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cup 裏方-人類救済機構編

2013.08.15 Thu
さー、進みが悪いからプロット晒しがはっじまるよー。

完全ネタバレなので、小説版読むのをあきらめてない人はみちゃだめです。


この先、作者用メモです。
いつ何処で誰が何して、作者的にはどういう意図があるか書いてあります。
箇条書き羅列とシーン断片、内容の重複が多々あります。
作者にしかわからない電波も大量にあります。

他の人からみても、
なんとか読めなくもないレベルへ持ち上げようとして空回った。


最低限、読めそうな形に直せそうだったら、この記事消すねー。


ver違い 
原案初稿第二稿第三稿第四稿第五稿




■歴史的に発生すること。
・新生ギルド誕生。
・イズルが「焔の英雄」と呼ばれるようになる。
・己の正義を追い求めた果てにクロス死亡。後世には「大罪人」として名が残る。
・新人として次代を担う子供達、テッタとメーがハンターに。



原案 2008/09/23

状況:
イズルはギルドの中でも取り扱いに困り、本部待機命令を受けていた。

展開:
人類救済機構と吸血鬼連盟の癒着が明らかになる。

結末:
ネオギルドを設立。クロスは一人、大罪人の汚名を着る。


※ギルド戦で初めて剣で人を切ったイズルは、人間は刀傷のみで炎上しないことを知る。
ただ、魔術師は焦げる。灰にはならない。


■プロローグ

セクトの里帰り
・黙祷をささげ、セクトが崩れた遺跡に再潜入、ランタン片手に何かを調べている。
・簡易シェルター、内部はまだ生きている。正直凄いと関心。
・伝承を口ずさむセクト「希望の塔は崩れ~」
・古い世界地図、海図の書き込み。孤島の印。ここが、楽園のありかだと。
・早く兄さんにしらせないと……部屋の出口に居る監察官クロス。


・歓声が聞こえるなか、着慣れない正装に戸惑っているイズルをテティスがサポート。
「あー、俺もセクトと一緒に里帰りしときゃ良かった」
・街の式典。ガイアとテティスが、英雄としてイズルを紹介する。
・数々の困難な任務をやりとげ、十年以上も人類のために尽くしてきた人物。
・ガイアとテティスが何者かを示す。
・イズルは、人類救済機構の誇りである。と。
・ガイアはそのまま世界観を伝える演説を続け、イズルは早めに裏にひっこむ。

・テティスに愚痴。
・これもギルドの仕事よ、とウィンクするテティス。
・英雄と呼ばれたベテランハンターといっても、いつかは。
・イズルの耐用年数がすでに過ぎているということ。
・次の任務の話。俺の出した要望。連盟のアジトの調査進行。などを問いかけ。
・「焦らないの。あなた、働きすぎよ。ワーカーホリック」
・「私たちは、あなたのようなベテランには教わることがたくさんあるのよ。
お体をご自愛下さい。焔の英雄さん」




■1、魔剣の主/Aパート
・健康診断中のイズル。ふてくされ投げやりな返事。
・特に11年前の吸血鬼退治について触れられる。
・ミラについて触れられ、怒って部屋を出る。

・メーとテッタが、イズルを発見。
 新人ハンターとしての依頼を達成した二人を褒めるイズル。
・「イズルさんの式典。僕らも見たかったなぁ」
「お前ら、すくすく育ちやがってよぅ」見上げる形に。
・テッタは目をキラキラさせて嬉しそうに照れて、メーがイズルにまとわりつきだすとあわてる。
・で、メーに冷たくあしらわれてなみだ目。
・楽しそうに笑うイズル。

・テティスが護衛付きでやってくる。あくまで善人で。
・ここでメーがイズルの養女であること、テッタが助けられた少年であることを示唆。
・テティスがイズルに馴れ馴れしいので、むっとするメー。
・「あーでも、俺、アイツにプロポーズされたことあるんだよな」
・ナヌなメー、びっくりなテッタ。
・「アイツが六歳の時に」
・……やっぱりなーという顔。
・「吸血鬼連盟に仕掛けるときは絶対誘ってくださいね。それまでに僕ら、腕をあげますから!」
・そうと決まれば修行だと駆け出すテッタとメー。
「若いねぇ」
・見送るイズルが柱にもたれると、その後ろから声がする。

・相変わらず、気配を経つのが上手い。イズルたちの元監察官クロス。
・場所を知っても希薄すぎて、本当にそこに生きている人間がいるのか疑うほど。
・長年ギルドに使えてきた重鎮であり、今では古株扱いになっている。
 前線に出るより、指示を出す立場に。それでもこれまでの経歴にしては、低く泥臭い地位。
・上層部の老人たちの中では、若手として煙たがられている。
・晩にセクトの研究棟で話があること。「明かりはつけずに待っていてほしい」



■2、白の賢者/Bパート
・セクトの館で待機しているイズル。
・本部の敷地内の一角、魔法実験を行うため広大な土地を借りている。
 二階建て、そこそこいい屋敷。
・セクトの地位や立場も示す。
・クロスと一緒に現れたのは、セクト。予定より早い帰宅。
・ここでもクロスの気配の薄さや、顔色の悪い複線を。
・つもり話は後にして、今は監察官の話を聞いて欲しい。

・イズルが吸血鬼連盟に直接立ち向かえる日は来ない。
・人類救済機構は、吸血鬼の支配を容認している。不老不死があるゆえに。
・クロスから、吸血鬼連盟と人類救済機構のシステムが似通っていることを伝えられる。
・向こうは始祖が納め、人間の中でも危険なハンターに、不老不死の薬をえさに賞金をかけている。
・ギルド長が治め、魔物に賞金をかけているこちらと酷使している。

・セクトからの結果の発表、楽園。つまりは魔物が最初に発生した場所をつきとめたこと。
・11年経った今も、イズルがまだミラの件を引きずっていること。
・イズルの立場とセクトとの関係を再度示し。
・イズルが若干おかしいところ(剣に狂いかけ)も示し。無自覚。

・自分たちで行くというイズルに、船が出ないことを指摘。
・船はでない。そしてイズル、貴方はここを出ることが許されない。
 不老の体現者であるあなたは。
・イズルが不老不死の秘密を手に入れてるのではないかと疑われているということを伝える。
・「私からは不老不死、というより、魔物に近づいているように見えますがね」


・「簡単なことです。こんな人類救済機関なんて組織、解体しましょう」
・「作り直す必要があるんですよ。新しい、真の意味での救済となる組織にね」


・のったと賛成したのは窓の外から。
・メーとテッタが入ってくる。
・メーが使ったのは惑わしの術だ。魔物しか使えない術。


・あきれ気味のイズル。
・乗り気のクロス、
「まぁ、私としては、メーさんの無事を願うのなら、早いほうがいいかと。正体が魔物であるとばれたらどうなるか」
「メーは魔物じゃない!」テッタ猛反対。
「おやおや……」
・みんなが乗り気の中、反対するイズル。少なくとも、セクトやメー、テッタは巻き込めない。
「わかってるのかお前ら。魔物じゃない。人を、同じハンターとやりあうって事だぞ」
「それもギルド上層となれば、手加減できる相手じゃない。人を、殺すことになるんだぞ」
「この体は人の規格から外れてるかもしれねぇけどな。人道に反することは、やらねぇ」
・「魔物よりもね。人の方が性質の悪いことも多いのですよ。」
・「それは、あんただろう」


・「ええ、まぁ、その通り。私はね。あなた方がここに集まってくれればそれでよかったのですよ」

・テティスが護衛+精鋭付きで現れる。
・魔物の娘をかばっていたという知らせが入った。メーを引き渡せと。
・こんにゃろぅなイズル。どちらにせよクロスはやらせる気だったのだ。
 だから、クロスは、嫌いなのだ。



■3、赤き魔女
・いきなり姿を見せて啖呵切るメーを、大慌てで矢の前から引っ張りおろすテッタ。
・「ふん、だ」
・イズルが表に出る、テティスとの会話。
・テティスがイズルを尊敬していること。
「貴方が魔物に魅入られたなど信じたくなかった。」

・初めて人間を斬ることになるイズル。
※ギルド戦で初めて剣で人を切ったイズルは、人間は刀傷のみで炎上しないことをしる。
ただ魔法使いはわずかに燃えるが、焦げる程度で灰にならない。
(後のvsイサンテにて、イサンテを切り殺しても炎上しないことで人間だと知る)
・魔法使いから優先して狙う。
・だが、魔物を殺す時とは違うえもいえぬ高揚感。
・同じ、技術を身につけた強い人間と戦うのが、楽しいのだ。

・戦闘が不安なテッタは、メーとセクトがフォロー。
・「イズルさんは……?」「兄さんなら、ほら。一人で大丈夫だよ」

・イズルの活躍にあっけにとられているテッタ。
 八年前、彼に助けられた時と同じように凄いと思う反面、恐ろしいとも感じる。
 昔は感じなかった恐れ。
・メーはさすがイズルだと、陶酔した目で。
・「イズルはね。木でよーく熟してる木の実みたい。こんなのみたことない」
・「魔物をたくさん殺して、月の光を浴びて、イズルの中、すごいことになってるの」
・メーが早く成長したように、イズルの老いはひどくゆっくりになっているのは、
 蓄えてた魔力に合わせた体ができてきているからだ。


・つらそうなテティス。騒ぎの中、しれっと後から到着したフリをして声をかけるクロス。
・一度下がり、本部に戻って増援の要請とギルド長に声をかけることを進言。
・父が祈りの部屋にいること、それを邪魔する事は禁じられている。が、今は非常事態。やむなしか。
・テティスと共に、この場を退く。

・クロスの動きにいち早く気づいたイズル。
・「おい、メー。構わねぇ。こいつの館ごと燃やしちまいな」
・「構わないって、兄さん。ここは僕の――」
・「炎を出したら、すぐに幻術で奴らの目を撒くぞ。できるな、メー」
・「テッタ。メーの術が完成するまで、やられるんじゃねぇぞ」
 飛び出すイズル。
 やがて館が炎を吹き上げ、どさくさに紛れて、脱出する。



■4、魔女の騎士

・セクトに傷を治してもらっているテッタ。短い時間だったというのに満身創痍。
・「俺はクロスの後を追う。メーとテッタはいつもの洞窟に先に行ってろ」
・ついてくるというメーに、「テッタがもう限界だろ。無理させんな」メーの頭をぐりぐり。
・しぶしぶ納得するメー。謝りながら申し訳なさそうなテッタ。
・イズルはセクトに声をかけ、クロスの後を追っていく。

・魔物に魅入られた騎士。
・テッタとメーのやりとり。「もしも、この先失敗したら、一緒に行かないか」
・昔話も交えて、死亡フラグっぽいのを立てまくるテッタ。

・「あのね。あたしは、弱っちぃ人間には興味ないの」
・魔物が人を襲う理由。人がわずかながらに持っている魔力を取り込むため。
・人族は人より魔力が高い。でも、魔力の放出ができるようになる成人よりも、子供の方がいい。
・しれっと図星なことを言って、メーに怒られるテッタ。


・祈りの部屋は、ギルド長の許可を得たものしか入ることができない。
・それは精神論ではなく物理的に、扉が開かない。その扉の素材は謎のまま。
・自動ドアに、手の平と声門認証。音もなく開く滑らかな動き。あきらかに異質の文化。

・テティスの案内で祈りの部屋の見張りをかわし、中に入ったところで、クロスが剣を抜く。
・幹部会の屋敷が襲撃を受けた報告を持ってきた伝令が入ってくる。
・どれもクロスの息のかかったハンターばかりであることを言いかけた所で、クロスが居ることに気が付き。そのまま斬り殺される。
・表で見張りが闘っている剣戟がきこえる。
・数歩下がるテティス。
・クロスはいつもの営業スマイルを浮かべて、剣を突き付けた。
「なぜ、私がこの部屋に入れないのか、考えたことがありますか?」



・祈りの部屋=通信室。
「そういえば、最近。あの子はどうした? しらばっくれるなよ。あの魔剣使いだよ」
・通信機の存在、こちら側のモニタは壊れているがカメラは生きている。
・通信相手は、吸血鬼連盟の重鎮。始祖、本人。
・案外若い声をしている。声変わり前の少年か、女性の声。
・始祖からは、部屋の様子が見えている。
「おやおや。ガイア、これはどういうことだい」

■5、大罪人
・イズルたちがつくと、騒動がおきている。
・「クロス様を助けてやってくれ」
・「あいつ、セクトの館をおとりに使ったんだ。
 手伝って欲しいとか抜かして、全部一人で片付ける気だったんだよ」
・遅れて到着した、イズルとセクト。


・クロスからの宣言。
・ギルド長が創設者の代理人にすぎないこと。
・その創始者が、吸血鬼連盟の始祖と同一人物であること。
・通信機の向こうでの笑い声。
・ガイアは堂々としたもの。

・何も知らないテティスは、父の言葉に愕然として。
・テティスが父とこれまでの名声をとるか、汚名を被るのを承知でイズル(クロス)側につくかは自由。

・これが人類が救済される最善の道だった。
・吸血鬼連盟が用意したリストを元に、人類救済機構が賞金を定める。
・魔物の中にも勢力争いがあり、邪魔なものや、無作為に狩りをする魔物を戒めるのに使われていた。
・そして、時に、その狩りを見逃す。
・吸血鬼に生贄になる子供をささげていた村と何も変わらない。

・vsガイア&古代の防衛装置(機械)、彫像(戦闘用ドール)。
・装置はどれも始祖から、代々のギルド長に授けたものであり、逆らったら殺すためのもの。
・機械にはイズルの魔剣が通じない。
・怪我を負うが、ガイアを倒し(殺害)


・始祖からの優遇処置の提案。
 人類を治める人間が誰でも構わない。
・当然、クロス、セクト、イズルは断る。


・憑き物が落ちたようなクロス。
・「これで、吸血鬼連盟は本気で攻めてくるでしょう。私は大罪人と罵られることになるでしょうね」
・「ばーか。まだこれからだろ。組織の再編集、もう上位を固める人間は用意してあるんだろ」
・「……そうですね。まだ、これからだ。
 さぁて、これから忙しくなりますよ。まずは、残った旧陣営を捕らえなくてはなりません」
・「魔法使いは何人いる。そっちは俺が行くよ」
・先を歩くイズル。
・後ろで聞こえる、独り言のようなクロスの声。

・「やっと、やっと貴方たちの敵を取れた」
・「ああ、でも疲れたな。姉さん」
・「んだな。でも、しばらくは寝れない日が続く――――」
 ガランと、剣の落ちる音。
 いやな予感。覚えのある感覚。
・振り返るとクロスはおらず、その後ろにいたセクトが唖然と床に落ちた彼の剣をみている。

・セクト、またはテティスから。期限の話。耐用年数。
 人間の身でありながら、彼は長く夜を出歩きすぎた。
・「もしかしたら、寿命はとうに尽きてたのかもしれない。
 精神力だけでもたせてたんだ。魔物化しなかっただけ、マシかもしれない」
・「……はっ? ふざけんな。またかよっ、散々引っ掻き回して、それでどっかに行っちまうんだ」



■エピローグ

・クロスの剣(銀製/蟲姫に出てないかチェック)は、テッタが受け継ぐ。

・ますます地位が上昇してしまったセクト。
・吸血鬼連盟に攻め入るにも、まだ日数がかかる。
 なにせ船を作るところからはじめないといけない。
・また、各地域の魔物退治はこれまで上手に制限されていたが、
 それらを魔の領域から取り替えず必要がある。

・「それから、兄さんは。はい」
・礼装を渡されて、苦い顔のイズル。
・「焔の魔剣使いは、人気があるんだよ。だから、広報と営業をよろしくね」

・組織名はそのままでいいのか聞かれて、そのままでいいと答える。
「地方に住む人にとっては、今の名前で定着しているからね。
 ただ、上の人間が変わっただけに見える方がいい」
「……謀反を企てた大罪人のクロスが、ガイアと相打ちになり死亡したってシナリオは、誰が書いたんだ」
「彼が自分で用意してました。本当に討ち死にを覚悟していたのでしょう。
 実際、あの部屋にあった無人兵器は見事なものだ」

・魔剣の秘密。機械に通じず、人にもいまいち、魔法使いはそこそこで、魔物には抜群の威力を誇る。
 反応しているのは魔力だ。魔力の無いものや少ないものには、ただの剣になってしまう。


・連盟討伐までに強くなってみせるーと頑張ってるテッタ。
・手伝うメー。


▲戻る



初稿


■前書き

 広場には英雄を一目見んと、多くの人が詰め寄せていた。
 壁の上に立つのは三人。

 威風堂々たる風貌の男は、人類救済機構の長。
 青いドレスを着て微笑んでいる清楚な少女は、彼の娘。
 そして、最後の一人は《焔の英雄》。

 炎の魔剣を操り、呪われた魔の生き物を灰燼(かいじん)に帰す。
 彼ほどのハンターはこれまでになく、魔物にもその名が知れ渡るほど。
 
 狂える月が支配する夜は彼の戦場(いくさば)。
 人々にやすらかな眠りを届けるために、彼は剣を振るう。
 救われた村は数知れず、助けられた人々はあの日、眼にした炎の色を忘れない。

 暗闇を蒼で染め上げ、魔物の他は草一本焼くことのない、あの炎を。
 あの炎の使い手を。

 ありとあらゆる賛辞を贈られても、決して表には出てこなかった彼が今日、初めて姿を見せる。
 広場からはとうに人が溢れているというのに、それでも人は集う。
 勇猛果敢な戦士の姿を胸に描いて。



■プロローグ

 広い森の一角、渓谷から白い噴煙が舞い上がった。
 一枚岩で出来た白い巨大な建造物の前に、銀髪の青年が立っていた。
 二十歳ぐらいに見える青年の長い銀髪からは先のとがった耳をのぞかせていた。
 先の尖った耳は人間の亜種である人族の証だ。
 マントの裾で鼻と口を覆い、行く手を阻む瓦礫に杖を向けていた。
「我請うは、魔を絶つ聖刃――シャリンガ!」
 呪文と共に生まれた光の槍が、積み重なる瓦礫に突き刺さる。
 爆風とともに粉塵が体に吹き付けた。
 何度も繰り返して、ようやく最後の瓦礫を取り除くと、セクトは肩に積もった粉を払った。
 水音が戻ってくる。セクトの足下、透明な床の下を川が流れていた。
 靴の裏からはざらりとした砂の感触を伝えてくるのに、その砂は目に映らない。
 姿隠しの術だ。
 昔は、目の前の遺跡そのものが、この床のように姿を消していたのだ。
「白の魔法でも傷の一つないなんて……簡易シェルターでこれだってんだから、旧世界って奴は」
 セクトのつぶやきには、どこか畏怖の念が混ざっていた。
 瓦礫の無くなった入り口には、上下左右に板が飛び出していた。
 開閉できなくなった扉の一部だ。
 壊れた扉の表面を手でぬぐうと、白い光沢がみえた。
 白の魔法がもたらす消去の力は、人類が扱える六種の魔法の中で最も強力なものだ。
 その威力は火薬の比ではなく、魔物に対して絶大な効果を発揮した。
 魔力を帯びていない物質であれば、壊せない物はないとさえ言われている。
 それが、手加減したとはいえ、数千年前の遺跡の壁に穴が開かないどころか、引っかき傷の一つもつけることができない。
 この遺跡が建てられた時代には魔法など無く、対魔法処理など考えてもなかったはずなのに、だ。
 セクトは、入り口の前で黙祷してから中へと踏み込んだ。



 壁や天井に埋め込まれた照明が、白い無機質な通路を照らした。
 内部の空気は驚くほど澄んでおり、埃などは溜まっていない。
 魔法でもランプでもない明かりが、いかなる原理で灯っているのか。
 要所要所に使われている金属が一体何なのか、セクトにはわからなかった。
 これは全て、ロストテクノロジー。遠い昔に失われた技術だ。
 旧世界の最盛期には、地上には百億近い人間が暮らしていたと言う。
 人口一万を超える人間の都が数えるほどしかない現在と比べると、とほうもない数だ。

 旧世界は、魔法が無い代わりに機械文明が発達していた。
 機械の人形は意志を持ち、召使いとして人に仕え、人間は大いに繁栄していた。
 しかし、奇病と魔物の出現によって、その繁栄は終わりを告げる。
 一部の人間は、ドームと呼ばれる楽園を築いてそこに避難した。
 その楽園の場所は誰も知らない。
 外に残された人類は、何千年を経て、魔物と戦い続けている。
 どれだけ数を減らし、人類の生活圏の多くを魔物に奪われていても。
 かつての機械文明が失われたとしても、まだ人は滅びていないのだ。
 たとえ、この遺跡の住人が全滅したのだとしても。


 扉の正面に立つだけで、音もなく扉が開いた。
 旧世界の人間は、自分で扉を開けることもしなかった。
 初めてこの遺跡に入った時は驚いた自動ドアも、慣れてしまえば何も感じなくなってくる。
 いくつかの部屋を通り過ぎて、開けた空間に出た。

 緑が溢れ虫が飛んでいた。白い格子状の天井は三階までの吹き抜けになっていて、青空が見える。
 かつては憩いの場として、食料生産の畑として機能していた中庭は、降り注ぐ日の光の下、好き放題に伸びた草花で埋まっていた。
 各々が競い合って勢力を広げている様にセクトは一瞬、戸惑うと、
「そうか……ここは《管理人》の担当か」
 何処か寂しげにつぶやいた。

 十二年前、遺跡に迷いこんだセクトと兄を《管理人》が出迎えてくれた。
 彼女は、旧世界の事を沢山話してくれた。
 馬の入らない車輪だけの乗り物、夜も明るい町並み、夏も冬も暖かな家々。
 目を閉じれば、瞼の裏にはいつでも、綺麗に整えられた中庭でお茶をした時間を描くことができる。

「僕らは《管理人》から旧世界の話を聞いて、ドームと呼ばれた楽園(エデン)の存在を信じたんだ」

 まだ幼い子供だったセクトと兄は、《管理人》が人間だと思いこんでいた。
 こんな寂しい所で一人で暮らしていないで、村に来るように誘ったりもした。
 その《管理人》も壊れてしまった。
 何も知らなかった自分たちが、彼女に死の概念を教えてしまったからだ。
 建物と違って、人間そっくりの姿をした機械人形は繊細で、技師の手によるメンテナンスなしに動き続ける物ではなかったのだ。
 最近まで生きていた技師など居ない。
 シェルターが建てられて、二百年と経たずに彼女は独りきりになっていたのだと知ったのは、彼女が動けなくなってからだった。
 とうの昔に壊れたはずの《管理人》が動いていたのは、魔力によるものだ。
 《死》を知らない彼女は、《壊れる》事も理解していなかった。
 ここでずっとみんなの世話をする事だけを願っていた。
 魔法の基本は、願うことだ。
 呪文や杖といった物は、魔法を使うための補助にすぎない。
 魔力によって動いていた機械人形は、ベッドから出てくることのなくなった人々の世話を続けていた。
 いつか、彼らがまた中庭に集まって、楽しく交わす言葉に耳を傾ける日を夢見て。
 《管理人》が失われた事を今は惜しく感じる。
 彼女は旧世界の生き証人だった。
 彼女からもっと話を聞くことができれば、こんな手間をかけずに済んだものを。


