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鍛冶師-帰還者(4)

Categoryゼロの刻
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 報告

 《皆殺し》および、その保護対象――呼称《無能》について。



FAMILIAR ~ゼロの刻~ -->説明書


   帰還者(4)


キーワード:【白】、魔界、兵士、なりそこないの魔物、異界の門
 先月、《皆殺し》が連れてきたなりそこないを、暫定的に《無能》と命名する。
 《無能》は北方砦攻略の生き残りである。そのことから能力《皆殺し》を防ぐ、何らかの力を所持している可能性が高い。
 身体検査からは肉体面での変容は見受けられなかったため、今後、精神面ないし魔法に通じる不可視の力である可能性を調べることにする。
 《無能》の経歴についてだが、敵国ガデンの魔族に育てられたものの、ダリアロへの反意は無く、特に呪術を施されてる様子も無い。性格は極めて明るく、温厚で我が国で雇っている他のなりそこないとも上手くやっている。
 《無能》については、特に警戒する必要はないと進言する。

 対して、《皆殺し》だが、《無能》という保護対象を得ることで、夜間の暴走の頻度が減っている。魔族に対する反感も幾分なりを潜めており、ダリアロの兵士として運用するのに何の問題はないと、ここに報告をする。。

 ユミル=レイ=オルタシア



「存外、簡単な話なのさ。《皆殺し》を仕留めるのはね。あの強さは不意打ちと、生き残りを残さないことにある。種が割れてしまえば、対処のしようはあるものさ」
 第二層。中級魔族のみが立ち入りを許されるの一角で、ユミルは杯を掲げた。
 最下層のなりそこない区画に居たときとは違い、身なりの良い服を纏っていた。
 レースや金糸をふんだん用いた服は、到底、なりそこないの給料でまかなえるものではない。金髪を結い上げ、宝石のついた髪飾りをさした姿は、貴族の令嬢として通る雰囲気を持っていた。
「つまり、オルタシアは、これまで通り彼に使い魔契約は必要ないと言うのだね」
 ああ、そうさ、とユミルは暗がりに向けて、杯を傾けた。
「注意を払う必要があるとしたら《皆殺し》が死んだ時だ。人の形の亡骸が残るのか、それとも、人の心を失った霧の化け物に成り果てるのか。その時になってみないとわからない。……でもまぁ、仮にそれが街中で起こったとしても、新市街地が失われるだけのこと。なりそこないの街が失われたところで、ダリアロには何の痛手もない」
 むしろ、なりそこないどもに給与を払わずに済んで得するぐらいだ、と付け足すと、それは良いと暗がりで笑い声があがった。
 深紅の液体を飲み干すと、ユミルは椅子に座る足を組み替えるように、尾の向きを変えた。長いスカートの下からは二本の足ではなく、蛇の尾が伸びていた。
「あれは、そうだね。自分が飼い殺されてるのにも気づいていない。わざわざ使い魔契約を用いて、魂まで縛る価値もない。――一匹の、なりそこないの魔物だよ」
 そう言って、赤い、二股に分かれている舌で唇を舐めた。



  ・/・



 人型魔族が統括する王国、ダリアロの最下層、新市街地。
 この魔界で唯一、《なりそこないの魔物》が住むことを許された街。
 それが、戦時下における徴兵でしか無いのだとしても、彼らは他に行く先は無いのだ。
 下級魔族の更に下に配置されたなりそこないの兵士は、消耗品でしかないのだと知っていても、他所の獣にも劣る扱いよりはマシだと。
 そんな彼らだが、ダリアロ劣勢の気配に、何処か影を落としていた。
 市民権を与えられて居ても、それは魔族との雇用関係あってのこと。
 いつ、死地に追いやられても良いように、休みの日でも剣を振るう。
 己の能力を磨く。
 この小さな、なりそこないの生きる権利を守るために。
 これが、これまでガルガが見てきたこの街の日常。
 そして――。
「はーい。皆さん、休憩にしましょう」
 そんな悲壮感すら漂う訓練場の空気を破るように、元気の良い女の声が響いた。
 青空の下で、アルマはヤカン片手に手を振っていた。
 今日は、三角巾にエプロン姿で、髪は三つ編みにしていた。
 アルマは、ガルガの家で家事をする他に、こうして差し入れを持ってくるようになった。
 アルマが来る前と来た後で明らかに場のムードが違っている。朗らかに笑うアルマにつられるようにして、皆も冗談を言うようになった。
「ありがとう」
 アルマからタオルを受け取って、ガルガも草の上に腰を下ろした。
 アルマは皆に井戸で冷やしたお茶を注ぎながら、
「あれって、何してたんですか」
 壁際に並んでいる木人形を指さした。
 同じなりそこないの兵士が答えた。
「ああ、魔力を使った肉体操作の訓練だよ。こうね。ただ叩いただけだと、傷ひとつつけれないが――なりそこないの少ない魔力でも、上手く使ってやれば――っ」
 一度目は叩いたときは木剣は弾かれるだけだったが、二撃目は木人形が着ている鎧を深々と切り裂いた。
 おおーと、アルマが拍手をすると、手本を見せた兵士が照れくさそうに頭を掻いた。
「魔力が低ければ、低いなりに戦い方があるんだよ。火薬を使うのもその一つだ。威力が同じなら、全部を魔法で補わなくて良いんだ。むしろ、罠を作るなら火薬の方が良いぐらいだ。魔力は察知されるけど、火薬は匂いにさえ気をつければ発見されない」

