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逆しまの空4-1

Category逆しまの空
***

 一面の白と、本と、先生が私の全てだった。
 先生と同じ白い服を着て、羽ばたき一つで手がついてしまう空の下で暮らしていた。
 一度、先生の落としたペンを拾ったことがある。
 先生は、引きつった笑みを浮かべて、ペンを引ったくると逃げるように部屋から出て行った。
 壁の向こうで、話し声が聞こえる。
 部屋に施した封印が効いていると、信じて疑わない声が。

 曰く、訪れる度に、物が増えていくあの子が怖い。
 曰く、次々と壁や床を『作り変え』ていくあの子が怖い。
 曰く、両親と近隣の人々の命を奪っておきながら、未だ天使の力を失わないあの子が怖い。

 こちらの挙動の一つ一つに怯える先生が、哀れだった。
 部屋では、誰も私を名前で呼ばなかった。
 六枚の翼にして戦鳥。
 いつか来る戦に備え、檻で飼い馴らされる雛(ひな)。
 その『いつか』は、きっといつまでも来ないで、私はこの部屋で永久に過ごすのだろうと思っていた。
 影よりも暗い色の服を纏った青年が、私を訪ねて来るまでは。
「リスカ=ラファ、迎えに来たよ」
 初めて聞く私の名を呼んで、彼は扉を開けた。
 リューイを名乗る彼は、四枚の翼を持っていた。
 手を引かれ、広い空の下に出て行く私の背で、二枚の翼の先生たちが会話している。

 ――あんな闇を纏う暮らしだけはしたくない。
 ――自分は『監獄』勤めで良かった。

 その日、私は、自分の名前と自分の部屋の呼び名を初めて知った。

 着いたところは、上にも下にも青空が広がっている寄せ集めの雲だった。
 一番に出迎えたのは、腕を組んでいて仲の良い二人組だった。
「何だ。六枚の翼の戦鳥っていうから、どんなごついのが来るかと思ったら……。ほら、笑った。ラブ&ピースってね。あれ? 知らない?」
 レイが自分の口の両端に指をひっかけて、笑ってみせる。
「ちょっと、ごついは失礼じゃないの。こんなに可愛いのにねー。ほーら、リィお姉さんだよー」
 私が戸惑っていると、レイの脇に居たリィが彼を押しのけて、綺麗な髪と肌だと私を褒めた。
 目を館に向けると、張りぼての館の外で男女が言い争っていた。
 文句たれるヒュノとシーのコンビを、頭の上で短く髪をまとめたラライが腕を巻くりながら、応戦している。泣き虫のミューは、両者の間に挟まれて右往左往していた。
 生真面目そうな天使のフォトから門の説明を受けていると、眼鏡をかけたローランが、機材の陰で眠りこけていたクウの頭をファイルで叩いていた。
 食堂では、サナとノルン、アルンの三人が、真っ赤な苺の乗ったケーキと沢山の料理を作って出迎えてくれた。
 毎日が歓迎会だったら良いのに、何て言ってレイが私を肩に乗せた。
 誰も私を『六枚の翼にして戦鳥』と呼ばなかったし、私に怯えた様子もなかった。
 ここ、ゲート開発支部のいつもの日常が広がっていた。

 それが、心地よかった。



 仕切りの向こうの話し声で、リスカは目を覚ました。
 眠い眼を擦りながら、話声に耳を傾ける。
「リューイが戻ったのか」
 撤収準備を手伝っている間に、寝てしまっていたらしい。
 皆、木の葉の暖簾(のれん)の向こうに集まっているらしく、寝室には他に誰もいなかった。
「起こしてくれればいいのに」
 リスカは毛布とクッションを掻き分けて立ち上がると、皺(しわ)のよった裾を小さな手で叩いて伸ばした。
 広間への暖簾を潜る前に、リスカはさっきまで寝ていた場所を振り返ると、
「もう、リィとレイには夢でしか逢えないのだな」
 そう、つぶやいた。


***

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