 セクトは草をかき分けて中庭を突っ切ると、目に映る部屋を片っ端から調べて回った。
 居住スペースとして使われていた部屋には、人の暮らしていた名残があった。
 物をどけ、引き出しという引き出し、戸棚の全てを開けて、ベッドサイドの小物まで調べる。
 ボロボロに朽ち果てたテーブルクロスをはぎ取り、卓上の装置に触れる。
 装置はどれも反応が無かった。
 壊れているのか、それとも動かし方が間違っているのかわからない。
 ただ、探すしかなかった。
 いつしかセクトは、ふもとの村で伝わる詩を口ずさんでいた。


   希望の搭は崩れ
   魔の国からの門は開かれた

   月は悪意に汚れ
   夜は狂気に彩られる

   世界の半分は魔の領域となった
   月に魅入られし子らは
   夜と共に永劫の時を彷徨うだろう


 童謡と言うには、禍々しい詩だ。
 しかし、この詩は本物だ。
 《管理人》が言っていたからだ。
 このシェルターの人間は、《希望の塔》から避難して来たのだと。

「かつて、一つの楽園が汚染され、月の光は毒となって人々の体を蝕むようになった。今や世界の半分――夜は魔物の時間だ」
 恐らく、旧世界を滅ぼした原因の一つである奇病は、月毒の事か、それに近いものだろう。
 魔法の源である魔力は、様々な奇跡をもたらす反面、副作用の強さも知られている。
 新しい種族である人族と違って、魔法のない時代からの古い種族である人間には魔力への耐性が無いに等しい。
 現代でそれなら、昨日まで魔法が存在していなかった時代の人間への副作用は酷いものだったろう。
 今生き残っている子孫たちは、まだ魔力への耐性が強い者たちなのだ。
「旧世界を滅ぼした奇病は、魔物と共にやってきた。月が毒を出すようになったのが、《魔の国からの門》が開かれたからだと言うのなら。門を閉じれば魔物の時間がなくなる。夜を人の手に取り戻すことができる」
 外れの部屋を出ると、入れ違いに小さな機械が入っていった。
 子猫ほどの大きさの機械が、掃除しにきたのだ。
 隣の部屋も、その隣の部屋も同じようにセクトは、片っ端から部屋の中身をひっくり返していった。
「門を守っているのは、月に魅入られ永劫の時を彷徨う魔物――吸血鬼だ。門は吸血鬼連盟の本部にある。そして、その場所は《希望の塔》があった楽園だ。そこまではわかってるんだ」
 強力な魔法を操り、人間から仮初(かりそめ)の吸血鬼を下僕として生み出すことのできる魔物の王吸血鬼。
 この地上の半分近くが、吸血鬼とそれに組する魔物の支配下にある。
 人食いの魔物でありながら領主として村を治めている地域も少なくない。
 ハンターに退治できるのは、吸血鬼の下で働く魔物か、何処にも属していない野良がせいぜい。
 吸血鬼殺しの腕を持つハンターの数は、片手で足りるほどしかいなかった。
「楽園の扉を開くための切符は《管理人》から譲り受けた。問題は場所なんだ。希望の塔の在処さえ分かれば」
 セクトは懐から出した金属のプレートを机にたたきつけた。
 手のひら大より一回り大きいプレートは、ここで《管理人》から譲り受けた物だ。
 これがあったから、兄弟は村を飛び出し、魔物を狩るハンターをしながら各地を巡って、いつか楽園にたどり着く夢を描いた。
 機械までも人間にしてみせる夢のような場所だと思い込んでいた。
「奴らの領域を手当たり次第に巡るなんて、兄さん一人じゃできっこない。何でも良い、当時の日記のひとつも見つかれば、数が絞れたら――――誰だ!!」
 拍手の音が部屋に響いた。
 セクトは傍らに立てかけていた杖を掴んで振り返った。


「これは驚いた。まさか、個人で旧世界の遺産を隠し持つ者がいようとは」
 扉に全身黒尽くめの男が立っていた。フードで顔が見えないが、体つきは戦士のそれだ。
 見ているだけで肝が冷えるのは、男の本職がハンターではなく、暗殺者だからだろう。
「生きている旧世界の遺跡を見るのは、これが初めてですよ。これだけ高度な文明が失われてしまうとは、本当に惜しいことだ」
 男の言葉はどこか芝居じみていて、胡散臭さが抜けなかった。
 セクトは杖を突きつけているが、呪文には入らなかった。
 術が完成するより、男の剣が魔道師の首をはねる方が早いと察していた。
 いや、首をはねなくても、術の媒介になる杖を切り落とすだけで済む。
 懐にあるナイフ一本で太刀打ちできような男ではないと、セクトは良く知っていた。
「クロス。監察官職は引退したって聞いてたんだけど?」
「ええ。ですが、人類救済機構の誇る《白の賢者》様が里帰りなどで怪我をされては困りますから、影ながら護衛を勤めさせて頂きました」
「嘘だね。いや、建前かな。護衛なんて、今のあんたなら丁度良い部下の一人や二人いるだろう。立場をわきまえずに自ら赴いたのには理由があるだろ。あんたは無意味な行動をとらない人だ。まして、影が姿を見せるなんて……。人類救済機構には、旧世界の遺産を発見した際の報告義務なんて無かったと思うけどな」
「ありませんね。そもそも旧世界の遺跡の発見は困難を極める。魔獣の鼻をも誤魔化すというのだから、なかなかどうして……。魔法の概念すら存在しなかった時代の技術だというのに恐れ入る」
「心の揺らぎを何処かに置き捨ててしまった人間が、感動したふりなんかするなよ。さっさと本題に入れ」
「……酷い言われようですねぇ。この遺跡には本当に驚いているんですがね」
 漆黒の男は肩をわずかにあげ、フードの下で薄く笑った。
「さ、そろそろ物騒なソレを降ろしてくれませんか? これでは、貴方の大切なお兄様のお話をしたくても声が震えてまともに話せそうにありません」
 言葉とは裏腹に流暢な喋りで、セクトがずっと突きつけている杖を指さした。
 不快をあらわにしながらも、セクトは突きつけていた杖を下ろした。
「結構。相変わらずの兄思いでこちらとしては都合の良い事です。……しかし、まぁ、一つ心配でもありますが。人族は、その数が少ないためか近親者に惹かれる事が多いとはいえ、恋心を抱くお相手が同姓の兄弟はいかがなものかと。女性と話すのが苦手なら、こちらで良いお嬢さんを紹介できますが? 明日の人類のために貴重な魔道師の血筋には多く、広めて頂かないと」
「なっ……――五月蝿いっ。余計なお世話だ!!」
 セクトは、顔を真っ赤にして怒った。
 その様子にクロスは苦笑で返した。
 人族は強い。人間と違い、魔の溢れる世界に適応した種族だ。
 寿命は人間の倍ほどあり、魔法を使える者が多い。
 しかし、その精神は人間となんら変わりない。
 むしろ、長寿と丈夫さが災いして、幼いように感じる。
「さて、仮初の吸血鬼といい、貴方といい、魔物の娘といい。どうにもお兄様は、魔法を使うものに好かれる性質らしい。それは真なる吸血鬼の呪いをその身に受けたためか、それとも――」
「黙れっ! 話したいことはそれで終わりか。終わりだよな。消すぞ、お前」
 銀髪が風も無いのに舞い上がり、セクトの周囲で光が点滅する。
 詠唱に入らずとも魔力が表に作用しているのだ。
 綺麗なイルミネーションでしかないその光のひとつも、才のない人間にはそうそう作り出せるものではない。
「やれやれ、この間合い。どちらが有利か理解していただろうに。すぐに感情的になるのは貴方の悪い癖だ。早く利口になりなさい。大人になれない兄の欠落を補えるようになりなさい。件の吸血鬼が滅びた今、彼の呪いを解ける者は、もう誰も居ないのだから」
 漆黒の男が剣の柄に手を置いた。



■焔の英雄


 広場には英雄を一目見んと、多くの人が詰め寄せていた。
 壁の上に立つのは三人。

 威風堂々たる風貌の男は、人類救済機構の長。
 青いドレスを着て微笑んでいる清楚な少女は、彼の娘。
 そして、最後の一人は《焔の英雄》。

 炎の魔剣を操り、呪われた魔の生き物を灰燼(かいじん)に帰す。
 彼ほどのハンターはこれまでになく、魔物にもその名が知れ渡るほど。
 
 狂える月が支配する夜は彼の戦場(いくさば)。
 人々にやすらかな眠りを届けるために、彼は剣を振るう。
 救われた村は数知れず、助けられた人々はあの日、眼にした炎の色を忘れない。

 暗闇を蒼で染め上げ、魔物の他は草一本焼くことのない、あの炎を。
 あの炎の使い手を。

 ありとあらゆる賛辞を贈られても、決して表には出てこなかった彼が今日、初めて姿を見せる。
 広場からはとうに人が溢れているというのに、それでも人は集う。
 勇猛果敢な戦士の姿を胸に描いて。


        ./.


 歓声の大きさに、イズルは前に出るのを躊躇った。
 城壁の下にある広場には、街中の人間が集まっていた。
 この日のために、遠くからやって来た者もいる。
 南区は全ての店が閉まり、老若男女、子供も含めて、これほどの人間が集うところをイズルは見たことが無かった。
 強い日差しの照りつけるバルコニーで、壮年の男性が演説している。
 ガイア=アルバレット。この人類救済機構のギルド長を務めている男だ。
「世界の半分が魔の領域となった今、誰もが夜を恐れ、月の毒から身を隠している事だろう。魔物は利口で、残虐だ。人を惑わす術を使い。己が巣に招き寄せようとする。しかし、その闇の中を十年以上戦い続けた者がいる。多くの村を救い、数え切れないほどの魔物を退治したハンターだ」
 ガイアの演説は、風魔法の使い手が広場の隅々にまで運んだ。
 希少な魔道師がこんなくだらない式典に駆り出されていることに、イズルは苦笑した。
 イズルの服装は、いつもの黒のインナーではなく、今日のために用意された鷹が彫られた銀の胸当てに、豪奢なマントを羽織っていた。
 先ほどから顎に触れているフリルや袖口から覗く白いレースが、肌触りこそ良いもののどうにも落ち着かなかった。
「まるで仮装だな。こんなだったら、俺もセクトと一緒に休暇を取るんだったよ」
 そうぼやいて、褐色の手が前髪をかきあげる。
 整えた髪が乱れてしまったが、綺麗に撫で付けてある髪よりよほど自分らしいというものだ。
「そうぼやかない。魔物と戦うよりは、ずっと楽な任務でしょう?」
 ガイアの隣に立つ少女が、舞台の袖に控えているイズルに向けて小声で話しかけた。
 テティス=アルバレット。ガイアの娘だ。
 花飾りで黒髪をまとめ、貴族風の青いドレスを着ている。
 大人びた体付きに反して、こっそりとイズルにウィンクする仕草は幼さを感じさせた。
 事実、彼女はまだ十六歳で、イズルの半分の年しか生きていない。
「俺は見世物になるよか、剣を振るってる方が楽だ」
 イズルの左手が腰から下げた長剣に触れる。
 正装で身を固めた中、その剣だけが無骨だった。
 嘘だらけの格好の中、剣だけが本物だからだ。
 テティスとイズルがこっそり会話する中も、ガイアの演説は続く。
「一生を暮らすには十分すぎるほどの賞金を手にしても、彼は戦い続けている。何故か。人類のためだからだ」
 いいや、俺自身のためだ、と出番を待つイズルは内心でつぶやいた。
 誰のためでもない。俺は、俺の私怨から魔物と戦っている。
 それが、どうもやりすぎたらしい。 着慣れぬ服を着せられるくらいには。
「諸君は、魔物の王と呼べる者たち、吸血鬼を知っているだろう。昼を生きる我らが太陽を糧とするように、吸血鬼は我らには毒となる月光から無限の力を得るという。多くの土地が吸血鬼の支配下にあり、悲しい事に子供を差し出すことで他の魔物から身を守ろうとする村も少なくない。――その吸血鬼を倒す事のできるハンターは極わずか。……いや、はっきりと言おう。単独で吸血鬼を滅ぼせるハンターなど存在しなかったのだ。これまでは」
 確かに、単独ではいなかったかもしれない。けど、ベテラン同士が組んで退治した例はあったんじゃないかな、とイズルは思い返す。
 連中が滅びてくれるのなら一人で倒すも、五人で倒すも同じことだと思うのだが、どうも一般では違うらしい。
 ガイアの言葉に、民衆の期待が一気に高まっていく。
「本日、我々、人類救済機構は、彼に《焔の英雄》の称号を与えることにした。さぁ、その英雄を皆で出迎えるとしよう。焔の英雄、人族のハンター。イズル君だ」
 大歓声に包まれる明るい日差しの下へ、イズルは歩みでた。


 歓声が静まり、代わりに戸惑いとざわめきが生まれる。
 何しろ出てきたのは、ギルド長の娘よりも背の低い少年だ。
 新米どころか、見習いハンターが良いところ。
 腰から下げた長剣が大きすぎて、それが余計に少年を小さく見せた。
 褐色の肌に黒い髪、可愛さの残る顔立ちだ。
 近くで見れば、瞳に宿る眼光が死を潜り抜けた狩人のものとわかるだろうが、集まった人々がそれに気づくには遠すぎた。
「どうやら、戸惑っている者が多いようだから説明しよう。この時代、新たに生まれた種族の人族は、我々人間より長寿であることは皆も知っていよう。彼もその一人だ。人族の義務期間を終えても尚、剣を振るう勇気ある彼を今一度拍手で出迎えようじゃないか」
 ガイアとテティスが笑顔を浮かべる中、イズルは仏頂面でいた。
 テティスに促され、軽く手を振ると民衆の反応がいっそう大きくなる。
 誰も彼もが、期待と尊敬の眼差しを英雄に向けた。
 そんな中、イズルだけが自虐的な笑みを浮かべる。
「英雄、ね。吸血鬼どもを一掃したら、そう呼ばれてやるよ」
 そう、つぶやいた。


■1、魔剣の主

・健康診断中のイズル。ふてくされ投げやりな返事。
・特に11年前の吸血鬼退治について触れられる。
・ミラについて触れられ、怒って部屋を出る。

・メーとテッタが、イズルを発見。
 新人ハンターとしての依頼を達成した二人を褒めるイズル。
・「イズルさんの式典。僕らも見たかったなぁ」
「お前ら、すくすく育ちやがってよぅ」見上げる形に。
・テッタは目をキラキラさせて嬉しそうに照れて、メーがイズルにまとわりつきだすとあわてる。
・で、メーに冷たくあしらわれてなみだ目。
・楽しそうに笑うイズル。

・テティスが護衛付きでやってくる。あくまで善人で。
・ここでメーがイズルの養女であること、テッタが助けられた少年であることを示唆。
・テティスがイズルに馴れ馴れしいので、むっとするメー。
・「あーでも、俺、アイツにプロポーズされたことあるんだよな」
・ナヌなメー、びっくりなテッタ。
・「アイツが六歳の時に」
・……やっぱりなーという顔。
・「吸血鬼連盟に仕掛けるときは絶対誘ってくださいね。それまでに僕ら、腕をあげますから!」
・そうと決まれば修行だと駆け出すテッタとメー。
「若いねぇ」
・見送るイズルが柱にもたれると、その後ろから声がする。

・相変わらず、気配を経つのが上手い。イズルたちの元監察官クロス。
・場所を知っても希薄すぎて、本当にそこに生きている人間がいるのか疑うほど。
・長年ギルドに使えてきた重鎮であり、今では古株扱いになっている。
 前線に出るより、指示を出す立場に。それでもこれまでの経歴にしては、低く泥臭い地位。
・上層部の老人たちの中では、若手として煙たがられている。
・晩にセクトの研究棟で話があること。「明かりはつけずに待っていてほしい」


■3、赤き魔女

・いきなり姿を見せて啖呵切るメーを、大慌てで矢の前から引っ張りおろすテッタ。
・「ふん、だ」
・イズルが表に出る、テティスとの会話。
・テティスがイズルを尊敬していること。
「貴方が魔物に魅入られたなど信じたくなかった。」

・初めて人間を斬ることになるイズル。
※ギルド戦で初めて剣で人を切ったイズルは、人間は刀傷のみで炎上しないことをしる。
ただ魔法使いはわずかに燃えるが、焦げる程度で灰にならない。
(後のvsイサンテにて、イサンテを切り殺しても炎上しないことで人間だと知る)
・魔法使いから優先して狙う。
・だが、魔物を殺す時とは違うえもいえぬ高揚感。
・同じ、技術を身につけた強い人間と戦うのが、楽しいのだ。


・戦闘が不安なテッタは、メーとセクトがフォロー。
・「イズルさんは……?」「兄さんなら、ほら。一人で大丈夫だよ」

・テッタの目にはイズルが手加減しているようにみえる。
 魔剣が炎をあげているのに、人を焼き尽くさないから。多少燃えても消せないほどではない。
 それは、全員がそう思っていた。
 イズルが手加減などしてないと

・イズルの活躍にあっけにとられているテッタ。
 八年前、彼に助けられた時と同じように凄いと思う反面、恐ろしいとも感じる。
 昔は感じなかった恐れ。
・メーはさすがイズルだと、陶酔した目で。
・「イズルはね。よーく熟してる木の実みたい。こんなのみたことない」
・「魔物をたくさん殺して、月の光を浴びて、イズルの中、すごいことになってるの」
・メーが早く成長したように、イズルの老いはひどくゆっくりになっているのは、
 蓄えてた魔力に合わせた体ができてきているからだ。

・驚愕し、つらそうなテティス。騒ぎの中、しれっと後から到着したフリをして声をかけるクロス。
・一度下がり、本部に戻って増援の要請とギルド長に声をかけることを進言。
・父が祈りの部屋にいること、それを邪魔する事は禁じられている。が、今は非常事態。やむなしか。
・テティスと共に、この場を退く。

・クロスの動きにいち早く気づいたイズル。
・「おい、メー。構わねぇ。こいつの館ごと燃やしちまいな」
・「構わないって、兄さん。ここは僕の――」
・「炎を出したら、すぐに幻術で奴らの目を撒くぞ。できるな、メー」
・「テッタ。メーの術が完成するまで、やられるんじゃねぇぞ」
 飛び出すイズル。
 やがて館が炎を吹き上げ、どさくさに紛れて、脱出する。


■4、魔女の騎士
・セクトに傷を治してもらっているテッタ。短い時間だったというのに満身創痍。
・「俺はクロスの後を追う。メーとテッタはいつもの洞窟に先に行ってろ」
・ついてくるというメーに、「テッタがもう限界だろ。無理させんな」メーの頭をぐりぐり。
・しぶしぶ納得するメー。謝りながら申し訳なさそうなテッタ。
・イズルはセクトに声をかけ、クロスの後を追っていく。

・魔物に魅入られた騎士。
・テッタとメーのやりとり。「もしも、この先失敗したら、一緒に行かないか」
・昔話も交えて、死亡フラグっぽいのを立てまくるテッタ。

・「あのね。あたしは、弱っちぃ人間には興味ないの」
・魔物が人を襲う理由。人がわずかながらに持っている魔力を取り込むため。
・人族は人より魔力が高い。でも、魔力の放出ができるようになる成人よりも、子供の方がいい。
・しれっと図星なことを言って、メーに怒られるテッタ。


・祈りの部屋は、ギルド長の許可を得たものしか入ることができない。
・それは精神論ではなく物理的に、扉が開かない。その扉の素材は謎のまま。
・自動ドアに、手の平と声門認証。音もなく開く滑らかな動き。あきらかに異質の文化。

・テティスの案内で祈りの部屋の見張りをかわし、中に入ったところで、クロスが剣を抜く。
・幹部会の屋敷が襲撃を受けた報告を持ってきた伝令が入ってくる。
・どれもクロスの息のかかったハンターばかりであることを言いかけた所で、クロスが居ることに気が付き。そのまま斬り殺される。
・表で見張りが闘っている剣戟がきこえる。
・数歩下がるテティス。
・クロスはいつもの営業スマイルを浮かべて、剣を突き付けた。
「なぜ、私がこの部屋に入れないのか、考えたことがありますか?」



・祈りの部屋=通信室。
「そういえば、最近。あの子はどうした? しらばっくれるなよ。あの魔剣使いだよ」
「そうか、彼の時は止まったままか。それは上々、ではあと三年だ。三年もたせろ」
「それで、ボクは彼の年に追いつける」
・通信機の存在、こちら側のモニタは壊れているがカメラは生きている。
・通信相手は、吸血鬼連盟の重鎮。始祖、本人。
・案外若い声をしている。声変わり前の子供の声。
・始祖からは、部屋の様子が見えている。
「おやおや。ガイア、これはどういうことだい」


■5、大罪人


・イズルたちがつくと、騒動がおきている。
・「クロス様を助けてやってくれ」
・「あいつ、セクトの館をおとりに使ったんだ。
 手伝って欲しいとか抜かして、全部一人で片付ける気だったんだよ」
・遅れて到着した、イズルとセクト。


・クロスからの宣言。
・ギルド長が創設者の代理人にすぎないこと。
・その創始者が、吸血鬼連盟の始祖と同一人物であること。
・通信機の向こうでの笑い声。
・ガイアは堂々としたもの。

・何も知らないテティスは、父の言葉に愕然として。
・テティスが父とこれまでの名声をとるか、汚名を被るのを承知でイズル(クロス)側につくかは自由。

・これが人類が救済される最善の道だった。
・吸血鬼連盟が用意したリストを元に、人類救済機構が賞金を定める。
・魔物の中にも勢力争いがあり、邪魔なものや、無作為に狩りをする魔物を戒めるのに使われていた。
・そして、時に、その狩りを見逃す。
・吸血鬼に生贄になる子供をささげていた村と何も変わらない。

・vsガイア&古代の防衛装置(機械)、彫像(戦闘用ドール)。
・装置はどれも始祖から、代々のギルド長に授けたものであり、逆らったら殺すためのもの。
・機械にはイズルの魔剣が通じない。
・怪我を負うが、ガイアを倒し(殺害)


・始祖からの優遇処置の提案。
 人類を治める人間が誰でも構わない。
・当然、クロス、セクト、イズルは断る。


・憑き物が落ちたようなクロス。
・「これで、吸血鬼連盟は本気で攻めてくるでしょう。私は大罪人と罵られることになるでしょうね」
・「ばーか。まだこれからだろ。組織の再編集、もう上位を固める人間は用意してあるんだろ」
・「……そうですね。まだ、これからだ。
 さぁて、これから忙しくなりますよ。まずは、残った旧陣営を捕らえなくてはなりません」
・「魔法使いは何人いる。そっちは俺が行くよ」
・先を歩くイズル。
・後ろで聞こえる、独り言のようなクロスの声。

