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逆しまの空3-4

Category逆しまの空
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 天井いっぱいに広がる星空は、人界の空のように瞬くことはなかった。
 壁一面に広がった苔が、光を発していた。
 その星空の中に、断続的に光を放つ巨大な円があった。
 円の中では、無数の歯車が噛み合わさり、その歯車の中には広い青空が映し出されていた。
 何処までも続く雲海と、その上にそびえる都市。
 そこに映っているのは、この円を超えた先に在る世界、天界だった。
 四枚の翼を持つ青年、リューイは洞窟の中を見渡した。
 そこには、暗闇の中でも自ら輝きを放つ翼を持つ者たちが集まっていた。
 リューイの口から白い息がもれる。
「これで門は、我々の手から離れても天界側からの供給だけで稼働する。無事、機材を届けてくれたレイとリィの二人には感謝を」
 ここで、言葉を区切るとリューイは目を伏せた。
 青年に習うようにして、全員が黙祷を捧げる。
 すでに二人の亡骸は、天界に送られていた。
 リスカも見よう見真似で、目を瞑った。
「全員、羽根をここに」
 リューイの声に、リスカは目を開けた。
 そして、リューイに一人一枚ずつ、自身の羽根を手渡していった。
 まずは、二枚の翼の天使たちから。
 この支部の設立当初から、リューイの補佐を務めているフォトが彼の掌を重ねるようにして羽根を手渡した。
 長い金髪に眼鏡をかけたローランは、書類を片手に抱えたまま。
 泣き虫のミューは不安そうに眉を寄せて、恐る恐る羽根を重ねる。
 ゲート開発支部の名誉を願うシーは、決意に満ちた目を向けて。
 不真面目なヒュノが、仏頂面でそっぽ向きながら渡すと、すぐ後ろに居たラライが彼に注意してから羽根を差し出す。
 みんなのお母さん役のサナは軽く笑みを浮かべて。
 支部で唯一の兄妹である兄のアルン。
 同じく、緊張した面持ちでいる妹のノルン。
 暢気者のクウは、皆が渡すのを待ってから最後にゆっくりと。
 これで十枚。
 それから、リューイが自分の羽根を抜いて、十一枚。
 リューイは、身を屈めると隣で青年を見上げていた幼い天使の頭を撫でた。
 これで最後。
 六枚の翼にして戦鳥、リスカは小さな掌に乗った、ひときわ輝く羽根を差し出した。
 十二枚の羽根は、主から抜け落ちた後も光を宿していた。
 天使の羽根自体に、魔力が篭っているのだ。
 十二枚の羽根が、リューイの手の中で独りでに舞い上がると、天井にある門の周囲に浮かぶ。
 羽根同士が互いに呼応し合い、隙間に膜が張ったかと思うとその膜は色を変え、形を変えて光苔の星空と同化した。
 断続的な光の輪も、その中にあった青空も全て壁の中に消える。
 リューイお得意の幻術を結界の上から被せたのだ。
 人界の魔物が使う幻程度なら簡単に見抜けるリスカの目をもってしてでも、ただの苔に覆われた天井にしか見えなかった。
 術の出来にリューイは満足そうに頷くと、仲間たちの方を向いて、
「次にここに戻ってくるときは、帰還するときだ。『中央』を唸らせるような調査書を抱えてね」
 落ち着いた口調で言った。

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