 ――まぁ、普通はその火薬が手に入らないんだけどな。

 ガルガは内心で、兵士の説明に付け足した。
「私も兵士のお仕事って、手伝えないですかね」
 と、アルマが唐突に突飛な事を言うのにも、大分慣れてきた。
「まぁ、護身用にナイフ術ぐらいは覚えても悪くないか。教えようか?」
 コップのお茶を飲み干して、ガルガが声をかける。
 が、その声はアルマの耳には届かなかったらしい、アルマは隅に立てかけてある武具置き場で物色をはじめた。
「えっと、ここにあるのを使うんですよね」
 これは軽い、こっちも軽いと放り投げて、アルマが選んだのは先端に鉄球のついた長物だった。用意してある中で一番重い物だ。
 今いる兵士たちの中で、あれを使う者はいない。使っていた男は、もう、戦の炎に焼かれてしまったのだから。
「それは、アルマには重すぎるだろう。持てるのと扱えるのとは違うぞ」
 見かねて、ガルガが口を挟んだ。
「えー、そんなこと無いですよー」
 アルマは軽く持ち上げると、稽古用の木人形の隣に立った。
 いきなりは怪我するのではと思って、ガルガが立ち上がる。
「おい。アルマ」
 止めるのは間に合わなかった。
 アルマが大きく一歩踏み込む。勢いを損なわないように腰を回し、腕を振り抜いた。
 綺麗なフルスイングだった。
 着ていた鎧ごと粉砕された木人形が、根元から折れて宙を舞う。
 木のへし折れる音に、訓練場の全員の視線が集まる。
 アルマが手にしていた長物も先端が折れてしまっていた。
 遅れて、鉄球と木人形が落下した。
 全員が静まりかえる。
「あー……。アルマ。今、何をしたんだ?」
 みんな黙ってしまったのだから、ガルガが聞かねばなるまい。
 一方、アルマは折れてしまった根元をみながら、不服そうにほっぺたを膨らませていた。
「えっと、岩石さんのところって基本的に何でも金属でできてるんですよ。石だと食べちゃうし、木は少ないし……。だから、ドアやら食器やらにも金属を使うんですけど、これが重くてですね。水瓶なんて、あれ? もう水が入ってるのかな? ってぐらい重くて。それも慣れたんですけど……。こっちは、全部軽いから助かってます!」
「ほう。ずっと重い物を持ち運んでたから、力には自信があると。……で、今のは?」
「岩石巨人さんを起こすときにですね。こう、これじゃないんですけど、持ち手まで金属で出来てる棒を持ってですね。――こうっ。頭のこめかみあたりを狙って、起こすんですよ」
 喋りながら、アルマは残った木の棒をフルスイングしてみせた。
 鉄塊がなくなったそれは、風を切る音すらしなかった。
「でも、これやった後っていっつも腕が痺れちゃって。ガルガは、自分で起きてくれるから助かります!」
「……待て。俺が自分で起きなかったら、朝にソレをやる気だったのか」
「はいっ!」
「死ぬからっ。全身金属の連中と一緒にするな。頭潰れるわっ」
 ガルガは今日ほど、寝室が離れにあることを感謝した日はなかった。