・「やっと、やっと貴方たちの敵を取れた」
・「ああ、でも疲れたな。姉さん」
・「んだな。でも、しばらくは寝れない日が続く――――」
 ガランと、剣の落ちる音。
 いやな予感。覚えのある感覚。
・振り返るとクロスはおらず、その後ろにいたセクトが唖然と床に落ちた彼の剣をみている。

・セクト、またはテティスから。期限の話。耐用年数。
 人間の身でありながら、彼は長く夜を出歩きすぎた。
・「もしかしたら、寿命はとうに尽きてたのかもしれない。
 精神力だけでもたせてたんだ。魔物化しなかっただけ、マシかもしれない」
・「……はっ? ふざけんな。またかよっ、散々引っ掻き回して、それでどっかに行っちまうんだ」


■エピローグ
 イズルがギルドのメンバーを切り殺すのを孫娘は目の当たりにする。
「貴方はまがりにも、勇者と、英雄と呼ばれた人だろうに。そこまで堕ちたかっ」
 悲痛な叫び。
 人を救ってきた者が、魔物と化し、今度は人に牙を剥くようになる。
 その運命には、たとえ英雄と言えども逃れられないのか、と。
「私はこの月を呪う。我々の英雄を奪ったこの闇を呪う。貴方にまだ人としての心が残っているのなら、こんな結末望みはしない。こんな……人間同士が殺しあうなど」

「この事が外に漏れぬうちに、我々で処理する。英雄は英雄のまま、皆の心で生き続けるのだ。それが私からの贈り物としよう」

「はっ、はは。あはははは、何だそりゃあ。悪いね、俺は今も昔も自分の思うままに剣を振るうだけさ。英雄? 傑作だ。"そんな称号を吸血鬼連盟から与えられて、俺が満足するものかよ"」
「――――? 何を言って……」
「アルバレット家の跡取りが知らないはずないだろう。英雄扱したら、俺が止まるとでも思ったか? 随分腐ってるたぁ思ったがな。まさか、」



■未使用シーン


▼健康診断

「ドクター、最後は問診だろ。さっさと終わらせよう」
 イズルは椅子の背に顎をのせ、つまらなそうに言った。
「ここ一ヶ月の起床・就寝時刻、それと睡眠時間はどうかね。よく眠れているかね?」
「日が昇ると起きて、夜は十時には寝てるよ。することが無くて昼寝したくなるくらいだ」
「結構。しかし、昼寝は頂けないな。寝るならそう、木陰ではなく日向で。部屋の柔らかなベッドの上ではなく、外のバルコニーで。君は長いハンター生活で日照時間が圧倒的に不足している。太陽は月毒の中和剤にはなりえないが、君が受けた呪いには効果がある」
 ちっ。言われるまでも無いことを言われて、舌をうつ。
 毎度毎度、健康診断の度に聞かされていることだ。
「身体測定の結果は、これまでと変わらず。十年来変化なし。君の弟気味は十二歳で成体になったと言うのに、君はそれより二十年遅れても、兆しすら見えない。これは個人差の範囲なのかね? ああ、気を悪くしないでくれたまえよ。何分、人間(われわれ)は、人族(きみたち)の生態について調査中なんだ」
「弟は早熟だったんだよ。俺が遅い分、アイツが早い。そういうバランスなんだろうさ」
 人族は人間とは違い、子供と大人ではっきりと体色とその特性が変わる。
 黒髪に褐色の肌の幼体から、銀髪に白い肌の成体へと変わるのは、十八歳前後だろうか。
 魔法が使えるようになるのは、成体になってからだ。
 弟が早めに才能を開花させたのもあって、イズルも将来が期待されていたが結果、この様だ。
 イズルは考えながら、黒いインナーの首元を直した。
 この下にある傷跡が外に見えないようにするのが、いつの間にかイズルの癖になっていた。
「それで、呪いの解き方はわかったのかよ。日光に当たってりゃいいのか」
「いいや、無理だな。太陽は呪いの進行を押さえるが、癒してはくれない。ソレを解くのは魔法の領域だろうが、我々の魔術は魔物の域には到達していない。出来るとしたら――」
「同じ魔物だけ、か」
「それも、君に呪いをかけたのと同じ種類の魔物だ」
「はっ、魔物の王に頼み込めって? それこそ無理な話だ。同胞を殺された恨みで、連中、こぞって俺を呪い殺したがるだろうよ。不老不死を餌に配下の魔物に手配書回しても、俺が討てなかったんだからな」
 言い捨てて、イズルは立ち上がった。
 呪いは解けない。これが聞けたら十分だ。
「ああ、と待ちたまえ。座りたまえ。まだ問診は終わっていない。医者の承諾がなければ、ハンター業務には戻れないぞ」
「なら、今すぐ承諾してくれ。いつまで、こんな所に居たら良いんだ。毎日毎日、検査ばかりで、もううんざりだ」
「それは仕方ない。これまで"十年以上、直に魔物と戦い続ける事ができた者が存在しない"のだ。その前に月毒に侵され命を落としてしまう。皆、英雄の身を案じているのだよ。どうかな、いっそのことこれを機に仕事中毒の治療をする気はないのかね?」
「嫌だね。俺はまだ、目的を果たしていない。吸血鬼どもを駆逐するまで、剣を取るさ」
 この世界の大半は、魔物の王、吸血鬼の支配圏にある。
 人はささやかながらの対抗として、人類救済機構を作った。
 しかし、相手にできるのは吸血鬼に使われている小物がせいぜいで、吸血鬼を討ち取るに至ったハンターは限られている。
 まして、今は狂える月が昇る世界。
 夜に生きる時間が長くなればなるほど、人の身にも異常が生じる。
 ハンターを続けれる期間は、人間であれば三年、倍の寿命を持つ人族であっても十年と持たない。
 すでに、イズルは人族のボーダーラインを超えている。
 様々な変調が起きてしかるべき状態なのだ。
 健康診断、経過観察の名目でイズルは、もう半年近く人類救済機構本部に押し込まれていた。
 もう、半年も実践で剣を握っていない。
「英雄の称号を手に入れた事だ。引退し、後任の育成に専念する事を薦めるよ。……と言っても、君は聞かないのだろうな」
「俺の他に、この剣が扱える奴が現れたら考えるさ」
 イズルが腰につけ、片時も離さない無骨な剣がある。
 初めて吸血鬼を殺したとき、奴らから奪い取った魔剣だ。
 これがイズルを助け、英雄にした。
 人の技では生み出せぬ武器は、魔物に対して劇的な効果があった。
 吸血鬼の手にあったこの魔剣は、何故かイズルを持ち主に選び、元の主を焼き尽くした。
 本来なら持ち歩く必要も無いくらいだ。
 これは、主の呼びかけには、いかなる場所にでも参上する。そういうモノだ。
「セクト、メー、テッタ、誰に握らせても炎は出なかったからな。こいつはきっと、次の主を見つけたら勝手に俺の下から居なくなる。あの日、魔物の手から俺の手に移ったようにな。俺としては、そいつが人の側であることを祈るよ」
 弟、養女、弟子入り志願者の名を上げて、イズルは剣の柄に手を置いた。
 魔道師も魔女も、騎士であってもこの剣は答えなかった。
「ふむ。その剣の事だがな。もう一度、聞かせてくれないか。その剣の前の主にして君に呪いをかけた張本人、真なる吸血鬼マーチェント=サリクと、その下僕として捧げられていた哀れな二人の少女のことを」
「――何?」
 吸血鬼には二種類いる。
 生まれながらの《真なる》吸血鬼は、人間から仲間を増やすことが出来た。
 そうして新たに生まれた吸血鬼には、更に吸血鬼を増やすような力はなく《仮初》と呼んでいる。
 大抵。《真なる》吸血鬼と《仮初》の間には明確な主従関係にあり、《仮初》は下僕として仕えていた
「君を噛んだのは誰だ。彼らの虜囚になっている間に、何をされた。もちろん、日の下を出歩く君が、仮初の吸血鬼になってしまったとは思わないよ。けれどね、君を調べれば調べるほど思うんだ。――君は、不老不死の怪物が住まう館で、不老の秘密を手にしたのではないのかと」
 問いかける医師の目が異様な輝きを帯びてだす、その指が震えていた。
 イズルの成長は、マーチェントを殺害した日で止まってしまった。
 髪も伸びるし、爪も生える。けれど、体だけは大きくならない。
 小さかった養女も、かつて魔物から救った子供も、今はイズルより大きくなってしまった。
「……不老不死、ね。ドクター、それを望むのは止めときな。それを望めば人ではなくなる。そいつは、吸血鬼が魔物を使役するための餌だ。俺はそんな薬を見ちゃいないし、触れてもいない。それに、俺にはそれを望む奴が魔物に見える。――だから、止めときな」
 イズルの腰に携えている剣に、蒼い炎が灯る。

 ――この剣に焼かれたくないのなら、止めときな。

 焔の魔剣使い。歴代最大数の魔物を滅ぼしてきたハンターの眼が、青ざめた医師の顔を見据える。
 これまで殺意を向けられた事など無いのだろう。
 金縛りにあったように動けなくなっている医者を鼻で笑うと、魔剣の主は部屋を出て行った。


▼養女

 風にもまれる緋色の髪を帽子の中に押し込んで、赤い魔女は甲板の上にひざをついた。
 荒れ狂う海に、船が傾く。巨大な何かが、帆船を深海へと連れて行こうと船体に絡みつく。
 船員とハンターが一丸となって、海魔を切り離そうと剣を振るい、松明をつきつける。
 魔女は片手で黒い角飾りのついた帽子を押さえ、もう片方の手で杖を掲げた。
「このっ、"我請うは、灼熱の牙。ソイフレイム!"……だったけ?」
 自信なさげな声とは裏腹に、杖の先についている石が紅蓮の炎を吹き上げる。
 炎は螺旋を描きながら、船の縁を掴む吸盤のついた海魔の手を削り取った。
 焼けたではない。炭化して、それこそ塵となって消えた。
 その火の勢いに、海面を跳ねて襲ってくる肉食魚を切り落としていた騎士がぎょっと身をこわばらせる。
 癖のある短い金髪に真新しい鎧を纏っている、まだ若い騎士だ。
 足を滑らせて海へと落ちぬよう、マストと結んだロープを掴んだまま騎士が魔女へと呼びかける。
「メーっ、待った!! 皆を巻き込むな! 船が燃える!!」
「うっさいっ! 沈んだって同じでしょう。だったら――」
 魔女の瞳は怒りに燃えていた。
 彼女の手にする杖についている石が、送り込まれる魔力に反応して無色から緋色へと変わっていく。
 深い真紅のローブにかかった水しぶきが一瞬で蒸発して、魔女の周囲が蒸気に包まれる。
「伏せて! 衝撃に備えろ!」
 もう、魔女が止まらないと判断したのだろう。騎士がありったけの声を張り上げた。
 そうして、自分は傾いた甲板をロープ片手に駆け上がり、魔女へと飛び掛る魚を斬りおとす。
 魔女は目を瞑ったまま、ただ次にかける魔法に集中していた。
 その細い腕や首に、少々魚の牙が食い込んだところで構わないとでも言わんばかりの無防備だ。
「相性はねぇ。最高にイイんだから、"我講うは――"えっと、……あー、もう知らないっ。火神ソイの加護の下、焼き尽くせ!」
「お前。また、そんないい加減な呪文――――」
 騎士の文句は、熱風にかき消された。
 船の周囲で火柱が噴火した。一本、二本、三本、計四本の火炎が船の周囲を踊る。
 沸き立つ海の中、異形の悲鳴が振動となって船とその上に居る人々を揺らした。
 船を掴んでいた海魔の手も次々焼かれて落ちて良く、手が離れる度に船が大きく揺れた。
 騎士は、バランスを崩した魔女の体を支え、次々襲ってくる衝撃に耐える。
 ここで海に落ちたら、火ダルマになるか、煮え立った海水に溶けるか。
 どちらにせよ、ろくな死に方じゃない。
「うふふふふふ。トドメよ!」
 騎士に抱きかかえられたまま、魔女が再び杖を振った。
 船から離れたところの海面が爆発した。
 再び、あの異形の悲鳴が空へと響く。
 遅れて届いた波に、船が大きく揺れる。
 巨大な海魔が死んだことで、他の肉食魚も逃げていく。
 揺れの収まると、緋色の魔女が得意げに杖を振る。
「ふふん。私が本気になればこんなも――」
 すっぱーんと、小気味良い音を立てて魔女の頭が叩かれた。
 叩いたのは、あの若い騎士だ。
「本気すぎだっ! みんな目ぇ回してるだろうがっ、依頼人が海に落ちたらどうする気だ!!」
「謝る」
「――の前に死ぬわっ!!」
「やだ。何よテッタ。マジで怒ってるの?」
 怖い思いをしたのは若い騎士、テッタも同じなのだろう。
 蒼白の顔色は初陣の恐怖だとか、海水を被って冷えたからだけではない。
 と、ここでテッタは声のトーンを落として、周囲を一瞥した。
「……詠唱なしで魔法を使った事は、イズルさんに言うからな」
「うぇっ。ちょ、ちょっと、何それ。私、頑張ったじゃない」
「だから頑張りすぎ。人間は勿論、人族が使う魔法の域ままで軽く超えちゃってる。そりゃあ助かったよ。けど……僕はメーが心配なんだ」
 しっかりとメーの両手を握って、テッタが言う。
 メーが手を上下に振っても放そうとしない。
 照れたような困ったような顔で、メーが言う。
「んもう、私は大丈夫だって。《白の賢者》が秀才なら、私は天才なの」
「どんな天才でも、人は呪文と杖なしには魔法が使えないんだよ。メー、唱えるフリだけで良いんだから」
 最後の一言をテッタはメーの耳元で囁いた。
「――君が、魔物だとばれないために必要なことだよ」
 そうして、テッタはぱっと手を放し、倒れてる人たちの介抱に向かった。
 向かった先で、恋人同士なら仲良くしてても良いだの言われ、小突かれている。
 テッタが情けない顔で愛想笑いをすると、まだなのか!? だったら必勝法をさずけてやるだの言いながら、何やらひそひそ話を開始した。
「そんなの、私だって知ってるわよ。……ふんだ。テッタは人間だから助けてあげないと死んじゃうじゃないの」
 手加減抜きの魔法を使ったきっかけは、テッタを狙う海魔の手に気づいたからだ。
 魔物は基本的に子供の肉が好きだ。ただ単純に柔らかくて美味いから。
 でも、この船には子供など乗っていない。
 少しでも若い人間を選ぶと、順番としてはテッタになる。
 困ったことに、あの若い騎士は魚に夢中で、海魔の手が船以外も狙っていることに気がついてなかったのだ。
 別に海魔は船が欲しいわけじゃない。そこに詰まってる肉が欲しいんだ。
 何人か味見がてらに持ち攫われる前に退治したんだから、感謝して欲しい。
「ほらぁ、無駄話する元気があるなら早く船を出してよ。イズルの式典が始まっちゃうじゃん!」
 赤い魔女はふてくされながら、ひそひそ話を続ける男連中に怒鳴った。
「イズルって、あの三人目の《英雄》受勲者だっていうあのイズルか?」
「そーよ。何を隠そうこの私はイズルの――」
「そら無理だわ」
「………は?」
「今からどう急いだって、式典が終わった二、三日後になるな」
「はあ!? 何それ、聞いてないっ。式典に間に合うっていうから引き受けたのに!」
「何言ってんだ。お宅のリーダーには、ちゃんと説明したぞ」
「テッタ!」
 テッタは、燃えるようなメーの瞳から視線をそらすと、
「ま、陸路じゃないんだから、三日で着いたら三日で戻れると思ったら大間違い。潮の流れが行きと帰りで随分と違うらしいよ。天候にも大きく左右されるしね。これも人助けだよ。うん。きっとイズルさんは、僕らの活躍を喜んでくれるよ」
 イズルの居る大陸の方向を見ながらしみじみと口にした。

 その後、式典の日が過ぎるまで、尻に火がつけば足が速くなるんじゃないかと真顔で杖を振り上げるメーを、テッタは全力で取り押さえる事になるのだった。


▼ギルド長の娘

「君も《英雄》の称号を得た事だ。引退して、後輩の教育に務めたらどうだろうか」
「長期間の夜間戦闘で、君は月光を浴び続けた。その障害は、すでに成長不良という形で現れている。もう限界だろう」
「太陽の光をどれだけ浴びたところで、月の光が人体に及ぼす害への治療にはならないのだよ」
「――わかった。落ち着いて聞いて欲しい。この半年間の検査で、君の体はとても健常な人族のものとは言えない状態にあるとはっきりした。つまり、ハンター業の復帰許可は出せないということだよ」



     ・/・



 後ろ手で扉を閉める。と、イズルはふぅ、と息を吐いた。
「ま、あれだけ脅せば大丈夫かな? モルモットなんて、冗談じゃない」
 日差しの強さに目を細め、手で目元に影を作る。
 不快な光だ。肌をじりじりと焼き焦がし、その眩しさに目がくらむ。
 本来なら、快適な柔らかな光を届けている季節だというのに、感覚がそうとは伝えない。
 まるで、終わらない夏がずっと続いているみたいだ。
 いずれは、この日差しに刺すような痛みを覚えるようになるかもしれない。
「……いいさ。別に、それで奴らを滅ぼせるのなら。奴らの土俵に上がれるのなら」
 ――俺は人でなくなっても構わない。
 要はバレなければ良いのだ。
 人類救済機構の助力なくては、魔物に邪魔され、別大陸に渡る事もままならない。
 交通網は最優先で守られているが、魔物の侵攻に合わせて柔軟に形を変えるからだ。
 半年も経てば、地図にある街道はどれも書き換わってしまう。
 ハンターを派遣し、その成果を知る人類救済機構なくては、地図のひとつも手に入らない。
 だから、騙す。騙し通す。この身がすでに、人族でもない別の何かに変わりつつあることを知られてはならない。


 人類救済機構、中央区。
 ここは、魔物の組織《吸血鬼連盟》に対する人の都。その中枢。
 北には神殿を、東にはハンター施設を、南には救済を求める人々が街を作り、西には魔道研究所がある。
 黒神の守護を得ているこの土地は、連なる山脈は自然の城壁として、幾度かあった魔物の侵攻を食い止めてきた。
 初めて、中央区と南区の市街地をさえぎる城壁の内側を見上げた時は、感動したように思う。
 今の世でもハンターなら他の大陸を巡ることができる。
 代わりに魔物と戦わなくてはいけないが、その怖さより好奇心が勝っていた頃。
 負け知らずで調子にのっていた新人が、初めて敗北を知る前のこと。
 三体の吸血鬼に会う前の――――。
「くそっ、あの医者のせいだ。あいつが、余計なこと聞くから」
 あの敗北を知った日からだ。世界を巡っても、楽しいと思えなくなったのは。


