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逆しまの空3-5
2007.08.10(Fri)

 厚い暗雲の切れ目から覗かせる空は、何処までも闇が続いた。人界の夜が延々と続くようだ。

 空に星は無く、雲の間を雷竜が踊る。
 巨大な樹木が連なる森の一角で、天使たちは拠点を築いた。木々に願い、力を貸してもらって枝と葉を別の形に作り変える。毒の泉を浄化し、真水に作り変えることくらい、天使には造作もないことだった。
 すでにある物を別の形に組替えることで、遠い昔、天使たちは神々の世界の創生を手伝ったとさえ言われている。
 その力は、この闇の世界である地界でも使えることに、彼らは安堵した。
 足場になる枝を渡し、葉と蔓で足場を編み上げる。
 雷鳴が轟く度に、遠くに森の緑から突き出ている岩棚が見えた。
 あの岩棚の何処かに、門が眠っているのだ。
 周囲を探索しているチーム、資料をまとめているチーム、家の準備を整えているチームのうち、リスカは家の手伝いをしていた。
 大樹の根元の土を掘り返して、羽根を埋める。
 着ていた黒い服の膝のあたりは、泥にまみれて汚れていた。
 何者かが近づけば、この羽根が結界の役割を果し、主に知らせてくれる。
 羽根に宿る光りが漏れないように、土を被せ、草で覆う。
 キャンプの周辺に埋め終えて、リスカは地面を蹴った。
 小さな体に比べて、大きな二枚の翼がひとつ羽ばたく。
 羽根の光が目立つから、六枚の翼を減らして見せていた。
 ならば、いっそのこと人界で人間に成りすましていたように、全ての羽根を消してしまってはどうかとリューイに聞いてみたら、それは断わられた。
 羽根を出しておかないと、咄嗟に思うように力を引き出せない欠点がある。どんな敵が潜んでいるのかもわからない今、三人以上で行動するが義務付けられていた。
 森の木々より高く舞い上がらないよう注意して、リスカはできたばかりの家に降り立った。
 植物が寄り集まって出来ている暖簾(のれん)を潜ると、明るい光が大樹の中を照らしていた。
 部屋では、サナとアルンが片付けを進めていた。
 サナは胸の前で両手を合わせると、すぐに幼子を出迎えた。
「リスカちゃん。ご苦労様。今、すぐに休める場所を用意するから、ちょっと待ってて」
 そう言って、鞄から布を引っ張り出す。
 鮮やかな花模様が床に広がった。
 人界で買い付けたのであろう、絨毯だった。
 他にクッションを並べて、そこに座るようリスカを促す。
 部屋の奥で、アルンが溜息をついた。
「やけに荷持つが多いと思ったら、そんな物を詰めてきたの?」
 アルンは頬に手を置いて、男にしては高い声で言った。
 癖のある短い金髪は、いつも緩やかに巻いていた。
 それ以上に、目元に巻いている黒い包帯が痛々しい。すっきりとした顎と妹の顔をみる限り、かなりの美形であったことは想像に難くなかった。顔の怪我が原因で、『中央』の仕事がこなせなくなり、ゲート開発支部へと流れてきたらしい。
 しかし、彼のすぐにしなを作る仕草や、言葉遣いを見て、原因はむしろそちらにあるのではないかという噂もあった。
 天使の性は、生まれた時は未分化で、その後、大人になる際に自己選択で男女を選ぶことができる。
 何故、彼が女性を選ばなかったのか。
 それは彼が明かしてくれないので、ゲート開発支部の中でも謎になっている。
 アルンの言葉に、サナは幼子の両肩に置いていた手をのせたまま反論した。
「そんなの、って。小さいうちの姿勢は大事なのよ」
「だからって、そんなに構っていたら一人では何もできない子に育っちゃうでしょう。アタシも妹が居るからわかるけど、今はこういう事態なんだし」
 お母さんとオカマさんの教育方針の衝突に見かねて、リスカは口を開いた。
「私もアルンに賛成だ。自分でできることは自分でやりたい」
 サナの目が潤んだ。
 それを、アルンが手を振って追い討ちをかける。
「ほら、子供の方がわかってるじゃないの。部屋も片付いたし、そろそろ休憩にしましょう。リスカちゃん、皆を呼んで来てくれる?」
「うん。わかった」
 クッションから、ぴょんと立ち上がる。
 名残惜しそうにサナも立ち上がると、
「それじゃあ、私も水を汲んでくるわ。お茶にするのに、足りなかったわよね?」
「ええ、お願い」
 アルンが答える。
 目に布を巻いているアルンは、視力に劣る。薄ぼんやりと物が見えているらしいが、それでも見知らぬ土地を出歩くのには向かなかった。
 リスカは顔を上げて、サナの手を掴んだ。
「川に行くなら私もついて行く。リューイが一人で動いちゃダメだって」
「平気よ、すぐそこだもの。リスカちゃんたちが戻ってくるのをお茶を用意して、待ってるからね」
「でも……」
「ごめんね、少し、一人になって考えたいの」
 まだ、サナの瞳は憂い帯びていた。
 悪いことをしただろうか、とリスカが迷っていると、アルンが手を叩いて、二人をせかした。
「リスカちゃんこそ、気をつけてね」
 そう言って、サナは先に外に出て行った。

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