「あっはっは。それで、その後、腕比べになって、男どもがアルマに負けたのか」
 痛快だとユミルが笑った。
 アルマが後片付けをしている間、食後のお茶を飲みながら言葉を交わす。
「笑い事じゃない。アルマは本当に資格を取りに行ったんだぞ」
「へえ。試験の結果は?」
「通ったよ。魔法の方はからきしだったが、身体能力には問題がないそうだ。あとは訓練して、武器の扱いを覚えたら使えるようになるだろうな。――ったく、あの身体で怪力なんてありか」
 渋い顔でガルガがぼやく。
 ユミルは頬杖をつくと、
「おそらく、アルマは持ってる魔力を全て怪力に回してるんだろうね。怪力は、魔力による肉体強化の一種だよ。あまりに自然にやりすぎて、本人も自覚してないのさ。魔法ってのは使えば使うほど身体に馴染んで、威力も高まっていくものだからね。そりゃあ、後から肉体強化の術を覚えた連中じゃ歯が立たないよ。たぶん、前の主人とやらが、そうやって魔力を使えるように教えたんだろう」
 自分の分析結果を話した。
 魔族の支配下で下手に攻撃魔法を覚えるよりは、ずっと良い。
 弱いと侮っているからこそ、見逃される事もある。
 前の主人を引き合いに出されて、ガルガが余計に不機嫌そうな顔になった。
「魔族となりそこないほどに魔力が違えば別なんだろうが……。だけどなぁ、性格的な向き不向きって物が、」
 ガルガの愚痴を遮って、ユミルが口を挟んだ。
「――それで、試験したといったね。彼女に能力の兆しはありそうだったのかい?」
「言ったとおりだ。認められたのは運動能力だけだ。能力なんてものが、あいつにあるかどうかはわからない。だから、あいつの扱いは俺の従者兼配偶者になってる。予備兵員だな。――予備兵員じゃ、市民権は与えられないってのに」
 ダリアロで市民権が与えられるのは、なりそこないの能力者だけだ。
 ただ腕が立つだけのなりそこないには、市民権は与えられない。
 アルマがしたことは、ただ自分が戦場にでるリスクを高めただけだ。
「でも、手当がでるからね。正規兵より額は小さいが、自分のお金で買い物をしたいこともあるだろうよ」
「賃金は俺から渡してるぞ。最初は心配だったが、意外に家事はやれてるしな」
「そこは美味しいと言わなくちゃ。おかげで、あたしもお相伴にあずかれてるわけだしね」
 ユミルはアルマに向けて、ウインクをした。
 どうやら、デザートに出そうとしていたお菓子を焦がしたらしい。三角巾から飛び出た三つ編みが右往左往している。
「お前、本当に毎日くるのな……」
 ユミルの視線に友愛を超えた物を感じて、ガルガは胡乱な目を向けた。
「そりゃあ、邪魔してや――いやいや、ガルガ坊ちゃんに度胸がないうちに手を出し――もとい。……そうそう、テムニィが泣いてたよ。独身紳士同盟が崩れたって」
「おい。今、無理矢理話題を変えたろ」
 同僚のそばかす顔を思い出しながら、ガルガは言った。
 アルマがフルーツの盛り合わせを持ってきたので、一旦押し黙る。
 どうやら、焦がした何かの再利用はあきらめたようだ。
「お茶がもう無いですね。お湯湧かしてきまーす」
 ガルガが、休んでも良いと声をかける暇もなく、アルマは踵を返してしまった。
 遅れて、にがっ、と台所から声があがった。
 ガルガはふっと笑みをこぼすと、アルマが好きな甘いフルーツをよけて手を伸ばす。
「しかし、良く笑うようになったね。来たばかりの頃とは大違いだ」
「そうか? 最初から、あんなもんだったろ」
 酸っぱさに眉をしかめて、ガルガが答える。
 ユミルが猫のような目を細めて、意地の悪い笑みを浮かべた。
「あたしが言ってるのはガルガ坊ちゃん。あんたのことだよ。ここに着たばかりの頃は、魔族と聞けばすぐに毛を逆立てて居たからねぇ。大事にしなよ。自分を変えてくれる相手ってのは、なかなか出会えないものさ」
「いや、俺は別に――」
 ガルガが言い返そうと口を開くと、アルマが戻ってきた。
「はーい。まだ熱いですからねー。……あれ? 顔赤いけど、どうかしたんですか?」
 ガルガの顔を覗き込みながら、アルマも席に着いた。
 ふてくされたガルガが、何でも無いとそっぽ向いた。