 と、苛ついているイズルの目の前にひらひらと手がふられ、暢気な声がかかった。
「はろはろー、焔の英雄さん。元気ないねぇ。良かったら食事でもどう?」
「テティス。お前、親父さんは良いのか? それと、普段は英雄って呼ぶなよ。何か落ち着かない」
 ギルド長の娘が後ろに黒服の護衛を引き連れて立っていた。
 髪は下ろして、口はにんまり笑ってる。
 式典ではきちんとしていたが、終わればいつものラフな格好だ。
 スリットの多い黒いコートは肩にかけずに肘のところで引っ掛けて、上着は肩やヘソの部分だけ網状になっている。
 ジーンズも右足はショート丈に切ってあり、ゆるいベルトを飾りのように着けている。
「あはは、謙虚だねぇ。本当にそれだけの事をやったんだよ? 今、父さん礼拝中だから、あたしも暇でさー。で、暇してるもん同士どうかなーって誘いに来たんだけど、どう?」
「だったら、俺を任務に出れるように頼んで欲しいんだけど。吸血鬼連盟の場所、調べが進まないなら俺が行って――」
「ていっ」
 テティスがイズルの額にデコピンをした。
「――ってー、何すんだよ」
「焦るな、焦るな。英雄殿は働きすぎ。下準備はあたし等に任せなよ。イズルの剣は、そこらの雑魚じゃなくてもっと強い奴に向けてくれなくちゃ」
 イズルの鼻先に人差し指を当てて、テティスは屈み込んでイズルと目を合わせる。
「その時が来たら、どうせイズルは休まず突っ走っちゃうだろ。あたしの英雄殿は前しか見えないから。だから、今は後の事を考えて、しっかり休養をとって欲しいのだ」
「誰がお前のだ。でもまぁ、話はわかった。今は、訓練所で体を動かすだけにするよ」
 満足げにテティスが笑みを浮かべた。
「勘は鈍るだろうから、そこはごめんねぇ。でも、他のハンターでも代わりが聞くような仕事は彼らに託してよ。《焔の英雄》は人類救済機構(うち)の切り札なんだからね」
 そう言って、テティスは破顔した。
 笑うと、年相応の少女に見える。
「……俺が評価されたのって、お前が動いたんだろ。良いのか。俺は人族だし、呪いだって」
「あはは、魔に触れた人間は魔物の手先だって奴? あたしねぇ、怪我してる人まで疑うのは嫌なんだ。魔物に屈服することもなく頑張ってくれた人達が誇らしいよ。人の尊厳は守られた。それは、貴方がたのおかげだってね。それには、イズル。あんたも入ってるんだよ。むしろ、これまでの不当な扱いを詫びないといけないのはこっちの方だ」
「テティス。ガイアの娘だからって、お前が次の長になるわけじゃないんだろ。あまり動くと、老人達が黙ってないんじゃないか」
「うん。だから頑張るよ。今は、人間と人族だけじゃない。太陽の下に生きるもの全てが、助け合わないといかんのさ」
 自分で自分の言葉に関心しながら、テティスが頷く。
 そんなテティスの言葉に、イズルは驚いて目を丸くしていた。
 これまで立場のある人間で、そんな事を口にする奴は居なかったのだ。
「英雄殿。面白い顔になってるよ。んー、こうしてみると、とてもあたしの倍生きているようには見えないっていうか。可愛いね」
「可愛いってお前……俺、三十二だぞ」
「うん。知ってる。ずっと見てきたからね。ふふ、迷子を放っておけない、お兄ちゃんだもんね」
「実際、お前はチビで迷子だったろうが」
「たはは、それ言われちゃうとなぁ。でも、ピリピリしてないハンターって少ないんだよ。魔物との戦いで、みんな心をすり減らしていく。凄いよね、英雄殿は。そんな自然体であたしの接近を許して、デコピンまでさせちゃうんだから。歴戦のハンターじゃなくて、新米だって言われたら信じちゃいそうになる」
「俺は別に――」
 ただ、日の光に弱っていただけだ、と答えるわけにもいかずイズルは言い淀む。
 そんなイズルをテティスは勝手に解釈した。
「照れるな照れるな。イズルの縄張りに、あたしも加えてくれて嬉しいよ。さてと、立ち話も何だし、場所を移そうか」
 そうだな、とイズルが答えかけたその時、
「だーめーーっ!!」
 イズルの背中に飛びつくようにして、駆け込んできたのは赤い服の魔女だった。
「あら、メーちゃん。御機嫌よう」
「うう……油断も隙も無い」
 余裕の態度のテティスに、メーが威嚇する。
 遅れて二人分の荷物を抱えた若い騎士がやってきた。
「テティスさん。すみません」
「テッタ君も子守お疲れ。依頼、上手くやったんだって、連絡着てたよー」
 そんなメーの態度を気にした様子もなく、テティスは新米ハンターを褒めた。
「あ、ありがとうございます!」
「でれっでれと鼻の下伸ばしちゃって、あんた誰の味方なのよっ」
 照れながら答えるテッタの足を、メーが蹴飛ばした。
「ただのお礼じゃないか。メーこそ、もうイズルさんより重いんだから、そうやって伸し掛かるのは止したら?」
「美少女は重くならないの! イズルは強いから平気だもん」
 そう言って、メーはイズルの頭に顎を乗せ、首に腕を回す。
 丁度、メーの胸がイズルに押し付ける形になる。
 テッタが面白くなさそうな顔をした。
「それにしちゃあ。イズルさんが前かがみになってるのはどうしてかなぁ? 」
「おい、メー。首しまってるからっ。テッタ、お前も煽るな」
 頭上始まる口論にたまらずイズルが抗議の声をあげる。
 そんな三人に、テティスが耐え切れずに笑いをこぼした。
「貴方たち、ほんと仲良いねぇ。それじゃあ、皆で行こう――」
「テティス様。神殿でガイア様がお呼びです」
「か……と思ったけど、あーらら、残念。礼拝時間は終わっちゃったか」
 侍女に呼ばれ、テティスが肩をあげる。
「んじゃーね。また今度、相手してよ」
 去り際に、呼びに来た侍女がテティスの耳元に何か囁き、イズルを一瞥した。
 そこには嫌悪の色がにじんでいた。
 ぽつりとメーがつぶやく。
「私、あの侍女嫌い」
 イズルから腕を離したメーは、まだむくれていた。
「ん? テティスじゃなくて?」
「前に"人族の養子になるなんて、貴方も災難でしたね"って、言われたんですよ」
「ああ。あの人、典型的な人間至上主義だからなぁ」
 テッタの説明に、イズルは納得顔で頷いた。 
 魔物であるメーは表向き、イズルの養女で人間ということになっている。
 頭に人間には絶対にない二本の黒い角が生えているが、それは帽子の飾りに見立てて誤魔化していた。
「ずっと本部の内勤できた人はあんなもんだよ。イチイチ腹を立ててたら切りがない。人族の待遇はテティスと親父さんが頑張ってくれてるんだから、お前も邪魔になるようなことはするなよ」
「う~~っ。イズルがそう言うなら……」
 渋々うなづくメーに、えらいなとイズルは褒めた。
「お前ら昼飯は? まだなら一緒に食べに行くか?」
「行く行く!」
 しゅぱっとメーが手を上げた。
「こーら、メー。監察官への報告を済ませなくちゃ」
「えー。連絡は届いてるってテティスが言ってたじゃん。報告はテッタがやっといてよ」
「駄目だよ。うちはメーがリーダーで登録してるんだから、最初にどっちがやるか決める時、名乗り出たのはメーだろ」
「うぅ~~。……リーダーになれば、楽できると思ったのに」
「だから、僕やるって言ったのに。聞かなかったのはメーじゃないか」
 予定と違うーと唸るメーは、イズルの腕から手を放そうとしない。
 メーが養父に甘えると、今度はテッタの機嫌も悪くなってくる。
「わかったわかった。ここで待ってるから、早く済ませて来いよ」
「すみません。イズルさん。ほら、行くよ。メー」
「もう、わかってるってば」
 テッタは一度イズルに会釈してから、メーは先に行こうとする若い騎士を走って追いかけていった。
 イズルは柱にもたれて、そんな二人を微笑ましく見送った。
「これで、セクトが居れば良い店に行くんだけど。あいつハブると凹むからなぁ。本格的なお祝いはセクトが戻ってきてからにすっか」
 里帰り中の弟を思い出しながら、何処に食べに行こうか考える。
 表通りに出来た新しい店に入ってみるのも良いかも知れない。
 ゆっくりできる店で、二人の武勇伝でも聞きながら、そのまま夕食を食べても――。
「暇なら、少しお付き合いいただけますか」
 柱の裏から呼びかけられ、イズル顔から和やかさが消えた。


▼救いの光

「暇なら、少しお付き合いいただけますか」
 柱の裏から呼びかけられ、イズル顔から和やかさが消えた。
 声をかけてきたのは漆黒の男だ。
 癖のある黒髪を後ろ一本で束ねて、四十近いというのに精悍さは磨きかかっているように思える。
 イズルの監察官を辞めた後も訓練を続け来たのだろう。
「どうしたよ、クロス。テティスの教育係に昇進したんだろ。彼女の後を追いかけないで良いのか?」
「ああ、お気になさらず。私は神殿に入る許可を得ていなくてね。中央区(ここ)で留守番ですよ」
 親しげに声をかけながらも、イズルは探るように漆黒の男を睨みつけた。
 何でもないようにクロスは穏やかな笑みを浮かべていた。
 その笑みには、作り物めいた違和感があった。
 剣を握って魔物と戦ったことのある者が持つ笑みにしては、いささか柔らかすぎる。
「テティスを焚きつけたのはお前だろ。上の老人達相手にやってけるのか?」
「彼らは、今となっては少数派になりつつある。この世の中、金銀財宝が幾らあっても、魔物に国を滅ぼされたらゴミにしかなりませんからね。彼らの提供する食料は重用ですが、農場を守るには兵が必要だ。兵隊を取り仕切っているのが彼女の父君、ガイア=アルバレットである限り、どんなに不愉快でも老人は条件を飲みますよ」
 涼しげな顔でクロスは答えた。
「ふぅん。そういや、ガイアとアンタは同期だったか。方や本部勤めのエリート育ち、前線に出ることも無くギルド長へと就任して娘もいるのに対して、アンタは前線巡りで結婚する暇もなかった家庭教師。それも、ガイアの情けがなければそれすらも危うかったそうじゃないか」
「彼、というよりテティス様でしょうね。ガイア様は反対していますから」
「なるほど、それで神殿に入れないと。ま、俺も好んであんたを使いたいとは思わないな。命令違反の常習犯」
「おや、そのおかげで助かった事もあるでしょう」
「……まーな」
 八年前、イズルが生まれたばかりのメーを連れ帰ったとき、クロスも監察官としてその場にいた。
 しかし、クロスはメーが魔物である事を報告しなかった。
 もしメーが魔物の性に目覚め、人を襲うようなことがあれば自分の手でけりをつけるとイズルが約束したのもあるだろうが、魔物の子供を拾ってきたイズルを黙っているなど、普通の神経じゃない。
 クロスは吸血鬼に捕らわれ、魔物と化した姉を殺すために人類救済機構に入った男だ。
 クロスという名前も、吸血鬼の呪いを避けるためにつけた偽名だと言う。
 中央勤めの中では若手でも、前線に出ているハンターとしてみたらイズル以上の古参だ。


「それで、世間話をしにきたわけじゃないだろ。話なら、あいつ等が戻ってくる前に終わらせてくれ」
 イズルは腰に手をつき、クロスから目を逸らして言った。
 クロスの紫紺がかった黒髪と瞳は、彼の姉を思い出させる。
 吸血鬼の館で、人間に戻れる手段を探すと誓い、叶える事のできなかった少女を。
 灰となって、朝日の中に溶けてしまった少女の事を思うと、胸が痛む。
 そうやって直視を避けるイズルの尖った耳に、通りのいい声が届いた。
 とたんにイズルは顔を上げ、クロスに険悪な顔を向けた。
「どうしてテメェが、その場所を知ってやがる!」
「弟さんに案内して頂きました。貴方の故郷はなかなか良い土地ですね。人族が暮らしているからでしょうか、吸血鬼もあそこを領土にしようとは思わないようだ」
「セクトはどうした。あいつが素直にてめぇを連れて行くわけないよな。俺の家族に手を出してみろ。今度こそ、たたっ斬るぞ」
「はは、それは怖い。今日はまた随分とご機嫌斜めだ。やっぱり、中央暮らしは会いませんか?」
「健康的な生活をさせてもらってるとこ悪いけど、いい加減街の外に出させて欲しいもんだね。休暇には長すぎる」
「ええ、そのことですが、吸血鬼連盟の本拠地はすでに突き止められていると言ったら、どうしますか?」
「何?」
「"最初から知っていた"のだとしたら、どうしますか?」
 イズルは目を細めて、クロスの様子をみた。
 
「……いつからだ。俺が中央に呼ばれた時からか」
「私や貴方が生まれる前、だと言ったら信じてくれますか?」



<全ては道化>
・のったと賛成したのは窓の外から。
・メーとテッタが入ってくる。
・メーが使ったのは惑わしの術だ。魔物しか使えない術。


・あきれ気味のイズル。
・乗り気のクロス、
「まぁ、私としては、メーさんの無事を願うのなら、早いほうがいいかと。正体が魔物であるとばれたらどうなるか」
「メーは魔物じゃない!」テッタ猛反対。
「おやおや……」
・みんなが乗り気の中、反対するイズル。少なくとも、セクトやメー、テッタは巻き込めない。
「わかってるのかお前ら。魔物じゃない。人を、同じハンターとやりあうって事だぞ」
「それもギルド上層となれば、手加減できる相手じゃない。人を、殺すことになるんだぞ」
「この体は人の規格から外れてるかもしれねぇけどな。人道に反することは、やらねぇ」
・「魔物よりもね。人の方が性質の悪いことも多いのですよ。」
・「それは、あんただろう」


・「ええ、まぁ、その通り。私はね。あなた方がここに集まってくれればそれでよかったのですよ」


▼賢者の館/2、白の賢者

 人類救済機構、西区。
 研究棟が並ぶ中、夜遅くまで明かりのついている館があった。

「何が、続きは夜に、だ。もったいぶりやがって」
 椅子に腰掛け、机に頬杖をつく。
 開いた窓から吹いた風が、頬をなでる。
 イズルは、そうして丸い月を見上げた。

 昼間と違って、目に刺すような痛みもなく体はずっと軽い。
 雲ひとつないこんな夜は、魔物狩りに出るは良い日だ。
 魔物は人間の肉が好物だ。
 それが、子供であれば尚のこと。
 だから、釣るのだ。連中が襲いやすい所をうろつけば、二・三日に一回は手配されてもいない魔物が引っかかる。
 賞金のかかってない魔物を狙うハンターはそうは居ない。
 だから、狩り放題だ。他のハンターの邪魔は入らない。
 何か変だなと思っても、魔物はたかが人間の、それも子供が一匹だと結論付けて襲ってくる。
 目をうっとりと細めて、口の端が自然と持ち上がる。

 魔物も、彼女を魔物にした吸血鬼も、吸血鬼を生み出した親玉も。
 みんな灰になってしまえばいい。

「セクトも、もっとぱーっと派手に魔物を一掃するような魔法を開発できないもんかね」
 そういって、部屋の中に目を向けた。
  ここはセクトが人類救済機構から与えられた研究室だ。
 渡り廊下を挟んで、住居スペースがあり、イズルとメーもそこで暮らしていた。
 今日は、酔い潰れたテッタも向こうの広間で毛布に埋もれて眠っている。
 
 本の類は少なく、自前のレポートやファイリングした書類が多く目に付く。
 本棚一段、十冊にも満たないそれが、現存発見されている魔法の全てなのだという。
 使う魔法の属性は全部で六つ。魔道師は、自分の出身地の守護神と魔術を習った神殿で決まる。
 適当に一冊抜き取る。表紙は、白の大陸、イズルとセクトの出身地が描かれていた。
 つまり、これは白の魔法に関する本だ。
 中身は、魔物避けの呪いから始まり、光の矢で終わっている。
 術を行使するための呪文は、シンプルなものだ。
 大切なのは、自分の守護神から力を分けて貰い、その力で神殿のシンボルを心の中で描くことだという。
 杖は、力を束ねてシンボルを心に描くための助けだ。
「見えない力を見える形に変えて、それを声によって外へ作用させる……だったかな」
 前に、セクトから聞いた基礎理論をつぶやき、本を閉じる。
「メーに言わせると、魔法なんて声に出す間でもなく、考えると同時に発動しているものだってね。あいつは常時、人間に化けてるようなもんだから、俺らとは違うんだろうなぁ」
 そういって、水を飲む。
 メーは、ああ見えても元は卵生まれの昆虫である。

 扉の開く音に、イズルは振り返った。
「へぇ、クロス。お前が玄関から入ってくる何て珍しい――」
 そこに居たのは、二人だった。


・セクトの館で待機しているイズル。
・本部の敷地内の一角、魔法実験を行うため広大な土地を借りている。
 二階建て、そこそこいい屋敷。
・セクトの地位や立場も示す。
・クロスと一緒に現れたのは、セクト。予定より早い帰宅。
・ここでもクロスの気配の薄さや、顔色の悪い複線を。
・つもり話は後にして、今は監察官の話を聞いて欲しい。

・イズルが吸血鬼連盟に直接立ち向かえる日は来ない。
・人類救済機構は、吸血鬼の支配を容認している。不老不死があるゆえに。
・クロスから、吸血鬼連盟と人類救済機構のシステムが似通っていることを伝えられる。
・向こうは始祖が納め、人間の中でも危険なハンターに、不老不死の薬をえさに賞金をかけている。
・ギルド長が治め、魔物に賞金をかけているこちらと酷使している。

・セクトからの結果の発表、楽園。つまりは魔物が最初に発生した場所をつきとめたこと。
・11年経った今も、イズルがまだミラの件を引きずっていること。
・イズルの立場とセクトとの関係を再度示し。
・イズルが若干おかしいところ(剣に狂いかけ)も示し。無自覚。

・自分たちで行くというイズルに、船が出ないことを指摘。
・船はでない。そしてイズル、貴方はここを出ることが許されない。
 不老の体現者であるあなたは。
・イズルが不老不死の秘密を手に入れてるのではないかと疑われているということを伝える。
・「私からは不老不死、というより、魔物に近づいているように見えますがね」


・「簡単なことです。こんな人類救済機関なんて組織、解体しましょう」
・「作り直す必要があるんですよ。新しい、真の意味での救済となる組織にね」


・のったと賛成したのは窓の外から。
・メーとテッタが入ってくる。
・メーが使ったのは惑わしの術だ。魔物しか使えない術。


・あきれ気味のイズル。
・乗り気のクロス、
「まぁ、私としては、メーさんの無事を願うのなら、早いほうがいいかと。正体が魔物であるとばれたらどうなるか」
「メーは魔物じゃない!」テッタ猛反対。
「おやおや……」
・みんなが乗り気の中、反対するイズル。少なくとも、セクトやメー、テッタは巻き込めない。
「わかってるのかお前ら。魔物じゃない。人を、同じハンターとやりあうって事だぞ」
「それもギルド上層となれば、手加減できる相手じゃない。人を、殺すことになるんだぞ」
「この体は人の規格から外れてるかもしれねぇけどな。人道に反することは、やらねぇ」
・「魔物よりもね。人の方が性質の悪いことも多いのですよ。」
・「それは、あんただろう」


・「ええ、まぁ、その通り。私はね。あなた方がここに集まってくれればそれでよかったのですよ」

・テティスが護衛+精鋭付きで現れる。
・魔物の娘をかばっていたという知らせが入った。メーを引き渡せと。
・こんにゃろぅなイズル。どちらにせよクロスはやらせる気だったのだ。
 だから、クロスは、嫌いなのだ。



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人類救済機構(第二稿) 2010.12.10

■変更点。

主人公サイド>
・イズル、セクト、テティスの三人を主軸に行動させる。
・補佐、雑用にテッタ。
・メーはにぎやかし程度に。

・イズルは、クロスに近寄りたがらない。


悪役サイド>
・ガイア、クロス、イサンテ
早いうちにガイアが怪しい事は出す。
クロスがその協力者になっているのも出す。

-----------
プロローグ>
・イズルが焔の英雄になった。

1、現状>
・イズルたちの状況と目的。
・目的を達成するための行動1
(ギルドとは別に、自分たちで連盟の場所の調査をする)

・セクト+テッタで、白の大陸へ調査。
・里帰り、遺跡、楽園の欠片。
 楽園の所在は、大陸ではなく、海。島なのではないか。人工島。
・聖白都の神殿。
 不審な点なし。テッタは、武装を清めてもらう。

2、展開>
・テティスからの情報。連盟の所在は聖白都である。
・これが本当なら地方の領主を落とさずに、一気に本部を狙うことができる。
・テティスは信じているが、イズルは疑い。

・戻ってきたセクトとテッタからの話。
・やはりおかしい。

3、驚き
4、決戦
5、決戦
エピローグ


■シーン断片


▼鍛錬- テティス

「君も《英雄》の称号を得た事だ。引退して、後輩の教育に務めたらどうだろうか」
「長期間の夜間戦闘で、君は月光を浴び続けた。その障害は、すでに成長不良という形で現れている。もう限界だろう」
「太陽の光をどれだけ浴びたところで、月の光が人体に及ぼす害への治療にはならないのだよ」
「――わかった。落ち着いて聞いて欲しい。この半年間の検査で、君の体はとても健常な人族のものとは言えない状態にあるとはっきりした。つまり、ハンター業の復帰許可は出せないということだよ」


     ・/・


 薄暗い部屋の中、蒼い炎が踊る。
 刀身を包む炎は時に消え、また灯っては、型の無い剣舞をなぞる。
 体に会わない長剣を、褐色の肌をした少年が操っていた。
 イズルの剣は我流だ。
 人族の腕力と瞬発力があってこその動きは、ともすれば危なっかしい。
 ふいに部屋の扉が開いた。
 隙間から差し込む日の光に、イズルは目を細めた。
「はろはろー、焔の英雄殿。今日も訓練かい? 精が出るねぇ」
 テティス=アルバレットが立っていた。
 式典ではきちんとしていたが、終わればいつものラフな格好だ。
 アップにしていた髪は下ろして、黒いコートは肘の所で羽織り、肩やヘソをさらしている。
 ジーンズの片方を短く切ってあり、ゆるいベルトを飾りのように着けていた。
「普段は英雄って呼ぶなよ。落ち着かない。――テティス、何の用だ」
 一瞥すると、イズルは訓練を再開した。
 魔剣の炎の維持と、火力の調節が課題だった。
 この炎は魔物に対して絶大な力を発揮するが、この灯火は遠くからでも良く見えてしまう。
 魔物を呼び集めて戦う時には、日が落ちてから朝日が昇るまでの間、炎を維持し続ける必要があり、闇に紛れて討ち取る時には魔物に当てる寸前まで火を消し、刃が食い込んだ一瞬に火力を集中させる必要があった。

 吸血鬼から奪い取った魔剣は、念じるだけで力を発揮する。
 特に体力を消費することはない。
 イズルの集中力が、どれだけ持つかが要になる。
 訓練で出来ないことが、本番に出来るとは思えない。

 イズルの脚運びと、点滅を繰り返す青い炎をテティスは敬愛を込めて眺めていた。
「聞いたよ。担当医を脅したそうじゃないか。アンタらしくない。ドクターは随分と怯えていたよ」
「俺は本当の事を言ったまでだ。なぁ、テティス。お前から、俺の復帰許可は出せないか?」
 イズルは火を消し、剣を下ろした。
 かけてあったタオルを手に取り、汗をぬぐう。
「うーん。出してやりたいのは山々だけど。イズルのドクターストップは本物だからねぇ。ここは焦らずに休息をとってもらいたいね」
「俺は何処も悪くないし、腕だって落ちちゃいない。そうだな、お前んとこの親衛隊を少し貸せよ。手合わせして見せれば、医者連中だって――」
「てりゃっ」
 テティスがイズルの額にデコピンをした。
「――ってー、いきなり何すんだよ」
 不満を口にするイズルの鼻先に、テティスは人差し指をあてた。
「焦るな、焦るな。英雄殿は働きすぎ。まだ《吸血鬼連盟》の本部は見つかってないんだから。下準備はあたしらに任せなよ。イズルの剣は、そこらの雑魚じゃなくてもっと強い奴に向けてくれなくちゃ」
「その時が来たら、どうせイズルは休まず突っ走っちゃうだろ。あたしの英雄殿は前しか見えないから。だから、今は後の事を考えて、しっかり休養をとって欲しい」
「誰がお前のだ。でもまぁ、話はわかった。今は、訓練所で体を動かすだけにするよ」

 満足げにテティスが笑みを浮かべた。
「勘は鈍るだろうから、そこはごめんねぇ。でも、他のハンターでも代わりが聞くような仕事は彼らに託してよ。《焔の英雄》は人類救済機構(うち)の切り札なんだからね」
 そう言って、テティスは破顔した。
 笑うと、年相応の少女に見える。
「……俺が評価されたのって、お前が動いたんだろ。良いのか。俺は人族だし、呪いだって」
「あはは、魔に触れた人間は魔物の手先だって奴? あたしねぇ、怪我してる人まで疑うのは嫌なんだ。魔物に屈服することもなく頑張ってくれた人達が誇らしいよ。人の尊厳は守られた。それは、貴方がたのおかげだってね。それには、イズル。あんたも入ってるんだよ。むしろ、これまでの不当な扱いを詫びないといけないのはこっちの方だ」
「テティス。ガイアの娘だからって、お前が次の長になるわけじゃないんだろ。あまり動くと、老人達が黙ってないんじゃないか」
「うん。だから頑張るよ。今は、人間と人族だけじゃない。太陽の下に生きるもの全てが、助け合わないといかんのさ」
 自分で自分の言葉に関心しながら、テティスが頷く。
 そんなテティスの言葉に、イズルは驚いて目を丸くしていた。
 これまで立場のある人間で、そんな事を口にする奴は居なかったのだ。
「英雄殿。面白い顔になってるよ。んー、こうしてみると、とてもあたしの倍生きているようには見えないっていうか。可愛いね」
「可愛いってお前……俺、三十二だぞ」
「うん。知ってる。ずっと見てきたからね。ふふ、迷子を放っておけない、お兄ちゃんだもんね」
「実際、お前はチビで迷子だったろうが」
「たはは、それ言われちゃうとなぁ。でも、ピリピリしてないハンターって少ないんだよ。魔物との戦いで、みんな心をすり減らしていく。凄いよね、英雄殿は。そんな自然体であたしの接近を許して、デコピンまでさせちゃうんだから。歴戦のハンターじゃなくて、新米だって言われたら信じちゃいそうになる」
「俺は別に――」
「焦るな、焦るな。英雄殿は働きすぎ。下準備はあたし等に任せなよ。イズルの剣は、そこらの雑魚じゃなくてもっと強い奴に向けてくれなくちゃ」


