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『にゃん!にゃん!にゃん!』 壱

Category散文
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ツイッター診断で出た結果にときめいたんで、掌編でも書いてみた。
読みたいって思った勢いメモ。


お題/次の新刊タイトル決まったー
http://shindanmaker.com/199417
新刊本『にゃん!にゃん!にゃん!』を出す予定です!甘甘で時代ものです!出なかったらごめんね!



≪にゃんにゃんにゃん・壱≫

 山深くの廃屋で一匹の猫娘が暮らしていたのさ。
 主人はもう亡くなって、けれど他に行くでもなくその家を守ってたのさ。

 ある日、童が一人で迷い込んできた。
 一人で山に遊びに来て、迷子になったんだ。
 猫娘は童を脅して追い返そうと思ったのだけど、大きな腹の音がしてね。
 泣きべそで恥ずかしそうにしてるのが、情けないやらおかしいやらで、気が変わったんだ。
 その童を助けてやることにした。

 村はこの道を真っ直ぐ下るんだと、途中まで案内して見送ったんだ。
 久しぶりに人間と話して、楽しかったのもあるね。
 でもまぁ、大した縁じゃなし、これで終わりだと、そう思ったんだ。

 ところがその童、遊びに来るようになっちゃったんだ。
 名前をせがまれたから教えたら、「ねこー、ねこー」って気安く呼ぶようになった。
 大きな声でね。「ねこーねこー」って呼ぶんだ。
 それが猫娘には懐かしくてね。頭を撫でてくれた手の平の感触を思い出すんだ。

 その日から廃屋は、童と猫娘の遊び場になったんだ。
 童は毎日すくすくと成長していくけど、猫娘は出会ったときのまま大きくならない。
 丁度、お互いの背丈が同じぐらいになった頃、急に童が来なくなった。
 一日待って、二日待って、三日目には猫娘は辛抱貯まらなくなって、人里に下りてみたのさ。


「盗人が捕まった。子供の盗人だ」
 そんな話が聞こえてきた。
 童が、助けてくれたお礼にといつも猫娘に持ってきた物は、全部盗んだ品物だったのさ。
 だが、例え子供でも咎人だ。盗みは死罪だ。


 暗い牢の中で、童はべそをかきながら、「もうしないよ。許してよ」と喉がかれるまで言い続けた。
 夜が明けたら処刑場行きだ。
 童は常習犯だったから、幼いからと許して貰えなかったのだ。
 許して貰ったら、また盗みを繰り返していたから。

 そんな中、猫の子一匹通れるぐらいの小窓を通って、猫娘が牢の中に忍び込んできたんだ。
 驚く童の縄を噛み切って、外に逃げるように言ったんだ。
 「ねこはどうする?」と聞けば、「誰かが裁かれないと、ずっと盗人のまま追われるだろ?」
 そう言って、猫娘は童の姿に化けたんだ。

 暗闇に紛れて外へと逃げ切った童は、振り返ったんだ。
 死ぬのは怖くて、罪人でいるのも怖くて。
 追われ続けても良いから一緒に逃げよう、って猫娘に言えなかったんだ。


 途中でお供え物や畑の作物に手を付けて、隣町に辿り着く頃にはすっかり日が登っていた。

 町では、盗人を処刑したらその死体が猫になった話で持ちきりだった。
 物の怪だ。妖怪だ、と大騒ぎになったんだ。
 これは、お祓いをしてもらわないといかんという話になったそうだ。

 裁かれたという罪人とその猫の死体が誰なのか、童にはすぐにわかった。
「ねこが代わりに死んでくれた。これで自分は助かった」と、なぜか喜べなかったんだ。
 居てもたってもいられなくなって、顔を隠し、夜を待ってから処刑場に戻ったんだ。
 妖怪だから触れてはいけないと、打ち捨てられていた猫の死体を懐に入れて、駆けだした。

 人里離れた山道に入ったところで、気づけば童はずっと猫娘に謝り続けていた。
 懐の猫は軽くて、固くて、冷たかった。
 月明かりの下、息を切らせて道に座り込んだ。
 猫の死体を撫でながら、どうしてか安らかなその小さな頭に触れて、涙をこぼして言ったんだ。
「一緒に行こうって言えば良かった」
 そもそも、盗みをしたのは猫娘のためだ。
 それを忘れて、どうして置いて言ってしまったのか。
「一緒に、よその村に行けば良かったんだ」
 後悔で胸が締め付けられた。

 そしたら、聞き慣れた声がしたんだ。
「そうだな。主となら、あの家から離れるのも良いかもしれんな」
 顔をあげると猫娘が立っていた。
「どうした。呆けた顔をして、お主はほんといつ見ても泣いてばかりだな。
 大きくなっても、出会った頃となんもかわりゃせん」
 猫娘はいつも通りの笑い顔でそこに居たんだ。
「ああ、その猫か。……ふふ。なぁ主よ。我はいつ、”生きている”と言ったか?」
 死んでいた猫が、童の腕の中で息を吹き返した。
 手元からぴょんと飛び出すと、あくびしながら伸びをして、毛繕いを始めた。
 けれどその身体は死んだままだ。

 やっと童にも、”妖怪”が何なのかわかってきた。
 猫娘が童の肩に腕を絡めて笑う。鋭い八重歯が見えた。
「さあさ、何処へ連れてってくれるのかのう」
 そう言って、猫娘がごろにゃんと頬をすりよせてくる。
 膝の下、足下で猫が身をすり寄せてくる。

 こうして、妖怪に捕まった童がひとり、猫憑きとして生きていく。



 妖怪たちの間で、猫又と一緒に暮らすあやかし退治の青年の話が囁かれるのは、まだまだ先のこと。
 今宵はこれにて。



<終>




先に「妖怪退治を生業にするけど臆病な青年とお供の猫娘の話」があった上での、二人の出会い編・過去話ぐらいの位置づけで書いた。
もちろん、妖怪退治本編など考えてない。


「猫娘、少年(童)、妖怪」をキーワードに、
似たような設定で、ストーリー違いをいくつか考えたんで、もうちょっと続く。

甘々……。
某ハートフル殺人鬼は甘々ではないって言われたんで、
あれよりは幸せそうな終わり方に近づけるので手一杯でする。むずい。