 ・/・


 星が瞬いていた。
「ユミルを送ったら直接寝室に行くから。先に寝てて良いぞ」
 そう呼びかけて、アルマとは玄関で別れた。
 会話が弾んで、すっかり帰るのが遅くなってしまった。
 寮とガルガの家との距離は近いが、間に無人の訓練場や木々の茂った公園がある。
 女一人では危ないからと、ガルガから申し出たのだ。
 魔力で生み出した光の玉が道を照らす。
「しっかし、ここのメンバーも変わったよな。今じゃ、俺が古株扱いだ。ユミル姐さんを差し置いて、な」
「そうだねぇ。早いもんだ。あたしの能力は戦闘向きじゃないからね。今も昔も、武器や食料を調達してくるのが仕事さ」
 ほんの十年前までは、まだこの辺りには宿舎と訓練所ぐらいしかなかった。
 《皆殺し》が戦果を上げ、なりそこないの有用性を認められてから、ダリアロは積極的になりそこないの徴兵を行うようになったのだ。
 今では、なりそこない用の新市街地が出来るまでになった。
「その武器。アルマの分、頼めるか」
「ふふ、急に送るだなんて言い出すから何かと思えば、それが本題だね。あたしの武器は、能力者にしか与えちゃいけないことになってるんだけど……良いよ。可愛いあの娘のためだもの、都合をつけるよ」
「助かる」
 ユミルは《鍛冶師》だ。
 魂の宿ってない品物であれば、魔法的な効果を好きに付けることができた。
 効果そのものは決して強くない。だが、《皆殺し》と同じく、この力は魔法とは別系統のも。魔族の圧倒的な魔力を前しても、効果が打ち消されるようなことはない。
 ユミルの作った武具に命を救われる者は多い。
 ガルガの服やローブにしても、彼女が作った物でなければ、ガルガが力を使った際に朽ちて砂に変わってしまうだろう。
「でも、融通を利かせれるのは武器か防具、どちらか一つだけだよ。書類上の名義は、あんたの武器だと言うことにするよ。まだあんたの武器は作って無かったからね」
「十分だよ。ユミル姐さん」
「あたしのオススメは治癒魔法のかかった防具だけどね。女の子の肌は綺麗であって欲しいじゃないか」
「わかった。アルマの戦闘スタイルが決まったら、聞いておく。――それじゃあ、おやすみ」
「ガルガ坊ちゃんのベッドが砂にならないと祈って。おやすみ」
 そう言って、ユミルは寮への階段を上っていった。


 用事を済ませた後の帰りの足取りは軽かった。
 公園にさしかかった所で、
「――――、――」
 ふと、誰かに呼び止められた気がして、足を止めた。
 木の脇に人影を見つけて、ガルガは声をかけた。
「テムニィじゃないか。こんな遅くまで飲んでたのか」
 先ほどの会話にも少し出てきた同僚だった。
 彼はガルガより、二年遅れてこのダリアロにやって来た。ユミルと同じに、まだガルガが能力を上手く制御できなかった頃を知っている友人の一人だ。
「そうだ。ユミルから聞いたぞ。誰が独身紳士だって……おい。怪我してるのか」
 様子がおかしいことに気がついて、ガルガは駆け寄った。
 血の匂いに眉をよせる。
 急いで肩を貸すと、テムニィの背中や腕から血がにじんでいた。
「悪い。振り切れなかった」
 自分で治癒魔法をかけているのだろう、頬の切り傷がふさがっていく。
「振り切れなかったって、一体何が――」
 ガルガの疑問は、頭上から聞こえた羽ばたき音が代わりに答えていた。
 風が渦巻き、周囲の温度が一気に下がる。冷気の魔法が来る前の兆候だ。
 躊躇する間もなく、ガルガはテムニィを抱えて、その場から飛び退く。
 冷気の刃が、木々を凍らせ、地面を切り裂いた。
 切断された幹はすぐに凍り付き、つなぎ止める。
 深い亀裂の周囲は凍り付いていた。
「そこのなりそこないっ! 邪魔だてするなら、相手になるぞ!」
 見上げた夜空に、白い蝙蝠の翼を広げた魔族の姿があった。
 毛皮を巻いた胸当ての中央には、一角獣の印が彫り込まれていた。
 何より、その全身から発する魔力の強さには覚えがあった。
「――魔王の使い魔かっ!」
 一角のモチーフを身につける事が許されているのは、魔王の血族か、魔王に魂からの忠誠を誓った魔族だけだ。
 この最下層で姿を見せるとなれば後者、魔王の使い魔だ。
 空に浮いている使い魔の背後に、白い塔が見えた。
 




>>5に続く
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