▼ガイアと???
・ガイアと吸血鬼連盟始祖の通信。
(通信先、相手は聖白都の人王と誤解させるように)
・焔の英雄を試すような言葉。


▼里帰り


▼聖白都

「喜べイズル! 吸血鬼連盟の場所がわかった」
「本当か! 何処だ!」
「アンタとセクトには受け入れがたいかもしれないけどよく聞いて、吸血鬼連盟の本部は《聖白都》にある。――わかるね。白の大陸、アンタたちの故郷だよ」
「……は? あそこは、人類救済機構の助け無しに独立して、吸血鬼連盟から領土を守り続けている数少ない国家で」
「でも、事実だ。うちと聖白都は同盟関係にある。互いに手が足りないとき、協力を要請しあう立場だったが、それがよくなかったのかもしれないね」
「どういうことだ」
「誘導されていたかもしれないってことさ。白の大陸は、大地の守護神シクルト様が聖なる属性を持っている。それゆえに、他の大陸より魔物の活動が鈍いと考えられてきた。その考え、改める必要があるかもしれないよ」
「……吸血鬼が巣食っていたから、魔物が手出しできなかった。そう言いたいのか」
「まさか! あり得ない。魔物の気配を《白の神殿》が見過ごすものか!」

「あたしもそう願いたかったけどね。でも、それしか考えられないんだ。近々、聖白都を攻略する。英雄殿の力、当てにしてるからね。をよーく慣らしておきなよ」




「セクト、どう思う。お前、白と水の魔法を得るために、それぞれの神殿で修行したんだろ」
「とても信じられないよ。この人類救済機構が独立してやっていけているのだって、元は《黒の神殿》を拠点にしているからだろ。この世界の神々は、異なる世界、魔の国からやってきた魔物と敵対しているんだ。それに、先日お会いした老師様はお元気だったよ。あの人も人族だからね。百歳と言っても、まだまだ現役だ。老師さまが、国に入り込んだ魔物を許すはずが無いよ」
「だが、テティスも憶測だけで判断したわけじゃないだろう。決定的な証拠を手に入れたんだろうな」
「僕は、反対だよ。聖白都を侵攻するなんて」

「……調べた方が良いな。俺は、クロスに話を聞きに良く。セクトは、テッタとメーを呼んできてくれ」



▼切り裂く者

 取り囲む親衛隊の向こうに、テティスが立っていた。
「悲しいよ。イズル。本当に貴方を好いていたんだ。その貴方が、魔物に組したと聞いて、本当に悲しい」
 最後のほうは消え入るような声だった。
「メーは、昼も動けるし、これまで人間を襲った事は無い。ハンターとしても働いてきた。その功績があっても、駄目なのか」
「それは、許されないよ。調べたよ……元は蟲だというじゃないか。人族の貴方とは違う。どんなに外見が人に近しくても、ソレは別の生き物だ。可愛らしい顔の下に、どんな化け物が隠れているか知れたものじゃない」
「ガキだよ。ただの子供だ。もし、メーが人間を襲うようなことがあったら俺が手を下す。だから、今は退いてくれないか」
「目を覚ましなよ。《赤い魔女》は、もう、人の手には負えない領域にまで育ちかけている。ここは、人類最後の砦なんだ。それを内側から崩すような真似はさせれない」
「俺からも聞きたいことがある」
「何かな?」

「テティス=アルバレット。お前は正気か?」


「イズル、それはどういう――」
「テティス様。話しても無駄です。英雄殿は、魔物に洗脳されていたんだ。我々に出来る事はただひとつ。彼が過ちを犯す前に、その魂を救ってやることです」
 副隊長の支持で、笛がなる。親衛隊が剣を抜いた。

 鬨(とき)の声は、後ろから聞こえた。
 血相を変えて、振り向いた先には、戦士の集団が館に仕掛けるところだった。
 動きや装備はバラバラで連携はなっていない。
「ちっ、わざわざハンターを集めてきたってのかよ。テメェら、最初っからやるつもりだったな」
「《赤き魔女》と《白の賢者》、《焔の英雄》相手に、これだけの手勢で勝てるなどと思ってなどいない! イズルを行かせるな! 新米のハンターの守りなら数で押し切れる。前衛を欠いた魔道師に勝機はない! 」
 イズルへの脅しと警告をかねての交渉だったら、親衛隊側がたいまつを用意したように、館を取り囲むハンターたちにもたいまつを持たせていたはずだ。
 降伏や交渉などする気がないのだ。
「ああ、その通りだよ。畜生っ」
 唾を吐き捨てて、イズルも剣を抜いた。



 背後で炎の壁が立ちあがる。白い閃光が瞬いた。
 メーの魔法が侵入してくるハンターの数を制限し、セクトの光の矢がけん制する。
 テッタは二人の護衛をするべく剣を抜き、場所取りを始めただろうか。
 テッタ一人では、突破されるのは時間の問題だ。
 メーとセクトが交互に魔法を使うにしても、威力の高い術を使おうとすれば時間がかかる。
 小さい威力のものでは、ハンターの足を止められないだろう。


「英雄殿。このような形になってしまい。残念です。どうか、今しばらく、事が成すまで大人しくして貰えませんか。弟君には捕縛命令が出ています。居合わせている新米ハンターも、抵抗しなければ命までは……」
 先頭に立つ親衛隊が言った。
「は、抵抗するに決まってんだろ。良いか。メーは俺の養女だ。俺の娘だ。俺は、家族に手を出されて黙っているほど優しかねぇぞ」
 刀身を包む蒼い炎が、辺りを照らした。
 蒼い炎を纏った魔剣を前に、取り囲む親衛隊は一瞬怯む。
「イズル! いい加減、目を覚ませ! アンタが動けば、あたしじゃ止めきれなくなる」
 テティスの叫びを、イズルは一笑した。
 テティスは成り行きを不安そうにみていた。
 嫌々この場にいるといった感じだ。
「そうか。こいつは、ガイア=アルバレットの仕掛けだな。命令を受けたのは副隊長、お前か。お飾りの、ガイアの娘っ子の指示は聞けないってわけだ。ははっ、こいつは良い」
「何が可笑しい!」
「手加減するのもアホらしいって、言ったのさ」


「止める方法はもう一つあるだろう。指揮してるテメェら親衛隊が、俺に負けることだ」




     ・/・





 人を斬った。
 腕に伝わる感触は重く、骨を断つには至らなかった。
 これまでは魔剣の炎に包まれ、瞬く間に灰へと帰す魔物ばかりを斬っていたから、忘れていた。

 人間は燃えなかった。
 知らなかった。これまで、魔物ばかり斬っていたから。

 人間は燃えないのだ。
 そりゃあそうだ。この魔剣は吸血鬼が持っていた物だ。
 奴らは人間を家畜としか思っていない。

 彼らの脅威とはハンターなどではなく、同じ魔物なのだ。

「……は、ははっ」
 知らずに笑いがこみ上げる。
 剣を引き抜くと、血が吹き出た。腕を半分落とされかけた男の目が恐怖に引きつる。
 男は後ろの奴と交代しようと、後方へと地面を蹴る。
 左右に居た親衛隊が、仲間を逃がす時間を作ろうと剣を切り返す。
 それは、人間にしては素早い動作だったかもしれない。
 彼らの連携はよく訓練された、見事なものだったかもしれない。
 だが、これまで相手にしてきたどんな魔物よりも、遅い。

 左右からの剣戟を掻い潜り、イズルは戦線離脱しようとする男に追いついた。
「ああ、そうか。そうだよな。斬るってのは、こうだったよな!」
 両手で柄を握ると、鎧の隙間に剣を突き通した。
 一度ひねってから鎧を蹴飛ばし、刃を引き抜く。
 崩れる男の影から、伸びてきた切っ先を左腕で跳ね除け、懐に入り込む。
 左腕にざっくりと異物が入り込む感覚があった。
 かまわない。これぐらいなら、すぐに治る。
「人族ってのは、テメェらより力がつええんだよっ」
 剣の柄で顔面を殴り飛ばす。歯の何本かは折れたか。
 バランスを崩す体を左手で掴む。
 剣から手を放して、相手の腰にある短剣を抜いた。
 持ち主の顎の下から突き刺した。縫いとめられた口内に血濡れの刃が見えた。
 それは、脳まで届いただろうか。
 短剣をそのままにして、その場から飛びずさる。
 不可視の刃が、すでに絶命していた戦士を鉄鎧ごと割った。
「剣を無くしたぞ。今だ!」
 イズルが無手になったのを見て、親衛隊が声をあげる。
 それを合図にして、後方に位置する三人の魔道師が杖を振るう。
 空の夜より尚暗い、闇を固めた剣が踊る。
 周囲の地面から石の蛇が顔を出す。
 不可視の風が刃となって渦巻く。

 地面に落ちている魔剣からは炎が消え、すでに近くにいた親衛隊が手に入れていた。
 拾わせるわけにはいかないのだ。


 迫りくる魔法を見据え、イズルは不適に笑った。
「そんなんで、俺から剣が奪えると思ったか?」
 イズルが空中で柄を握る仕草をする、と青い炎が刀身を形作った。
 この魔剣は、主の召還に応じて、いつどこにあってもこの手に戻ってくる。
 ただ、来い、と念じるだけで良い。
 闇の剣を切り伏せ、石の蛇を突き通し、不可視の風を焼き尽くす。
 どれも触れた端から青い炎に包まれ、消滅した。
「頑張れよ。これだけいれば、一人くらいは俺の跡継ぎが居るかもしれないぜ。俺が、吸血鬼からコイツの主に選ばれたようにさ!」
 左腕の傷はふさがっていた。


 潰すなら魔道師からだ。
 無性に大きな声で笑いたくて仕方なかった。

 吸血鬼の魔剣は、人間を殺すための物ではなかったというのに。
 俺は、コイツで人の命を奪ったのだということが。
 可笑しくてたまらなかった。

 これまで何度と無く、唱えた言葉をつむぐ。

「構わないさ。――吸血鬼(やつら)を滅ぼせるなら、俺は人で無くなっても構わない」

 邪魔をするのなら、例え、相手が人間であったとしても。






     ・/・



 《焔の英雄》は、魔剣の力が無くとも強かった。
 ほんの一呼吸の間に、一人、また一人と地にひれ伏す親衛隊の数が増えていく。
「……凄い」
 テッタがつぶやく。テッタと切り結んでいた戦士も同じように、イズルの動きに目を奪われていた。
 精鋭ぞろいの親衛隊と魔道師を全て、一人で相手にしている。
 テッタ、メー、セクトの三人は、向かってくるハンターたちを適度に負傷させて、自発的に戦線離脱するか、降伏を勧めていた。
 賞金目当てのハンターがほとんどだ。無理とわかったら引き下がる事を彼らは良く心得ている。
 降伏に応じた者をテッタたちは傷つけなかった。
 それどころか、傷が深すぎる者に対してセクトは癒しの術を施した。


 徐々に、ハンターたちの胸に疑問がわく。
 本当に彼らは、邪悪な魔物であるメーに操られているのだろうか。
 どうして親衛隊はあんなにも、必死なっているのか。

 この場に召集されているハンターは、皆、この半年間に《焔の英雄》に手合わせをして貰っていた。
 最高ランクのハンターであることに驕る事無く、新米もベテランも同じように接する彼には感服していた。
 彼は稽古の度に、冗談半分に言ったものだ。
『俺は強くなんかないよ。魔剣(こいつ)が強いんだ。そうだ。ちょっと持ってみるか? 認められたら、譲ってやるよ』
 恐縮して断る者がいれば、触ってみる者もいた。
 結局、誰一人として炎は出せなかった。
 それが、魔剣を使える事への自慢や周囲へのあてつけではないことは、その時のイズルの表情でわかった。
 彼は、ほんの一瞬、寂しげな目を向けたのだ。

「剣なんか、いらないじゃないか……」
 地面に座り込んでいたハンターがつぶやいた。

 イズルは常に魔剣を握っているわけではなかった。
 人間相手には魔剣の効きが悪いと気づいたら、戦い方を切り替えてきた。
 どんなに強い魔剣があっても、当てられなかったら意味が無い。
 魔物の動きに追いつけなければ、ガラクタも同然なのだと。


 ハンターたちは、イズルの勇猛っぷりに気押されたのか剣を降ろした。
「負傷者の手当てを。こちらに手を出さなければ、我々もそれ以上の事はしない」
 言いながら、セクトは重傷者の傷をみる。
 メーはまだ、恍惚とイズルの活躍を見ていた。

 テッタが、風にのって流れてきた匂いに顔を上げた。
「……セクトさん。これ、血の匂いだ」
「? けが人が居るんだ。少しぐらいで何を……」
「違うよっ。ここの人たちのだけじゃなくて、もっと沢山の――!」

 視線の先で、蒼い炎が吹き上げた。
 青い炎が照らす中で、イズルの剣に斬られた人間が絶命する様がありありと映しだされる。

「兄さん!? まずい、手加減できなかったんだ」

 


     ・/・


 火ダルマになったのは、魔道師だ。
 炎の威力は格段に落ちているらしく、人型のたいまつが踊る。
 一瞬で灰にならないことが、彼を苦しめた。
「……何だ。燃えるんじゃないか」
 蒼い炎の中、血塗れの英雄が浮かび上がる。
 すでにふさがった傷から流れた自分の血か、それとも返り血かわからない。
「貴方はっ――貴方はまがりにも、勇者と、英雄と呼ばれた人だろうに。なぜ、そこまでして魔物を庇うっ。そこまで堕ちたかっ!」
「テティス様。お下がり下さい!!」
 テティスが嘆き、悲痛な叫びをあげる。
 人を救ってきた者が、魔物と化し、今度は人に牙を剥くようになる。
 その運命には、たとえ英雄と言えども逃れられないのか、と。
「私はこの月を呪う。我らの英雄を奪ったこの闇を呪う。貴方にまだ人としての心が残っているのなら、こんな結末望みはしない。こんな……人間同士が殺しあうなんてっ!」
「……堕ちた、ねぇ……? 同士討ち覚悟で魔法を使う馬鹿よりはマシだと思うだけどなぁ」
 そう言って、イズルは頭を掻く。
 周囲の惨状に対して、いつも通りの仕草が不気味だった。
「中央育ちのお嬢様にはきついかもな。でも、こんなの十年もハンターを続けていれば見慣れるぜ? 依頼を受けて着いたときには全滅してたなんて、良くあることじゃないか」
「イズル、それは……本気で言ってるのか?」
「ああ」
「昔の貴方は、そんな事は言わなかった。後悔してるって言ってた。もっと早くにその剣があったら、自分にもっと力があれば、多くの人を助けられたのにって。苦悩する貴方を助けたいと、助けになりたいって、あたしはずっとっ――」
「誰にだって、大切なものには優先順位をつけるだろ? 俺の手は、二本しかないんだからよ」
「それで、同胞を斬るのか。仲間を斬って、魔物を助けるのかっ!」
 テティスの目から涙が溢れる。
「どうして、気づけなかったんだ。もっと早くに。あの日、あたしの手を取ってくれた貴方は確かに人間だったのに」
「何を今更。言ったろ? 俺は、俺がしたいように剣を振るうだけだってさ。お前らが使い方を誤ったんだ」
 苦笑し、言うイズルの声色はいつもと何ら変わりない。
 テティスは自分の腕を強く握り、懸命に何かに耐えていた。 
「……ああ、そうか。もう、あたしの英雄は居ないんだ」
「テティス様。お気を確かに!」



「ああ、そう泣くなって。こいつらのために泣く必要なんてない。こいつらは全員、"吸血鬼連盟の協力者"だからな」
「――――イズル、何を言って……」
「テティス様。耳を貸す事はありません。一度、下がりましょう」
 戸惑うテティスに対し、副隊長が険しい顔を向ける。
「親衛隊の練度が高いのは年齢が高いからだよな。年の割りに若々しい奴が多いのは何でか知ってるか? どいつもこいつも、見た目だけなら、テティスと大差なくみえる。ずっとこの環境にいたお前には気づかないのかもしれないけど、その事に違和感を覚えたことはないのか? 所属してるのがどいつも、ギルド上層部の身内ばかりなことに疑問を持った事は?」
「食事と生活の違いだ。我々は、日の光の下、鍛錬を積んできた。言われのない愚弄を受ける覚えは無い!」
 副隊長が懐から抜いたのは、小さな鉄の塊だった。
 人差し指を突きつけた人の手のようにもみえる。
 剣を突きつけるように、先の尖ってないソレをイズルへと向ける。
「なるほど。副隊長さんと話した方が早そうだ。じゃあ言ってやるよ。――そんなに、老いが怖いのかよ」
 イズルが駆け出す。
 破裂音がした。
 わき腹を掠めたのは、小さな鉛の弾だ。
「副長!」
 テティスが副隊長の腕を押さえていた。
 先ほどの鉄の塊から煙が昇っている。
 払いのけられたテティスが尻餅をついた。
 二度、三度と、副隊長は引き金を引く。
 魔法と違って鉛の弾は、炎に触れても溶ける事は無かった。
「ああ、わからないだろうな。アンタには、ただの人間がどんな気持ちで死んで行くかなんて、想像がつかないんだろうな!」
 弾丸は心臓か頭を狙っていた。
 脚を当てても、小さな穴はすぐにふさがってしまうからだ。
 イズルを止めるには、即死させる必要があった。
「魔物になるのも、老いて死ぬのもごめんだ。こんな世の中なんだから仕方ないだろ。この世の支配者なんてのはとっくに決まってたんだ。人間は生かされているだけなんだよっ。くそ、くそっ。どうして当たらない。この、化け物がっ」
 副隊長の狙いは正確すぎて、銃口を向ける動きは遅かった。

「アンタは良いよ。でも、普通の奴らはどうやって生きていけばいい。アンタが、吸血鬼を全員殺してくれるってのか。無理だろっ。表立った反抗なんかしたら報復される。仮に吸血鬼連盟を滅ぼしたら、その後はどうする。連中がまとめている魔物が好き放題に暴れだすぞ。アンタ一人でどうこうできるほど、世界は狭くないんだよ!」

 近い。互いの顔が良く見える。
 突き出した腕の先、銃口にイズルの体が触れるほどの距離。
 何を考えているのか。
 どうあがいても避けれる距離ではない。
 副長は、引き金を引いた。
 弾丸は胸を穿つ。だというのに、イズルはひるまない。
 鉄鎧に穴をあける銃弾を心臓に何発打ち込んでも、乾いた音がするだけで血が流れない。
「よせ、よせよ……まさか。不老不死だってのか。まさか、まさか、そんなの……」
 やがて弾が尽きても、副長は引き金を引き続けた。
 恐れおののく副長に対して、イズルはことさらゆっくりと剣を振り上げる。
「――英雄扱いしたら、俺が満足するとでも思ったか?」

 テティスは咄嗟に目をそらした。


     ・/・


 月明かりの下、動くモノはただ一人。
「はっ、はは。あはははは――――っ」
 副長の亡骸を踏みつけて、壊れたように笑うイズル。
 その褐色の肌も黒髪も、夜の申し子のようで。
 唖然と見上げているテティス。
「兄さん! もういい、終わったんだよ」
 駆けつけたセクトが、イズルの手を掴む。
「終わった? 馬鹿いうな。親衛隊に指示した親玉がまだ残っているだろうが。それから――おい、テティス。クロスはどうした」
 びくっとテティスの体が震える。
「――――クロス……し、知らない。居ないのか」
 テティスが周囲を見渡す仕草で、クロスがこの場に居ないことがわかる。
 そしてイズルは、この場でクロスを見かけてはいなかった。
 間違えて斬り捨てた覚えも無い。
「ちっ、あいつ、やりやがったな。セクト、余力が残ってるなら着いて来い」
「その前に手当てしないと、胸は大丈夫なの?」
「ああ。こいつを仕込んでたからな」
 服の中に手をつっこんで、板状のプレートを見せる。
 それは楽園の欠片。この地上にある何よりも硬い。
「下手な鎧よりは丈夫だろ?」


「陽動だよ。俺達を囮に使ったんだ。ガイアに近づくには、親衛隊が邪魔だったからな」

「囮だと?」

「ああそうだ。親衛隊とハンターがここに集まって、得をするのは誰だろうな」


▼楽園の欠片

「我請うは、魔を絶つ聖刃。シャリンガ!」
 光の矢が扉に突き刺さる。
 が、砕けたのは扉ではなく、矢の方だった。
「セクトの魔法でも駄目か……。厄介だな。鍵穴なんて、ないしなぁ」
 何気なく、イズルが近づいた時、

《海上都市セラフィムの管理者コードを確認。封鎖モード、一時解除します》

「え?」
 神殿の扉がしゃべった。
 扉の横のパネルが点灯し、音もなく左右にスライドする。
 突然の事に、イズルとセクトは目を見開く。
「……待てよ。《自動ドア》だって? そんな技術、現代に存在してない。こいつは旧世界の……」
「それより、兄さん。今、何をやったの」
「何って、俺は別に……――そうか。《楽園の欠片》だ。こいつ、本物だったんだ」
 イズルが胸に仕込んでいる金属プレートの事を思った。
 一度、楽園を出た人間が再入場するための鍵だ。
「さっきの何て言ってた。何とか都市って」
「海上都市セラフィムだよ、兄さん。……管理者コードを確認したって言ってた」
「そいつが、楽園の名前か。しかも、海にある。大陸を探しても見つからないわけだっ」
 やっと得られた手がかりが、例え名前だけであったとしても、興奮が止まない。






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人類救済機構(第三稿) 2011.1.7


テーマ:大罪人。誰もが正しく、多くの人間が罪を犯した。

状況:イズルに炎の英雄の称号が与えられる。
展開:若手のクロス派(+イズル)と古参のガイア派(現上層部)との間で抗争が勃発。
結末:ネオギルド誕生。これより、吸血鬼連盟との本格的な戦が始まる。

<罪>
イズル:魔物より、人間との殺し合いに快楽を覚えた。
クロス/キーマ:姉妹を殺め、吸血鬼連盟によって守られていた人類を滅亡の危機にさらした。
ガイア:妻子を連盟に差し出して、闇に従う道を選んだ。


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人類救済機構(第四稿) 2012.4.25


テーマや展開等は第三稿と同じ

@毎話の最後に、イサンテと黒の領主の会話(寝物語)。
@話の引きで切る。
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■第一話


