全員、ダリアロの魔王と使い魔契約を交わした、手練れの魔族ばかりだ。《皆殺し》と呼ばれるガルガでも、魔王直属の使い魔とは揉めたくはなかった。
 この魔界で《なりそこないの魔物》が市民暮らしを出来る土地は、ここしかないのから。
「ほへー。岩石さんの所じゃ、人型魔族は動物と変わらない、粗野な暮らしをしてるって聞いてたんで、驚きました。うちも上下関係はありましたけど、ここまで整備されてませんでしたよ」
「何処も自分の国を褒めるもんだ。さて、よその国の話も興味はあるが、先にお前の服を何とかしないとな」
「これじゃ、ダメなんですか?」
「……その格好で、階段や梯子を登る気か。お前は」
 アルマが着てるのは、だぼだぼの黒いローブ一枚である。
 この新市街地の店は、大概、急な外階段を上がることになる。
 見える。絶対に下から見える。
 先ほどから、《皆殺し》が女連れでいる事を囁きあいながら、こちらを盗み見てる視線を感じていた。
 大げさだなぁとアルマが笑う。
「えー、誰も見ませんよー。あ、でも、裾を擦っちゃいそうかなぁ」
「こら、めくるな。お前、岩石巨人の所で慎み深さとか学ばなかったのかっ」
「ちっちっち。逆、逆。あっちじゃ服や鎧を着てたら、弱いって周囲に証明してることになりますもん。柔肌でも、堂々としていなさいって習いました。見るからに弱そうな生き物でも、堂々としてたら、ちょっかいかけるのを躊躇うからって」
 仁王立ちして得意げなアルマの鼻に、ガルガは指をつきつけた。
「いいか。ここダリアロの、人型系魔族の首都だ。岩石巨人がごろごろいるガデンとは違うからな。さっき大通りを歩いてる人に、裸の奴なんていたか? 居ないだろ。わかったら俺に合わせろ」
「ぶー。亭主関白だ」
「誰が亭主かっ。嫁ってのはここに入るための方便で。さすがに、裸一つで放り出すのは可哀相だと思って、」
「あ、何あれ。美味しそう」
「聞けよっ! 頼むからっ」

 この日、町中で《皆殺し》は嫁の尻に引かれてるという噂が広まったのを、ガルガは知らない。


  ・/・

 《なりそこないの魔物》用の宿舎を見上げて、アルマは目を輝せた。
「凄い。この建物、木で出来てますよ。木で!」
「……ほ、ほんとに元気だな。お前……」
 勝手に建物内の探索に行きそうになるアルマを捕まえて、何とか二階へと向かう。
「いいか。俺の隣で大人しく、静かにしてろよ」
 ノックすると、ほどなくして扉が開いた。
「はいはい。あたし、今日は非番なんだけどー」
 不機嫌そうに頭を掻きながら出てきたのは、ブロンドの髪を頭の後ろで束ね、褐色肌の女性だった。
「悪い。ユミル、女物の服を俺にくれ」
 ガルガが頼み込む。
 さすがに下着も無しに女物の服屋に入るのは気が引ける。
 ここはひとつ同僚の助けを借りようと思って、ドアを叩いたのだが。
 ユミルはガルガの全身を見渡して、申し訳なさそうに口を開いた。
「……ごめんねぇ、坊ちゃん。いくら女装されても、男とお付き合いするのはちょっと――正直、朝から似合わない女装見せられたら、殺意すら覚えるっていうか」
「違うからっ。俺が着るんじゃないからっ。こっちだこっち」
 ずいっと、ガルガはアルマの背中を押した。
「初めまして、アルマって言います。よろしくお願いします!」
「あら、新顔? ガルガ、アンタが案内役なんて珍しい」
「いや、こいつは兵士じゃない。外で拾ってきた。前に、タンスに服が入りきらなくて困ってるって言ってただろ。こいつ、何も持ってないからさ。悪いけどその……し、下に着るのも予備があるなら渡してやって欲しいんだが」
「ああ、あの枠ね。なぁに、顔真っ赤にして……ふぅん、ガルガ坊ちゃんは、女性と付き合ったことが無いって噂だったけど、もしかして本当に」
 意地の悪い笑みを浮かべて、ユミルが言った。
「うるさい。それと坊ちゃんはよせ」
「あはは。でも、確かに、こんなに可愛いのに、着てるのがアンタの汗臭いローブじゃ可哀相だわ。おいで、見繕ってあげる」
「おじゃましまーす」
 寮の部屋はワンルームなので、ガルガは廊下で待つことになる。
 開いた窓の外から入る風が、気持ちよかった。
 部屋の中から、はしゃいだ声が聞こえてきた。

 ――あははははっ、あの、ユミルさん。くすぐったい。
 ――ごめんねー。メジャーがないから手で計るしかなくて。ん、これは意外と。
 ――ゆ、ユミルさん、鼻、鼻血っ。

「………あ。アルマに、ユミルは女好きって言い忘れた」
 まぁ、いっか。
 ひとつ咳払いをして、ガルガは照れている自分をごまかした。


 着替え終わったアルマは、ツインテールに花柄のワンピースになっていた。
 パステルカラーで揃えた少女趣味の服は、アルマを可愛らしく彩っていた。
「ほら、ガルガ坊ちゃん。感想はどうした。褒めたまえよ」
「ふふ。感極まって言葉も出ないかね。我ながら良いチョイスをしたと思うね。タンスの肥やしにしててももったいないからね。似合う子にあげるよ」
 ガルガは隣に立つ、ユミルの格好と見比べた。
 食事に行くなら、一緒に行くと言い出した彼女は髪をほどいていた。
 シャツとタイトなスカート、真っ直ぐに伸びた金髪。綺麗だがどこか険のある表情なのは、相手がガルガ――男だからだろう。ユミルがこんな少女趣味の服を着ているところは、これまで見たことが無かった。
「いや、この服を着てるユミルを想像して、鳥肌が立った」
 ガルガはグーでぶん殴られた。

「ねぇ、アルマお嬢ちゃん。こんなデリカシーのない男なんて止めてさ。あたしの所にきなよ。あたしも今独りだから、枠は空いてるよ」
「え? え?」
 配偶者枠は、同性にも適用できると知らないアルマが、おろおろと二人の間に視線を往復させる。
「悪かったっ。冗談だって。ユミル姐さんのセンス最高!」
 ユミルは満足げに頷くと、
「さて、食事にしようじゃないか。服代分ぐらいは、おごってくれるのだろう?」
 そう言って、不敵な笑みを浮かべた。





>>3に続く

130307-ユミル
女の子はこっちゃこーい。男は、KI・E・U・SE・RO。