▼1、魔物狩り

・テッタとメーの魔物退治風景。
・小型戦闘帆船

 長い緋色の髪が強風にあおられる。赤い魔女は慌てて帽子を押さえた。
 海は殺意に染まっていた。
 荒れ狂う波から伸びた触手が船体に絡みつき、小型の帆船を水中へと引きずり込もうとしていた。
 巨大な海魔だ。
 船体がきしみ、大きく傾く。
 海魔の手を切り離そうと、ハンターだけでなく船員もも武器を持ち、松明を振り回していた。
 海魔退治に駆り出された戦闘帆船の乗組員だけあって、下手なハンターよりよほど腕が立つ。
 赤い魔女は、船室の入り口と胴体を結ぶロープがしっかり固定できている事を確認すると杖を掲げた。
「"我請うは灼熱の牙。ソイフレイム!" ……だったっけ?」
 自信なさげな声とは裏腹に、杖の先端に紅蓮の炎が生まれた。
 炎は螺旋を描いて直進すると、船の縁を掴む海魔の手の一本を削り、奥のもう一本を断ち切った。
 炎と接触した箇所は、炭化しぼろぼろと崩れ落ちた。
 そのあまりの火の勢いに、海面を跳ねて襲ってくる肉食魚を切り落としていた若い騎士が、ぎょっと身をこわばらせた。 癖のある短い金髪は汗と海水で頬に張り付き、真新しい鎧は魔物の体液で汚れていた。
「メーっ、待ったっ!! 船を燃やすな!!」
「うっさいっ。時間を稼いで!」
 若い騎士の呼びかけを、赤い魔女は一蹴した。
 杖の先端についている鉱石が、送り込まれる魔力に反応して無色から緋色へと変わっていく。
 深い真紅のローブにかかった水しぶきが一瞬で蒸発し、魔女の周囲に蒸気が立ちこめる。
「おいっ。それは止められて――…くっそ。全員、伏せて衝撃に備えろ! 次は、さっきより大きい魔法が来るぞっ」
 若い騎士が声を張り上げた。
 魔女は目を瞑ったまま、ただ次にかける魔法に集中していた。
 その無防備な細い腕や首筋を狙って、肉食魚が飛びかかる。
 甲板を駆け上がった若い騎士が、間に割って入った。
 マントに食らいついた魚を船室の壁で叩き潰すと、自分より一回りも小さい魔女の胴体を抱えこみ、飛んでくる他の肉食魚を切り落とした。
「"我講うは――" ……あー、もう知らないっ。火神ソイの加護の下、焼き尽くせ!」
「またそんないい加減な呪文で」
 若い騎士の文句は、熱風にかき消された。
 船の周囲で立て続けに四本の火柱が上がった。
 海面が沸き立つ。
 異形の悲鳴が衝撃となって、船とその上に居る人々を揺らした。
 船体に絡んでいた海魔の手が苦痛にのたうち、炎柱に飲まれ、焼け崩れていった。
 若い騎士は魔女の体を支え、次々襲ってくる衝撃に耐える。
 海に落ちたら、火ダルマか、煮え立った海水に溶けることになる。
 わずかに残っていた海魔の腕が離れ、海中に消えた。
「うふふふふふ。逃がすものですかっ」
 若い騎士に抱きかかえられたまま、赤い魔女は再び杖を振った。
 今度は呪文を唱えようともしなかった。
 船から離れたところの海面が爆発する。
 異形の断末魔が空へと抜ける。爆発を中心にして暗雲が吹き飛んだ。
 遅れて届いた波に、船が大きく揺れる。
 巨大な海魔が生み出していた空間が消えた事で、他の肉食魚も逃げ出した。
 揺れの収まると、船乗りたちは唖然と海を見ていた。
 そんな中、得意げに赤い魔女が杖を振った。
「どーんなもんよ。《赤き魔女》たるこの私、メー=ラリスクが本気になれば、海魔の一匹や二匹ちょちょいのちょい」
「こらっ」
 すっぱーんと小気味良い音を立てて魔女の頭が叩かれた。
 叩いたのは、側にいた若い騎士だ。
「本気すぎだ。メー。巻き込まれた人がいたらどうすんだ」
「謝る。……やだ。何よテッタ。マジで怒ってるの?」
 叩かれた拍子にずれた帽子を直しながら、メーはテッタの顔きこんだ。
 十八になったばかりの青年の頬には、海水で濡れた金髪が張り付いていた。蒼い瞳がじっとメーを見かえしている。その強張った表情は、初陣の恐怖や海水を被って冷えたからだけではなさそうだ。
「……詠唱なしで魔法を使った事、イズルさんに言うからな」
 ぼつりと、テッタがつぶやいた。
 養父の名を持ち出されて、さっとメーの顔色が変わった。
「うぇっ。ちょ、ちょっと、何それ。私、頑張ったじゃない」
「だからやりすぎ。あれじゃあ人間はもちろん、人族が扱う魔法の域も軽く超えてる。そりゃあ助かったよ。けど……僕はメーが心配なんだ」
 そう言って、テッタはメーの両手を握りしめた。
 メーがどんなに腕を上下に振っても放そうとしない。
「ンもう、私は大丈夫だって。《白の賢者》が秀才なら、私は天才なの」
「どんな天才でも、人は呪文と杖なしには魔法が使えないんだよ。メー、唱えるフリで良いんだから」
 最後の一言をテッタはメーの耳元で囁いた。
「――魔物の君がイズルさんの側に居るためには必要なことだろ」
 テッタはぱっと手を放し、倒れてる人たちの介抱に向かった。
 向かった先で、恋人同士なら仲良くしてても良いだの言われ、小突かれている。
 テッタが情けない顔で愛想笑いをすると、何やらひそひそ話を開始した。
 これでうちのかみさんを落とした必勝法とやらを年若いハンターに伝授しようと言うのだ。
 人間の女の子なら聞こえないかもしれないけど、魔物の耳には筒抜けである。
「ふんだ。テッタは人間だから助けてあげないと死んじゃうじゃないの。何人か味見がてらに持ち攫われる前に退治したんだから、感謝しなさいよね」
 残されたメーは、困ったような照れたような顔で頬を膨らませた。
 テッタを狙っている海魔の触手に気づいたから手加減しなかったのだなどと、絶対に教えてやるものか。
「ほらぁ、無駄話する元気があるなら早く船を出してよ。式典が始まっちゃうじゃん!」
 メーはひそひそ話を続ける男連中に怒鳴りつけた。
「式典て、あの三人目の《英雄》受勲者が出たって言う。あれか?」
「そーよ。何を隠そうこの私は、イズルの、」
「そら嬢ちゃん。無理だわ」
「………は?」
「これから船を点検して、必要なら簡単な修理もしないといかん。仮に船に損傷がなくても、式典には間に合わん。いやぁ、嬢ちゃんたちのおかげで助かったよ。ハンターらも《英雄》を見たいってのが多くてな。海魔が巣を作る前に退治できて良かった」
「はあ!? 何それ、聞いてないっ。間に合うっていうから引き受けたのに!」
「何言ってんだ。お宅のリーダーには、ちゃんと説明したぞ」
「テッタ!」
 テッタは、怒りに燃えるメーの瞳から目をそらした。
「ま、陸路じゃないんだから、三日で着いたら三日で戻れると思ったら大間違いだよね。行きと帰りで使う波が違うんだって、同じルートで戻れば良いってものでもないらしいよ。あのでかい奴にも随分と引きずり回されたし……。イズルさんならきっと、式典の出欠席に関係なく、僕らの活躍を喜んでくれるよ」
 その後、式典予定日が過ぎるまで、尻に火がつけば速くなるんじゃない? と真顔で杖を振り上げる魔女を、若い騎士は全力で取り押さえる事になるのだった。


▼2、炎の英雄
・式典(セクトが滞在している状態に変更)


 広場は多くの人でごった返していた。
 港区と中央区を分ける城壁の上に立つのは、三人。

 威風堂々たる壮年の男は、人類救済機構のギルド長。
 上品なドレスを着て微笑んでいるのは、彼の娘。
 そして、最後の一人は《焔の英雄》。

 炎の魔剣を操り、呪われた魔の生き物を灰燼に帰す。
 彼ほど多くの魔物を手にかけたハンターはおらず、ゆえに魔物にもその名が知れ渡るほど。
 狂える月が支配する夜こそが、彼の戦場。
 人々に安らかな眠りを届けるために、彼は今日も闇夜を駆ける。
 救われた村は数知れず、助けられた人々はあの日、眼にした炎の色を忘れない。
 暗闇を蒼で染め上げる。魔物以外は草の一本も焼くことのない、あの炎を。
 あの魔剣の使い手を。
 ありとあらゆる賛辞を贈られても、決して表には出てこなかった彼が今日、初めて姿を見せる。
 広場からはとうに人が溢れているというのに、それでも人は集う。
 勇猛果敢な戦士の姿を胸に描いて。

     ・/・

 イズルはくしゃみをすると鼻をすすった。
 強い日差しの照りつけるバルコニーで、壮年の男性が演説している。
 ガイア=アルバレット。この人類救済機構のギルド長を務めている男だ。
「今、世界の半分は魔の領域にある。かつては安らかな眠りを与えてくれた月は毒を撒き、夜は魔物のものとなった。誰もが月明かりを避け、夜間の外出は控えていることだろう。しかし、その闇の中で魔物と戦い続けた者がいる。単独での退治は不可能とされていた吸血鬼を滅した者がいる」
 ガイアの演説は、風魔法の使い手が広場の隅々にまで運ぶ。
 希少な魔道師がこんなくだらない式典に駆り出されていることに、イズルは苦笑した。
 イズルの服装はいつもの黒のインナーではなく、鷹が彫られた銀の胸当てに、豪奢なマントを羽織っていた。今日のために用意された衣装だ。柔らかなスカーフや袖口からのぞかせるレースが落ち着かないのか、手首をこすっていた。
「まるで仮装だな」
 そう言って頭を掻いた指の匂いをかいで、嫌そうに舌をだした。整髪料の匂いが気に入らないのだ。
 いつもは好きに跳ねてる黒髪も、使用人の手で綺麗にまとめられていた。
「あのさ。勇敢な戦士ですって紹介するなら、こんな格好しなくても良くね?」
 言いながら、腰から下げた長剣に手を置く。
 正装で身を固めた中、長剣は飾り気のない無骨なものだった。
 数多の魔物を滅した魔剣。これだけは、他の物で代用できないからだ。
「そうぼやかない。魔物と戦うよりは、ずっと楽な任務でしょう?」
 ガイアの隣に立つ少女が、舞台の袖に控えているイズルに向けて小声で話しかけた。
 テティス=アルバレット。ガイアの娘だ。
 花飾りで黒髪をまとめ、貴族風の青いドレスを着ている。
 大人びた体付きに反して、こっそりとイズルにウィンクする仕草は幼さを感じさせた。
 事実、彼女はまだ十六歳で、イズルの半分の年しか生きていない。
「俺は見世物になるよか、剣を振るってる方が楽なんだけど」
「これだって、大切なお仕事だよ。あたしらはね。人類が魔物に屈しないための心の支えになんだから」
 誇らしげにテティスが笑った。
 テティスとイズルが小声で会話する間も、ギルド長であるガイアの演説は続く。
「魔物の王、吸血鬼は大陸の各所に個々の領地を定め支配している。そこで暮らす人間は、彼らの奴隷であり食料だ。我々も幾度か大規模な領土奪還作戦を行ったが、上手く言ってないのが現状だ。しかし、十年前、一人のハンターがこれを成した。風の地を治めていた吸血鬼を倒したのだ」
 出番を待つイズルは苦々しい顔でうつむく。
 もう、十年だ。
 風の地を収めていた吸血鬼領主、マーチェント=サリクを滅ぼして、もう十年になるというのに、他の領主は誰一人討ち取ることが出来ていない。
 吸血鬼の支配下にある魔物が邪魔をして、領主の下にまで辿り着けない。
 かといって、魔物を放っておけば人が死ぬ。
 運が良かったのだ。
 新米ハンターの動きを吸血鬼は警戒しておらず、マーチェント=サリクは予期せぬ伏兵に暗殺された。
 一度、その存在を知られてしまえば、次は容易には行かないのだ。
「諸君も噂では聞いたことがあるだろう。吸血鬼を殺したことで、執拗に魔物に狙われているハンターがいると。それでも尚、皆のため、苦境にあえぐ村々のために魔剣を振るうハンターがいると。――それは、すべて本当の事だ」
 ガイアの言葉に、民衆の期待が一気に高まっていく。
「本日、我々、人類救済機構は、彼に《焔の英雄》の称号を与えることにした。さぁ、その英雄を出迎えるとしよう。焔の英雄、人族のハンター。イズル君だ」
 大歓声に包まれる明るい日差しの下へ、イズルは歩みでた。
 祝福の声は、すぐに戸惑いとざわめきに変わった。
 何しろ出てきたのは、ギルド長の娘よりも背の低い十五歳くらいの少年だったからだ。
 十年以上、最前線で戦い続けてきたハンターと言うには若すぎる。
 新米どころか見習いと言った方がしっくりくる。
 体に合ってない大きめの長剣が余計に少年を小さく見せた。
 褐色の肌に黒い髪、可愛さの残る顔立ちには子供らしからぬ鋭さを秘めていたが、民衆がそれに気づくにはバルコニーは遠かった。
「どうやら、戸惑っている者が多いようだから説明しよう。人族というものを君たちは聞いたことがあるだろう。彼らは長命であり、その老い方も人間とは異なる。イズル君もそのひとりなのだよ。さぁ、勇敢な彼を今一度拍手で出迎えようじゃないか」
 ガイアとテティスが笑顔を浮かべる中、イズルは仏頂面でいた。
 テティスに促され、軽く手を振ると民衆の反応がいっそう大きくなる。
 皆が期待と尊敬の眼差しを《英雄》に向けていた。
「俺なんかが英雄ね。吸血鬼どもを一掃したら、素直にそう呼ばれてやるよ」
 イズルのつぶやきは、広場の熱気に飲まれて消えた。


     ・/・


 旧・世界(エ・ワルト)文明。
 数千年前に滅びたとされるその文明は、高度な技術を持っていた。
 夜でも都の明かりは消えることなく、空を飛ぶ船や機械でできた人形が暮らしていたという。
 人々は時に争い、時に手を組みながら、この栄華が何処までも続くものだと信じていた。
 この地上に、人を喰らう化け物――魔物が現れるまでは。
 それは本当に突然で、あっという間の出来事だった。
 魔物が現れ、彼の文明は滅びるのに百年かからなかったと言われている。
 魔物は未知のエネルギーである《魔法》を操り、多くの都を焼き、人間を狩った。旧・世界の人々は奮闘するも、《魔法》を防ぐ術を持たない彼らは次第に押され、生活圏を削り取られていった。
 彼らは懸命に戦った。《魔法》が無くとも、彼らには兵器があった。
 今でも大陸には、彼の文明崩壊直前に使われた爆弾によって生まれたクレーターが無数に残っている。
 それらの兵器が失われ、剣と弓にまで文明が後退してしまった現代でも何とか魔物と渡り合えているのだ。未知の怪物への驚きから立ち直ってしまえばいくらでも対抗する手段はあっただろう。
 けれど、彼の文明は滅びてしまった。
 旧・世界文明に本当の意味での致命傷を与えたのは、魔物の出現と同時期、世界中に広まった奇病だった。それは人類だけではなく、植物や獣、虫や魚、この地上のありとあらゆる生き物に感染し、その命を奪った。
 ボルカノ汚染。通称《月光中毒》である。
 魔物と共に発見された汚染物質ボルカノの多量摂取によって発病するその病に、治療法は無い。発病後から死に至るまでの時間は数秒から数年と大きな開きがあり、運良く生き残れたとしても人体に様々な障害を残した。
 月光に汚染物質ボルカノが極めて多く含まれており、夜間の外出を控えるだけでも発病を遅らせることができると発見するまでに、百あったと言われる人間の国が両手で足りるまでに減っていた。
 いかなる兵器も、使える人間、作れる人間が居なくなってしまえば、ただのガラクタでしかない。
 そうして、旧・世界文明は滅びてしまった。

 昼の太陽が人や植物を育て、夜の月は魔の生き物を育むのが当たり前の世界。
 人間に戦う力がなくなってくると、今度は魔物同士で争うようになった。
 人が消え、魔物が蔓延る土地に、いつしか《吸血鬼》と呼ばれる人間によく似た姿の魔物が姿をみせるようになった。
 吸血鬼はたった一つ、変わった能力を持つことを除けば太陽の下を歩けないほどのか弱い魔物だった。弱い彼らは互いに手を組み、《吸血鬼連盟》を作った。
 吸血鬼が他と違ったのは、異なる種族の魔物も仲間に引き入れたこと。そして、手に入れた富を争うことなく分配したことだった。
 強い個体が力を持つ魔物の世界に、吸血鬼は降伏した魔物を僕として使うという数での力をみせつけた。敵対する魔物を滅ぼし、降伏した魔物を配下におくことで、吸血鬼は魔物の王として君臨した。
 《吸血鬼連盟》は、大陸ごとにその地を治める領主を定め、領主は領民である人間に、定期的に生贄を差し出せば他の魔物から守ることを約束した。
 自分たちを守ってくれる国が存在しない以上、吸血鬼の領主を受け入れている村も数多く存在する。
 不必要な虐殺は行わない。だって、人間は彼らの大事な糧なのだから。


 そんな魔物の支配を、全ての人間が受け入れたわけではなかった。
 黒の大陸に住む豪族たちが私財をなげうって、魔物に対抗する組織を作った。
 それが、《人類救済機構》である。
 人類救済機構は、まず魔物によって寸断されていた各地の交通網を復元した。魔物に賞金をかけ、依頼という形で資金を集めると、世界各地に支部を設置し、国の垣根を越えて情報と兵を動かした。
 ハンターを育成・ランク付けによって、実績のないチームに無理な依頼が行かないようにした。例え、高額の賞金に目がくらんだとしても、担当の監察官がそれを許さないのだ。
 安全が確保されている街道は週単位で書き換わるものの、人類は再び地図を手に世界を歩けるようになった。

 魔物が地上に現れてから幾千年。
 世界の半分は、まだ人間の手に残されいた。





▼3、月毒・月光中毒
・ハンター停止命令を受けたイズル。+セクト。
・テティス、クロスとの軽いやりとり。
 クロスから人類救済機構を改革する必要がある事をつげられる。
・テッタ、メーとも合流。


「俺を戦場に出せないってのは、どういうことだ!」
 医務室に来るやいなや、イズルは担当医の机に書類を叩き付けた。
 そこにあるのは、イズルの健康診断の結果だ。
「結果は去年と同じだろ。どうして俺がドクターストップをかけられなくちゃいけないんだ!」
 イズルが来ることは予想していたようで、担当医は落ち着いた動作で拭いていた眼鏡をかけた。
「同じだからいかんのだよ」
「何?」
「君はこの十年間、身長、体重を含めて全く変化していない。成長していないのだ。それを君は、正常だと言うのかね?」
「俺は人族だ。アンタら人間とは違う」
「そうだな。確かに君は人族だ。我々人間とはいくつもか異なる所がある。先の尖った耳、優れた魔法耐性、青年期が長く寿命は人間の倍もあり、何より特徴的なのは第二次成長期を過ぎた際の肌と髪質の変化だ。浅黒い肌と髪から色が抜け、白へと変化し、その頃から大人と変わらない体格になる。変化するの時期は十七歳前後だと言われ、――君の弟は確か十二でなったか。よく兄弟逆に間違えられ、君もさぞ不愉快な思いをしたことだろう」
 一言多い医者の言葉に、イズルは舌打ちをした。
「弟は早熟だったんだよ。俺が遅くてアイツが早い。そういうバランスなんだろうさ」
「ほぅ。バランスねぇ。異なる点は多々あれど、人間と人族の間には共通部分も多い。親からの資質の遺伝もその一つ。それには青年期への移行の時期も含まれている。しかし、君はそれは弟より二十年遅れているにも関わらず、兆しすらみえない。これを君は、正常だと言うのかね?」
「ちっ。良いだろ別に。俺は健康で、」
「いいや。君は病気だ。私はこれを、月光中毒による成長障害と魔物から受けた呪いの合併症だと診断する。それも重度のな。吸血鬼殺しの際に受けた傷跡は、治癒魔法をも受け付けず、あざは年々広がっているな。それでもまだ君は、去年と同じで自分は健康だと思っているのかね」
 言われて、無意識にイズルの指は首を押さえた。
 黒のハイネックのインナーの下には、吸血鬼に噛まれた痕がある。
 噛んだ張本人が滅びても傷は癒えるどころか、逆に黒い痣となって広がっていた。
 以前、イズルが退治した魔物に言わせれば、これは吸血鬼が死の間際に残した呪いなのだという。
「月光中毒がもたらす症状は多岐に渡る。まっとうな人の姿で死ぬことが出来たら、幸せな方だ。どんなに太陽の光を浴びたところで治癒には至らない。我々は、こんな形で君を、《英雄》を失いたくないのだよ」
「……俺は、新月生まれだ。月光中毒の期限ってのは、生まれた日の月齢が大きく関係するんだろ。満月生まれが一番発病しやすくて、新月はその逆。第一、人族の俺でダメならアイツはどうなんだよ。人間だろ」
「アイツ? ああ、君の元監察官、クロス君か」
「ああ。俺はハンター歴十一年、でもクロスは二十年超えだろ? 半分は俺の監察官で過ごしたと言っても、アイツは結構前に出たがりだったからな。夜間の活動時間は俺の比じゃねぇよ。だけど、元気そうじゃないか」
「そうだな。クロス君も随分と無茶をした。けれどその彼も昨年、監察官を退き、講師の道を選んだ。私は、君もそれに習って欲しいと思っているのだよ」
「はぁ? 何でそんな話に――――」
 言い返そうとするイズルの声を、強い口調で医者が遮った。
「月光中毒は、個人差があまりにも大きな病気だ。人族だから、新月生まれだからと言って油断はできない。クロス君は稀な例だ。表に見せないよう隠していても彼の体も相当にガタが来ている。……はっきり言って、生きているのが不思議なくらいだ」
 医者の眼鏡の下からのぞかせる表情は真剣そのもので、それが可笑しかったのかイズルは苦笑した。医者の言葉が信じられないと言う笑みだ。
「アイツが半死半生の病人だって? この間も新人に見せるとか言って、俺と稽古試合したばっかだぜ。俺もアイツからは三本に一本しかとれねぇ。ソレ見せて、”英雄と言っても、魔剣なしにはこんなものだ。わかるな。ただの人間でも鍛えれば魔物と渡り合える。精進を怠るな”とか抜かすんだ」
「しかし、数年前なら君は彼から一本も取れなかった。最近勝てるようになってきたのは、彼が弱くなったから。違うかな?」
「それは……――――」
「良いかな、イズル君。成長障害を起こして、一見老けていなくとも君は確かに老いているのだよ。もしも君が不老不死で、寿命の心配なく戦い続けられるというのなら私もこんな事は言わない。しかし、人はいつか死ぬのだ。クロス君も、君も、私もね」
 イズルは口をつぐむ。
「戦場に出なければ、君には百年の寿命が残されている。経験豊富なハンターの知識がどれだけ貴重か。後輩たちの教育かいかに大事か、君は考えてみたことがあるかな? 
私たちの後を継ぐ若者が育っていなければ、魔物はそこにつけいることだろう。大切なのは今日、明日の勝利ではない。百年、二百年後の未来に、人類が生き残っていることだ。魔物の奴隷としてではなく、な」
 長い沈黙があった。
 医者の言葉が正しいと、イズルもわかったからだ。
「ハっ、言ってくれるな。だったら誰か連れてこいよ。人で、俺の他にこの魔剣を使える奴。いたら、そいつの教育者にでも何でもなってやるよっ」
 喉から絞り出すように言葉をつむぐイズルの声には、何処か悲痛さが宿っていた。
 イズルの左手は、剣の柄を強く握っていた。
 無骨で何の飾りもない柄、刃も同じ。一見して目立つ特徴はない量産品に見える。
 実際、イズル以外の人間が手にしても、ただの剣でしかなく。
 切れ味や質はそこそこ。なまくらでは無い、程度のものだ。
 イズルの手にあるときだけ、この剣は魔剣としての力を発揮した。
「こいつは次の主を見つけたら俺の手から消え失せるだろうよ。あの日、吸血鬼マーチェント=サリクの手から俺の手に飛び込んできたようにな。必殺の剣だよ。たった一撃で不老不死の怪物を灰にした。俺はこれまでに、これに斬られて一撃でも耐えた魔物を知らねぇよ」
 人の手では生み出せない武器は、元の主である吸血鬼を焼き尽くすほどに強かった。
 そして、気まぐれだった。
 実を言うとイズルはこの剣を持ち歩く必要は無い。
 念じるだけで炎が出るように、来いと願えば手の中に現れる。
 恐らく、前の主のマーチェントも同じだっただろう。
 ただ、死にかけた瞬間、イズルが力を欲した時、この魔剣はイズルの手の中にあった。
 最後に見たマーチェントの顔は、魔剣が移動した事が信じられない。そんな感じだった。
 アレは、未来の自分が浮かべる顔だ。
 イズルは机を叩すと、身を乗り出して医者の顔をのぞき込む。
「本当にわかってんのか、アンタ。この剣が次に選んだ奴が、人の味方とは限らないんだぜ。元は吸血鬼(れんちゅう)の武器だしよ。だったら、俺の居る内にどんどん魔物を殺した方が得だろうが! 教育者に回したら並だぜ。俺は」
 自虐的な笑みを浮かべるイズルの顔には、焦りがあった。
「アンタはただ、書類を取り消せば良いんだよ。目先の効率重視でいいじゃねぇか。アンタら人間が、俺たち人族にハンター義務の年数を定めたのは、そういうことだろ。進んで寿命を削ってやるって言ってんだよ。こっちはよっ!」


     ・/・



「よ。セクト。待たせたな」
 イズルが医務室から出てくると、廊下で待っていた青年がぱっと顔を上げた。
 年は二十歳を少し過ぎたくらいだろうか。腰まである長い銀髪に緑のローブ、魔道士の証である杖を手にしていた。綺麗な顔立ちは女性にもてそうなのだが、今のところ浮いた話は聞いたことがなかった。
「兄さん。どうだった?……って、その顔をみるとダメだったみたいだね」
「ああ。俺に英雄の看板を掲げた客よせになれだとよ。魔物を狩らないで何がハンターだよったく。……――ンだよ。なーに笑ってんだ」
 同情するような目を向けながらも、弟の口元が楽しげに笑っていた。
「え、だってふてくされてる兄さんも可愛いから……――嘘。冗談だよ。そんな睨まないで。うん。正直ね、少しだけ嬉しいんだ。これで兄さんを休ませてあげれるから」
 早足で歩き出したイズルを、セクトが慌てて追いかけた。
 色白で背の高い弟と、色黒で背の低い兄が並ぶ。
「……おいおい。勘弁しろよ。お前まで俺に引退宣言しろって?」
「そうは言ってないよ。でも、折角《人類救済機構/ギルド》の方から休みをあげるよって言ってくれてるんだから、少しは頂いても良いんじゃないかな。そうだ。予定が空いたんだから、今度の里帰り、一緒に行こうよ。兄さん、ハンターになってから一度も帰ってないだろ? 一番下の妹もね。もう喋るようになって」
「や。俺はいい」
「あれ? まだ気にしてるの? 長男なのに下の弟たちに身長を抜かれたばかりか、妹にも抜かれるのは時間の問題だとか。本当は三十二歳なのに、結婚相手を呼ぶ以前に童顔すぎて同世代の恋愛対象にならないとか。まぁ、その前に未成年の僕を連れ出して、勝手にハンターになった事を激怒してる父さんと母さんが、兄さんを半殺しにしそうだってのがあっても、大丈夫。僕がちゃんと兄さんの看病するから」
 セクトの白い歯がきらめいた。
「だあっ! セクト、てめぇ。わざとか、わざとだよなぁ」
「あはは。兄さん、しょっちゅう怒られてたもんね。わかった。嫌なら無理には言わないからさ。でも、手紙くらいは書いてあげてよ。持って行くからさ」
「わかったよ。で、えーと、末っ子がやっと喋るようになったって? どんなのが好きなんだ? 土産はチビどもは揃ってる方が喧嘩しないでいいよな……んー」
「女の子にはお人形、男の子には他の玩具。父さんと母さんには、服が良いかな。本当は、弟たちなんか狩りの道具が良いんだろうけど、僕らで用意したら父さんが怒るからね。あとは珍しいお菓子があると良いな。聖白都(シクウェン)になくて、こっちにあるものが良い」
「ん。頼む」
 答えながらイズルが向けた視線の先には、蒼い建物があった。
 蒼い円柱の壁面は太陽の光を鏡のように反射して、キラキラと輝いてみえる。
 上層部の会議は全てあの建物の中で行われる。人類救済機構の中枢施設である。
 ここ人類救済機構本部は、黒の大陸一の大きな都でもある。
 北には山脈が南には海が広がっており、幾度もの魔物の侵攻を食い止めてきた場所だ。
 初めは黒神を祭る神殿しかなかった場所に、豪族たちが城壁と中枢施設を建てた。
 やがて救いを求めて集まった人が城壁の南側に港街を作り、人材が揃うにつれ、城壁の内側にもハンターの訓練施設や魔道研究所が建ち、本部はますます大きくなった。
 世界二位の大都市になるほどに。
「セクト。《炎の英雄》が居るって事で、港区への移住希望者が増えてるんだってな」
「うん。みんな兄さんが守ってくれると思ってるんだろうね。だから、兄さんのドクターストップはすぐに解けると思うよ」
「ん? 狩りが解禁になったら、俺はまたどっか行くぞ?」
「うん。それで良いんだよ。”戦えない留守番”よりも”戦ってくれる戦士”が欲しいんだ。《人類救済機構/ギルド》の資金源は住人たちからの寄付で賄っている所が大きいからね。《炎の英雄》につられてきた人が帰ってしまっては困るんだよ。その辺りを上手くつけば、《人類救済機構/ギルド》は兄さんへの規制を解くしかなくなる」
「そう上手くいくもんかねぇ。別に俺が英雄じゃなかった頃に戻るだけだろ?」
「勿論、今日明日に破産することは無い。でも兄さんが思っているほど、今の上層部に余裕は無いよ。《人類救済機構/ギルド》設立から三人目、人族初の英雄をこんな中途半端な時期に出したのが何よりの証拠だよ。本当に英雄認定する気があるのなら、彼らは十年前に讃えてるはずだからね。今になって讃えるのは、そうせざるを得ない理由がある。それにこれで、ここが世界一の大都市になれるチャンスだしね。見逃さないよ」
「世界一って、お前、いくら何でも……」
「それだけ、《英雄》の称号に力があるってことだよ。兄さんも自覚して」
 イズルは頭の後ろで腕を組むと、ため息をついた。
「ばっかばかしい。吸血鬼を滅ぼしたわけじゃ無いのに威張れるかってんだ。さっさと《吸血鬼連盟》のアジトを特定して、俺に攻め込ませろってんだ」
「うーん。それはちょっと待ってもらいたいなぁ」
 のんきな声が二人の会話に入ってきた。
 黒服の護衛と小間使いを連れた少女が立っていた。
「テティス=アルバレット」
 セクトが険しい表情で、ギルド長の娘の名を吐き捨てるように言った。
 そんなセクトの態度にもけろっとした顔で、テティスはひらひらと手を振った。
「はろー。焔の英雄さんと弟クン。相変わらず、仲が良いねぇ」
 テティスはいつものラフな格好にもどっていた。
 結んでいた髪はおろし、黒いコートは肘の所で羽織るように着こなしているため肩が見えた。胸とお腹の部分だけ網状になっている上着に、ジーンズも片方だけ短く切ってあるため、健康的な脚線美が露わになっていた。
「ふんっ。未婚の女性ならもっと肌を隠したらどうだ」
 嫌悪も露わにセクトが言う。
 テティスの服装を、セクトは常々下品と称していた。
「弟クンはわかってないなー。今時、そんなお堅いのは流行らないよ」
「まぁまぁ、セクト。良いじゃないか。似合ってるんだしよ」
「――ちっ、だから女は嫌いなんだ。大体、」
 舌打ちして、何やらぶつくさつぶやいているセクトを放っておいて、イズルは親しげに話しかけた。
「テティス。お前、親父さんは良いのか? それと、普段は英雄って呼ぶなよな。落ち着かない」
「あはは、謙虚だねぇ。本当にそれだけの事をやったんだよ? 今、父さん礼拝中だから、あたしも暇でさー。で、暇してるもん同士、食事でもどうかなーって誘いに来たんだけど」
「ああ、暇で暇でしょうがねぇよ。あのさ。お前から、俺が任務に出られるよう頼めね? 吸血鬼連盟のアジトの調べが進まないなら俺が行って――」
 テティスの指が、イズルの鼻先につきつけられる。
「焦るな、焦るな。我らが英雄殿は働きすぎだよ。下準備はあたしらに任せて、今はゆっくり休んでおいてよ。イズルの剣は、絶対に必要になる。あたしが保証するからさ」
 前屈みになったテティスと視線が合った。
 十六歳らしい綺麗で真っ直ぐな瞳だった。
「その時が来たら、どうせイズルは全力で突っ走っちゃうだろ。あたしの英雄殿は前しか見えないから。だから、今は後の事を考えて、しっかり休養をとって欲しいんだよ」
「誰がお前のだ。でもまぁ、話はわかった。今は、訓練所で体を動かすだけにするよ」
 満足げにテティスが笑みを浮かべた。
「勘は鈍るだろうから、そこはごめんねぇ。でも、他のハンターでも代わりが聞くような仕事は彼らに託してよ。《焔の英雄》は人類救済機構(うち)の切り札なんだからね」
 そう言って、テティスは破顔した。笑うと、年相応の少女に見える。
「なぁ、今になって俺が評価されたのって、お前が動いたんだろ。良かったのか?」
「ん? ああ、魔に触れた人間はすべからく魔物の手先であるって奴? やっぱイズルも気にしてたんだ。あたしは怪我人まで疑うのは嫌なんだ。魔物に屈服せず、耐え抜いてくれた人達が誇らしいんだ。彼らのおかげで人の尊厳は守られた。そこにはイズルとセクト、あんた達も入ってるんだよ。むしろ、これまでの不当な扱いを詫びないといけないのはこっちの方だ」
「……ふ、ふん。わかってるじゃないか」
 真っ直ぐに言われて、セクトが渋々と認めた。女嫌いが珍しい。
「ってことはテティス。やっぱりお前が動いたんだな。ガイアの娘だからって、お前が次のギルド長ってわけじゃないんだろ。あまり派手に動くと、老人達が黙ってないんじゃないか?」
「まーね。だから頑張るよ。父さんが力を持っているうちにね。今、この時代は人間と人族だけじゃない。太陽の下に生きるもの全てが、助け合わないといけないのさ」
 自分で自分の言葉に関心しながら、テティスが頷く。
「ふむ。それで始めたのが、人族のハンターに対する再評価というわけか……。ただ単純に戦果だけを比べたら、人間と人族の立場はひっくり返るな。今の上層部はギルド創設メンバーの血筋、《人間》でかためられている。テティス。お前のしようとしていることは、目障りと取られるはずだ。気をつけろよ」
「ん。ありがと、白の賢者様。もし、二人の手を借りる事になったらさ。その時はよろしく頼むよ」
「おう」

 そんなテティスの言葉に、イズルは驚いて目を丸くしていた。
 これまで立場のある人間で、そんな事を口にする奴は居なかったのだ。
「英雄殿。面白い顔になってるよ。んー、こうしてみると、とてもあたしの倍生きているようには見えないっていうか。可愛いね」
「可愛いってお前……俺、三十二だぞ」
「うん。知ってる。ずっと見てきたからね。ふふ、迷子を放っておけない、お兄ちゃんだもんね」
「実際、お前はチビで迷子だったろうが」
「たはは、それ言われちゃうとなぁ。でも、ピリピリしてないハンターって少ないんだよ。魔物との戦いで、みんな心をすり減らしていく。凄いよね、英雄殿は。そんな自然体であたしの接近を許して、デコピンまでさせちゃうんだから。歴戦のハンターじゃなくて、新米だって言われたら信じちゃいそうになる」
「俺は別に――」
 ただ、日の光に弱っていただけだ、と答えるわけにもいかずイズルは言い淀む。
 そんなイズルをテティスは勝手に解釈した。
「照れるな照れるな。イズルの縄張りに、あたしも加えてくれて嬉しいよ。さてと、立ち話も何だし、場所を移そうか」


 そうだな、とイズルが答えかけたその時、
「だーめーーっ!!」
 イズルの背中に飛びつくようにして、駆け込んできたのは赤い服の魔女だった。
「あら、メーちゃん。御機嫌よう」
「うう……油断も隙も無い」
 余裕の態度のテティスに、メーが威嚇する。
 遅れて二人分の荷物を抱えた若い騎士がやってきた。
「テティスさん。すみません」
「テッタ君も子守お疲れ。依頼、上手くやったんだって、連絡着てたよー」
 そんなメーの態度を気にした様子もなく、テティスは新米ハンターを褒めた。
「あ、ありがとうございます!」
「でれっでれと鼻の下伸ばしちゃって、あんた誰の味方なのよっ」
 照れながら答えるテッタの足を、メーが蹴飛ばした。
「ただのお礼じゃないか。メーこそ、もうイズルさんより重いんだから、そうやって伸し掛かるのは止したら?」
「美少女は重くならないの! イズルは強いから平気だもん」
 そう言って、メーはイズルの頭に顎を乗せ、首に腕を回す。
 丁度、メーの胸がイズルに押し付ける形になる。
 テッタが面白くなさそうな顔をした。
「それにしちゃあ。イズルさんが前かがみになってるのはどうしてかなぁ? 」
「おい、メー。首しまってるからっ。テッタ、お前も煽るな」
 頭上始まる口論にたまらずイズルが抗議の声をあげる。
 そんな三人に、テティスが耐え切れずに笑いをこぼした。
「貴方たち、ほんと仲良いねぇ。それじゃあ、皆で行こう――」
「テティス様。神殿でガイア様がお呼びです」
「か……と思ったけど、あーらら、残念。礼拝時間は終わっちゃったか」
 侍女に呼ばれ、テティスが肩をあげる。
「んじゃーね。また今度、相手してよ」
 去り際に、呼びに来た侍女がテティスの耳元に何か囁き、イズルを一瞥した。
 そこには嫌悪の色がにじんでいた。
 ぽつりとメーがつぶやく。
「私、あの侍女嫌い」
 イズルから腕を離したメーは、まだむくれていた。
「ん? テティスじゃなくて?」
「前に"人族の養子になるなんて、貴方も災難でしたね"って、言われたんですよ」
「ああ。あの人、典型的な人間至上主義だからなぁ」
 テッタの説明に、イズルは納得顔で頷いた。 
 魔物であるメーは表向き、イズルの養女で人間ということになっている。
 頭に人間には絶対にない二本の黒い角が生えているが、それは帽子の飾りに見立てて誤魔化していた。
「ずっと本部の内勤できた人はあんなもんだよ。イチイチ腹を立ててたら切りがない。人族の待遇はテティスと親父さんが頑張ってくれてるんだから、お前も邪魔になるようなことはするなよ」
「う~~っ。イズルがそう言うなら……」
 渋々うなづくメーに、えらいなとイズルは褒めた。
「お前ら昼飯は? まだなら一緒に食べに行くか?」
「行く行く!」
 しゅぱっとメーが手を上げた。
「こーら、メー。監察官への報告を済ませなくちゃ」
「えー。連絡は届いてるってテティスが言ってたじゃん。報告はテッタがやっといてよ」
「駄目だよ。うちはメーがリーダーで登録してるんだから、最初にどっちがやるか決める時、名乗り出たのはメーだろ」
「うぅ~~。……リーダーになれば、楽できると思ったのに」
「だから、僕やるって言ったのに。聞かなかったのはメーじゃないか」
 予定と違うーと唸るメーは、イズルの腕から手を放そうとしない。
 メーが養父に甘えると、今度はテッタの機嫌も悪くなってくる。
「わかったわかった。ここで待ってるから、早く済ませて来いよ」
「すみません。イズルさん。ほら、行くよ。メー」
「もう、わかってるってば」
 テッタは一度イズルに会釈してから、メーは先に行こうとする若い騎士を走って追いかけていった。
 イズルは柱にもたれて、そんな二人を微笑ましく見送った。
「これで、セクトが居れば良い店に行くんだけど。あいつハブると凹むからなぁ。本格的なお祝いはセクトが戻ってきてからにすっか」
 里帰り中の弟を思い出しながら、何処に食べに行こうか考える。
 表通りに出来た新しい店に入ってみるのも良いかも知れない。
 ゆっくりできる店で、二人の武勇伝でも聞きながら、そのまま夕食を食べても――。
「暇なら、少しお付き合いいただけますか」
 柱の裏から呼びかけられ、イズル顔から和やかさが消えた。


▼4、英雄一家
・家族会議。(イズル、セクト、テッタ、メーの関係説明)
・クロスからの提案。乱暴なやり方に難色を示すイズル。
・イズルの目的は、後にも先にも吸血鬼を滅ぼすことであり、
 そのために連盟本部の場所を知ることだ。


▼5、魔物社会(黒の大陸、山脈を越えた先)
・クロスの言葉の審議を調べるために、テッタとメーが魔物のたまり場へ向かう。
(メーが魔物だからこそできる調査)
・メーは魔物であることを明かし、テッタはその従者として振舞う。
 テッタは冷や冷や。「怖いなら、ついてこなくてもいいのよ」
・魔物は連盟掲げるエサ「不老の薬」でまとまっていること。
「ここだけの話、黒の領主さまは悪趣味だ。怖い女だ」
「ずっとずっと昔から姿が変わらない。他の領主は代替わりしてるのに、黒の領主は代わらない」
「誤解)黒の領主こそが、全ての吸血鬼の生みの親に違いない」


▼寝物語(1)



■第二話

▼6、里帰り
・セクトとテッタで、白の大陸にあるイズルの故郷へ。
・旧世界の話や遺跡調査。

▼7、魔物社会
・イズルとメーで、黒の大陸にある魔物のたまり場へ。
・魔物の目的、連盟が掲げるエサ、彼らのシステムに違和感を覚える。
・クロスと接触。

▼8、クーデター計画
・クロスからの提案。乱暴なやり方に難色を示すイズル。

▼9、テティス
・セクトたちの帰還を待ちたいが、それはクロスが定時した決行日ぎりぎり。
・参加に悩むイズルの前に、テティスが現れる。

▼10、寝物語(2)




■第三話

▼11、テティス後編
・テティスとの会話の続き。伝えられないまま終わる。
・最後にメーが魔物であることが知られてしまうエピソードを挿入。
(テティスのメイドが目撃とか)

▼12、英雄討伐
・決行二日前の夜。メーとの会話。セクトとテッタはまだ。
 こうなったら自分が参加することで少しでも被害を押さえるかと悩んでいるところに、
 館が包囲される。
・テティスと親衛隊による、魔物討伐。メーの存在がばれた。
・クロスの計画への参加どころではなく、メーをかばえばそのままギルドと敵対することになる。
・魔物の娘とギルドの英雄を天秤にかけ、イズルはメーを選択し剣をとる。

▼13、到着
・セクトとテッタが港に到着。騒ぎをしる。

▼14、親衛隊
・イズルとメーで親衛隊との戦闘。
・イズル。人間を殺害した際に、奇妙な高揚感を覚える。
・途中からセクトとテッタも合流。テティス側の敗北。
・イズルは、クロスが自分たちをおとりに使ったのだと気がつく。

▼15、寝物語(3)






■第四話

▼16、北区
・イズル、セクト、テッタ、メー。
 それと同行してきたテティスでクーデター現場に。神殿に向かう。

▼17、黒の神殿
・神殿入り口でクロス&彼の部下と合流。
・テティスに扉を開けるように交渉するも難航。
・扉に近づいたセクトが、あっさり明けてしまう。プレートの効果。
・神殿は旧世界の生きた遺跡と判明する。

▼18、救世主ガイア=アルバレット
・奥のホールで待ち構えているガイア。
・各々との会話。全ての種明かし。ガイアからの問いかけ。
・君たちはその選択に責任が持てるのか。
・クロスからの批難。ガイアが妻と子を生け贄に捧げたこと。
 テティスは年の離れた娘ではなく、孫であること。
・いい加減にしろよと、イズルの剣が炎をまとったところで、ギルド長が戦闘態勢に入る。
・機械人形&ロボットが動き出し、銃口を向ける。

▼19、寝物語(4)




■第五話

▼20、旧世界
・vs機械人形・ロボット戦闘開始。ギルド長は合間に語りを入れる(防弾ガラスの内側)
・クロスは部下を下げて、残ったメンツでの戦闘に。
・ロボが破壊された後は、ガイアはテティスの温情を願ったのちに自決。

・とらえられた上層部の言い分。クロスを大罪人と罵る。
・ガイアの亡骸にすがるテティス。後味の悪い。
・それでも夜は明けるのだと。


▼21、新生ギルド
・体制作りに忙しい日常を送っているクロス。
・執務室でイズルと会話。今後の吸血鬼連盟対策についての展望。
・まずは、黒の領主を倒し、この黒の大陸を人の手に取り戻すこと。
・テティスの事が話題に上がる。そのことでイズルを呼んだのだと。
 謹慎を解いた後しばらくは、イズルが彼女のフォローに回って欲しい。
 ガイアを追い詰めたのは自分であり、イズルは巻き込まれただけ。
 テティスはこれからのギルドに必要な人材なのだと。
・噂をしているところに、部下につれられたテティスがやってくる。
・会話。妙に明るいテティス。何の前動作もなく、銃を向けたテティス。
 それが何か、わからないイズルと部下。知っているクロス。
・鳴り響く銃声。
※ここは爆薬の方がいいかも。自爆を狙ったが、クロスが身を呈して破壊を抑えた。
※いつかのミラが滅びたときのようにあっさりと。


▼22、闇の盟主
・崩れるクロス。テティスはすぐに拘束され、地面に押しつけられる。
・言動のおかしいテティス。
・イズルが駆け寄ると、クロスが気弱な独白を始める。後任を託す話。
・癒し手のセクトが到着、すぐに治ると励ますが塵となって消える。
・月光中毒の結果。


▼23、棘
・部屋で落ち込んでいるイズル、彼の指示をまつ人々。
・メーからテティスの説明を聞く。強力な精神操作。呪いをかけられてる。
・誰が? ここの守りは堅いのに、どうやって。
・血縁関係を使うことで強固になる呪いがある。
・かつて、吸血鬼連盟にガイアは妻子を捧げた。それは彼の出世を約束すると同時に人質、保険でもあった。
・祖母、または母親を使って、残った娘を呪う。
「末代まで祟ってやろうか。そういう呪いもあるってこと」
・それは、術者を殺せば解けるのか?
・わからない。けど、可能性はある。あいつらが解除しなくても、私が解除の仕方を調べる。
・やる気をだしたイズルが、クロスの残した部下たちに声をかける。


▼24、炎の英雄
・冒頭、式典を思わせるバルコニー再び。立っているのはイズル一人。
・人類救済機構の名前は、これで浸透しているので変更しなかった。
・イズルから民衆への説明。開戦の言葉。


▼25、寝物語(5)




■寝物語原案(1~4)

2011/04/05 1.つまらない話(幕間用)
---------------------------------------
「ひとつ、つまらない話をしようか」

「昔々、魔力を宿した人形の男の子がいたんだ。男の子を作った人形技師のお爺さんが本当の子供のように可愛がったものだから、男の子はね。自分が本当の人間だと思い込んだのさ」

「お爺さんは男の子が自分の意思をもって動き出したことを喜んで、男の子が望むがままに今度は女の子の人形を用意したよ。でも、後にも先にも、人と同じように成長したのは男の子だけだった。魂が宿ったのは一体だけだった」

「それも仕方の無いことさ。この世界には元々魔法は無かったのだから」

「ボクの生まれ故郷では、魔力はこの世のありとあらゆる物に宿り、その形を成す。ごくありふれた物だけどね。魔力とは石塊ひとつにも宿ってるものであり、魔力が失われれば石塊は塵になってしまう。石が石であるために魔力は必要不可欠なであるのと同時に、魔力さえあれば石塊を生み出すこともできる。これは石に限らず全ての物に通ずる理だ。このボクがボクとして存在するためにも、魔力は必要なんだ」

「けれど、どれほどの魔力を注いでも作り出せない物がある。それが魂だよ」
「ボクらは命のあるなしを、心臓ではなく魂の有無で判別しているのさ。心臓なんてものは、後から幾らでも作ることができるからね」
「だけど、魂だけは違う。そこでボクらは、ひとつの結論を出したんだ」

「――魂の生成は神の領域である。」


「そう、人形に魂が宿ることなどあり得ない。ましてや、死んだ息子が。――当時、母親の体内にいた胎児が蘇るなんてね。あり得ないんだ。人形技師のお爺さんは復活を信じていたけどね。人形の中身は、ゴーストの類い。雑多な魂の残りかす。この地上に焼き付いた思念の寄せ集めが魔力を宿した人形に潜り込んで、息子のフリをしていると考えるのが妥当なところだ。哀れなお爺さんは何十年、何百体と人形を作るうちに心を病んでしまったのさ。でも――」

「でも、もしかしたら本当に、彼は死者蘇生を成し遂げたかもしれない。他の誰でも無い新しい命を人形に宿したのかもしれない。そんな夢を抱きたいと思う心があるのも事実だ。」


「これは期待であり、希望だよ」

「お爺さんがやったぐらいのこと、ボクの世界ではとう昔に終えている。多少のアプローチの仕方に相違があれど、百年という刹那に生きる人間のやれる事などたかがしれている。ボクはね。この世界固有の技術に注目してたんだ。なのに、結局、お爺さんの願いを叶えた力は魔力なんだもの。笑っちゃうね」

「だから、これから言うことはボクの考えた仮説であり、希望であり、夢だ」


「――この世界の人間は、神の域に到達できる」

「この世界のありとあらゆる物は魔力が無くとも存在し、生命は魂を宿している」
「この世界に無かったのは、魔法の理(ことわり)」
「魔力が存在しないがゆえに、この世界の住人は自分たちの中に眠る力に対して無知でいた」


「ボクは知りたいんだ。この世界の人間に魔力を与えたら、果たしてそれは神になりえるのか。魂の創造に至れるのか、ね」


「キミはどうだい? まずは不老不死を、神の肉体は手に入れたんだろう? 例えそれが、夜の間だけの不完全な物だとしても。老いを無くせなかったボクらからみたら、幾分神へと近づいているように思えるのだけどもね」

「キミは、ボクの夢を叶えてくれるかい?」




2011/04/06 2.楽しい話(幕間用)
---------------------------------------

「ひとつ、楽しい話をしましょうか」

「昔々、孤独な男がいました。身ひとつしか無かった男は一代で巨万の富を生み、それを一族の繁栄のために惜しみなく振る舞いました。けれど、どんなに仲間を増やしても、彼の子供たちが慕っていてもその寂しさは消えません。頑固で意固地で暴君として振る舞う男を、一族の誰もが畏れておりました」

「男が人間としてはあまりに長すぎる一生を終える時、誰も顔をみせに来ませんでした。逆に次は自分の時代だと宴をあげだす始末。悲しいかな。年老いた男には、それを諫める力はすでにありませんでした」

「男は遠くで宴の声を聞きながら、ただひとり、その時がくるのを待っておりました。人の魂を常闇の冥府へと誘う黒神の使いが、枕元に忍び寄るのを」

「”哀れなものね。若かりし頃は端整であったお顔も、老いてしまえばしわくちゃでみる影も無い。ねぇ、ご先祖様。黒神オキが運ぶ永久の眠りを待つ気分はいかが?”」

「部屋に入ってきた女は、男のしわだらけの手を握り静かに語りかけました」

「”覚えてらっしゃる? 私たちの皮膚を裂いて血が止まらないと、杖でぶったわよね。悪魔のようなご先祖様。子供たちで散々実験したのだから、今度は貴方の番。残った時間を私たちに下さいな。鼠は死んでしまったけど、人間は大きいから平気よね?”」


「……ふふ。嫌ね。そんな睨まないでよ。あの時の嫌がる貴方は見物だったわ。一族の誰もが畏れていた貴方が、あんなに無力で……。酷く咳き込んで、肌をかきむしりだした時には、失敗したかと思って心配したもの。良かったわね。薬が成功して」

「……いやね。復讐だなんて。私たちは、貴方から教わった愛し方を返して差し上げたのに。嬉しいわ、ご先祖様。貴方が正気でいてくれたおかげで、薬の開発が進んだもの。おかげで私も可愛い子供たちに恵まれたわ。みんな、貴方の協力のおかげよ」

「ねぇ。そろそろ、また若返った方が良いのではなくて?」







2011/04/07 3.悲しい話(幕間用)
---------------------------------------

「遅れてすまないね」

「おや、今日の主役がやっときた。随分、ゆっくりだったじゃないか」
「そうよ。紅茶が冷めてしまったわ。罰として、何か話しなさいな」


「ふむ。では、ひとつ悲しい話をしよう」

「それは勇敢な若者の話だ。おのれ家族をも斬り捨てた黒薔薇の棘だ。自身も薔薇の一部でありながら、咲いてしまった黒薔薇を散らそうとあがき続ける一本の棘だ。けれど、どんなにその身を伸ばしても、薔薇の花には届かない」

「そこで若者は、周囲に咲く別の薔薇に目を向けた。他の薔薇の棘なら、この黒薔薇を引き裂いてくれるかもしれない。そうして若者は、まだ芽吹いたばかりの花々に水をやり、育てた。自分の思う方向に育つよう、支えを立てながら」

「若者は、悪役になる必要があった。親しくなっては、折角の若い薔薇たちが黒薔薇もろともこの棘が失われるのを躊躇ってしまうかもしれない。年長の数本だけが知っていれば、後の若い花には憎まれている方が都合が良かった。もっとも、そんな若者の思惑など、周囲に筒抜けだったがね」

「そう、とうの黒薔薇の花にも」


「最初から、若者は棘になどなるのでは無かったのだよ。家族の遺体を苗床に育つ緑の薔薇を枯らすために、他の薔薇の手を借りたところで彼の運は尽きていたのだ。若者は黒薔薇の棘でありながら、新たな薔薇の庭園を育て上げた庭師にしかなれなかった」

「少し、考えたらわかったはずなのだよ」

「あの黒薔薇も、昔、どこかの誰かの手によって育てられた一輪の花にすぎない無いのだと」



「ふふ、そうだね。株分けした先の薔薇の棘では、ボクらにまでは届かないね」
「あら、今の話がその名に十字架を掲げる坊やの事とは限らなくてよ。歴史は繰り返すっていうもの。……ねぇ、先代の庭師さん」
「やや、これは手厳しい」

「いいよ。許してあげようじゃないか。キミの周囲も随分と騒がしくなってきた。ボクらはキミが育てた庭園が焼け落ちる様を見に集まったのだから」
「そうね。新しいお茶を淹れましょう。焦げた薔薇の花びらを浮かべて飲むの。さぞ苦くて甘いのでしょうね」





2011/04/07 4.お開き(幕間用)
---------------------------------------
「さぁて、宴も終わってしまったし、どうしようか」
「あら、惜しくは無いの? あんな聞き分けの良い人間なんて、次はそう簡単にみつからないわよ」
「彼は本当に良くやってくれたからね。願わくば、その魂に安らかな眠りを――……なんてね。悪魔と契約したんだ。もう、黒神オキにだって、その魂を救うことはできない」
「そして、手に入れた魂は、貴方が若さと正気を保つために使われると。ふふ、悪魔も大変ね。いっそ、吸血鬼になってしまえば良いのに」
「ボクが? キミら失敗作になれって? 馬鹿言うなよ」
「あら酷い。まぁ、気が変わったら私でも、他のみんなにでも頼むといいわ。みんな喜んで、貴方の首筋に噛みつくから。ふふ、勢い余って、食いちぎってしまうかも」
「その時はキミ以外の、もっと優しい子に頼むとするよ。さて――」
「行くの?」
「ああ。ここからなら近いからね。挨拶してくるよ」
「気をつけてね。もっとも、誰も貴方に傷一つつけられないでしょうけど」
「はは。命を落とすのは、あと一回で終わりにしたいからね。用心しとくよ。それじゃあ、次のお茶会、楽しみにしてるよ」



「……ご先祖様ったら、あんな嬉しそうにはしゃいじゃって。可愛い。ほんと、幾つになっても子供なんだから。ふふっ。やだ、思い出したら笑えてきちゃった」


「悪魔と契約するような人間の魂を使い続けて、本当に正気を保っていられるものかしら。――ねぇ?」


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第五稿 2013/--/--

変更点。
黒の大陸のみで話を終わらせる。
イズルの実家、聖白都にセクトとテッタが行くシーンなどをカット。

■書きたいこと。
・イズルの心境変化。
・ポイントは、人類救済機構と吸血鬼連盟の癒着。
・七年飛ばしてる以上、テッタとメーの今の姿と、イズルとクロスの関係がどう変わったか必須。
 特にテッタがどういう過程を経て弟子になったかは軽く説明を添えること。
(テッタが弟子入りしにくる話が飛ばされている)
・テティスは可愛く。

・人族差別については、軽くでいい(なりそこない話と被る)
 人間が思っているほど、人族は差別について気にしてない。
 それよりは、人間が人間に行う迫害の方が深刻(魔物と接触した者のリンチのはてに殺してしまうことは田舎ではままある。旧世界で起きたボルカノ汚染による惨劇が、彼らにそういう態度をとらせてしまっている。都会ではそういったことはないが、上の地位にあがれないという弊害がる)

・旧世界文明の遺産については、事前に遺跡を出す必要はない。
 今現在の地上がどうなっているのかよくわからないうちから、更に異なる世界観を出すのは死亡フラグ。これが気になって止まってるからのぅ。
(すでに「吸血姫」と「蟲姫」を読んでいるなら、この地上がどうなってる世界か説明終わってるから、最初から旧世界に触れててもいい。この話から読むなら早すぎる気がする)
 ただ、旧世界文明があり、それが高度な科学文明であることは示すこと。

 セクトの里帰りの詳細は四話に回す。ここでは里帰りの準備していたまで。

・最終的には、吸血鬼連盟への宣戦布告。


▼サブタイトル

0/冒頭

 希望の搭は崩れ
 魔の国からの門は開かれた

 月は悪意に汚れ
 夜は狂気に彩られる
 世界の半分は魔の領域となった

 月に魅入られし子らは
 夜と共に永劫の時を彷徨うだろう

 ふいに 誰かが言った
 新たな英雄を得た今こそ、太陽の下に生きる者たちは互いに手を携えて魔に抗うときだ、と。



1/魔剣の主(上)
 http://hum003.blog114.fc2.com/blog-entry-1087.html

1/魔剣の主(下)


 黒の大陸、人類救済機構本部。東区。
 《白の賢者》の魔法研究所兼自宅から笑い声が聞こえた。
「あっはっは。それで、むくれてるわけか」
 イズルが笑うと、メーはほっぺたを膨らませた。
 赤き魔女ことメーの頭の上には帽子が乗っていた。室内でも帽子を脱がないのは、帽子飾りに見せかけた黒い角が本物だとばれないようにするためだ。この研究所は、魔法開発中の事故があった時の被害を抑えるために外れに建てられているが、用心するに越したことはない。
 なんたってここは、人類救済機構本部にある英雄の自宅なのだから。
 魔物は邪悪なもので、人に味方する魔物はいないというのが人類救済機構の考えだ。魔物が人に手を貸すことがあるとしたら、それは騙して裏切るための下準備だと言う。そんな場所で、メーが魔物と知られたらどうなるかは想像に難くない。
 メーは七年前にイズルが気まぐれに拾ってきた童子であり、類い希な魔術の才能を持つただの人間ということにしていた。
 人間の魔術師は滅多にいない反面、非常に強力な魔術師である事が多い。
 例えば、二人目の英雄がそうだ。
 これまで魔法の概念すら無かった人類に、大地神の加護を通じて魔法を扱う術を編み出した最初の魔術師は人間だった。現代最強の魔術師と言われている聖白都の王も人間だ。
 最近では、イズルがメーの才能を見出して養女にしたのだと囁かれるようになっていた。
 あれだけ魔物を殺し、英雄と呼ばれるまでになった者が、悪そうに見えなかったから、人の子供と代わらないように見えたから、魔物を養女として引き取ったと誰にわかろうか。
 万が一、メーが人を襲うようになることがあれば、自分で斬るつもりだった。
 それは不要な心配だったと、七年を経った今では確信していた。
「笑い事じゃないよう。お祭りもぜーんぶ終わっちゃってるし。もー、こんなに遅れるならあんな依頼引き受けなかったのに!」
 そう言って、テーブルの下でメーは隣に座るテッタの足を蹴った。
 鉄のすね当てがいい音を立てた。
 痛くなかったようで、テッタの足はびくともしなかった。
「でも、誰かがやらないと。《焔の英雄》を祝福する一方で、魔物を野放しにするなんてできないよ。まして、あの海魔は航路を塞ごうとしていたんだよ。道を守るのは、ギルドの理念に関わる大事なことだよ」
 あまりに顔を見せない英雄だったから、同業者の中にも依頼を断ったり、上手いこといって遅らせる人が多かった。見かねて仕事を引き受けたのがテッタである。
「えーっ。じゃあせめて、正装ぐらいは見せてよ。だらしない英雄なんてヤダー」
 イズルは、いつもの黒のハイネックのインナーに白い短パンを履いて、団扇を仰いでいた。歴戦の勇士という割に、イズルのノースリーブの袖から伸びた褐色の手足には傷一つなかった。
「やだよ。暑苦しい。火の大陸出身のお前らと一緒にするなよ。冬になったら見せてやるから」
 そう言って、イズルは半眼でテッタとメーを見た。
 二人とも長袖で、テッタに至っては鎧を着込んでいる。
 火神ソルの加護を受けている二人は、炎や暑さに強かった。
 テッタもメーと一緒に知り合った少年だ。

「それに、海路を守るのは重要な任務だぞ。特に人類救済機構の支部は沿岸沿いに設置されてるからな。海路を経たれた支部は孤立する」
「どうしてもっと内陸に作らないんですか?」
「そりゃあ、陸で孤立するよりマシだからさ。世界地図を見たことはあるか? あれは圧倒だぞ。まだ吸血鬼の支配地がどれだけ広いかよくわかる。この本部から海沿いに南下していった範囲しか、まだ俺たちは取り返してないのさ。丁度、テッタの居た村の近辺が最南端近くになるな」
 そう言って、イズルは水の入ったコップを傾けた。
 テーブルに広がる水をなぞって、簡単な地図を描く。
 まずイズルは横に長い黒の大陸を描いた。
「今、俺たちがいるのはここ。大陸の東端な。ここから南ににずーっと下っていくと、火の大陸が見えてくる。お前たちが居た村のある場所だ。ここの領主も倒してないから、ギルドが奪還した人間の領土はこれぐらいだ」
 そう言って、横に長い大陸の下にいびつな丸を描いた。その丸に引いた直線が人類側と吸血鬼側の境目になる。それは火の大陸の六分の一も無さそうだった。
「え、こんなに小さいんですか?」
「本部のあるここだって、隣の山脈一つ超えたら奴らの領土だ。とにかく、魔物の数が多すぎて手がまわらんのさ。俺が領主を殺した風のところだって、完全にギルドの管轄に置ききったわけじゃないしな」
「なんで? 解放されたんでしょ?」とメーが聞いた。
「吸血鬼の領民でいることに慣れてしまったのですよ。勝手に生け贄制度を再開させ、残っている魔物に伺いを立てようとする村もありますよ。彼らに言わせれば、最初から生け贄として育てた子供は人ではなく獣だ。ただの獣なのだから、その子がどんな殺され方をしようと何の良心も痛まない」
 答えたのはイズルではなく、お茶と軽食を運んできた青年だった。
 長い銀髪に尖った耳、緑の目、端正な顔立ちには嫌悪感が浮かんでいた。
 《白の賢者》その人である。
「おう、セクト。悪いな」
「……兄さん。世界地図を見て良いランクに、まだ二人は到達していないでしょう」
 人類救済機構の話では、人類と吸血鬼の生活圏は半々ぐらいだと告げている。それが本当は違うのだ。まだ、圧倒的に吸血鬼の支配下に置かれている土地の方が広い。
 真実を告げないのは、ひとえに人々に希望を与えるためだ。
 希望が無くては、人々は簡単に吸血鬼側に屈してしまうだろう。
「ばれなきゃ良いんだよ。水なら形は残らないだろ? それに、自分たちが守ろうとしている世界の形ぐらい知ってた方が良いさ」
 イズルは、服の袖で水で描いた地図をぬぐった。



▼ここから、箇条書きメモ


・イズルの笑い声。テッタとメーが家に居る。

・セクトが居ないことを聞かれる。
「ああ。セクトは今、里帰り中だよ。」
「イズル様はこちらに残られたのですね。やっぱり式典があったからですか?」
「様って……これまで通り、呼び捨てて良いよ。英雄の称号を得たと言っても、俺が変わったわけじゃない」
「ですが、」
「良いんだよ。それに、見た目はもう追い抜かされちまったしな。何も知らない奴がみたら、不思議がられるだろ。いちいち説明するのもめんどくさいしな」
「わかりました」
「その話し方もよせよ。急に敬語を使われると気持ちが悪い。テッタ。お前、セクトの話し方がうつったんじゃないか」
「はは、かもしれません。では、お言葉に甘えて」
「そうしてくれ。さて、俺はちょっと中央に用があるから。帰ったら、今夜は外に食べに行こうか。おごるから好きな店を選んで良いぞ」


・セクト滞在に変更。


   ・/・

・イズルの定期診断と引退のすすめ。
・ドクターストップに納得のいかないイズル。
・魔剣の跡継ぎが現れたなら考えるとうそぶいて。
・医者を困らせないの、とテティスが声をかける。
・「あら私が推薦した英雄だもの。健康を気にするのは当然でしょ?」
・この大陸の大半を支配している吸血鬼「黒の領主」の根城と始祖の居所は今調べているというテティス。
・イズルはここぞというときの切り札なのだと言うが。

   ・/・

・欠けた月が昇る。どの窓も、雨戸までしっかりと閉まっている。

・納得のいかないイズルは、夜中にギルドを抜け出す。
・そして、黒の領主が支配する山脈を見上げ、そちらへと歩き出す。
・都から出たところで、早速、声をかけてくる魔物たち。
・魔物は、獲物がそちらから出てきてくれて嬉しい、といい。
「そりゃ、奇遇だ。こちらも同じ気分だよ」
・イズルの手にした魔剣が、青い炎を帯びる。
・炎を反射する青い瞳をぎらつかせて、口の端が上に上がる。
・テティスが何を言おうと、どうせ黒の領土に侵攻するときには戦うことになる相手だ。
 だったら、一匹でも多く、事前に減らしておいた方が良いに決まってる。
「半年ぶりだから、少し鈍ってるかもしれんぞ。お前ら雑魚にも、俺の首をとるチャンスがあるかもな。しっかり狙えよ」
・第一、実戦から長期間離れた状態で、切り札として使われるのは気にくわない。
・かといって、他のハンターやかかしと訓練したって、異形の怪物と対峙するときの役に立たない。魔物は、二本足で立ち、二本の腕で戦うものとは限らないのだから。
・まして、魔物は呼吸するように魔法を使う。
「それじゃ、朝まで楽しませてもらおうか」
・自然とイズルの口から、そんな言葉がこぼれた。



▼2/白の賢者


「もー、部屋にいないと思ったら、またここに来てる」
・洞窟で昼寝していたイズルをメーがみつける。
・ぐっすり寝こけてるイズルで遊ぶ。膝枕にしてみたり、つついたりつついたり。
「おーい。起きてよー。暇だよー」
・一向に眼を覚まさないイズルに、首をかしげる。
 眠りが深すぎる。さすがに、これはちょっとおかしい。
 段々不安になってきたメーが、イズルを背負って、日差しの下に出ると、イズルが痛がって眼を覚ます。
「娘に背負われる父親なんて恥ずかしいから下ろせ」
・洞窟に腰を下ろす二人。メーは鼻をひくつかせて。
「イズル。また魔物殺したでしょ」
「匂うか? ……灰も残さず消してやったんだがな」
 自分の腕や服の匂いを嗅ぐイズル。
「だって、イズルの魔力が増してるもん。死んだ魔物から奪い取ったんだ。私、魔物だからわかるよ」
「使えもしない魔力なんざ。わざわざ、奪ったつもりもないんだがな」

「ねぇ、イズル。ギルドが嫌なら」



▼3/赤き魔女

▼4/魔女の騎士

▼5/大罪人

▼6/焔の英雄

・冒頭と同じ演説台に戻る。
・0話の散文が示すのは、1話ではなくこの6話のシーンである。




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