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逆しまの空4-7

Category逆しまの空
***

「シー、ノルン!」
 ヒュノは仲間に向けて、警戒の声をあげた。
 それは、黒い火の粉と光を放つ、不気味な炎。
 樹の上でヒュノは、額に手をかざし、遠く一瞬に膨れ上がり、今では忽然と消えてしまった火柱の見えた方に身をのりだした。
「今のは魔法か…? 二人とも悪い」
 ヒュノは、足元に向けて声を投げかけた。
 ヒュノは樹の上から、二人は茂みを掻き分けながら居なくなった子供を捜していた。
「先に行って、私たちも早めに引き揚げるから!」
 ノルンは、口の脇に手を当てて、樹の上に向けて言った。
「うん。仕方ないよ。先に行って」
 シーも茂みから顔を上げて、答える。
 ヒュノはキャンプと、足元の二人を見比べて、頭を掻いた。置いていくのを迷っているのだ。
「いいよ。ヒュノ。ラライのことが心配なんでしょ」
 シーの呼びかけに、ヒュノは顔を赤くした。
「ば、ばっか。何で俺が、あんな女の事――」
「だって、ヒュノがゲート開発支部に志願したのって、ラライが行くって知ったからでしょ?」
「……」
「こんなときだからこそ。今が一番、側に居てあげたいんじゃないの? ボクらも、すぐに戻るから」
「……悪い」
「謝らないでよ。最初から、何か起きたらヒュノは抜けるって約束だったもの。ね、ノルン?」
「そうよ、ヒュノ。私たちもこの辺りを探したら帰るから」
 ヒュノは、二枚の翼を開きながら二人に呼びかけた。
「お前ら、無理すんなよ。何かあったら、戦おう何てせずにとにかく逃げろ。いいな」
「わかってるよ。ほら、早く」
 シーがまだ渋った様子のヒュノに声を投げかけると、ようやく彼は翼を羽ばたかせた。
 走るより、木々の間をすり抜ける方を選んだらしい。
 すぐさま、白い翼は闇と緑に遮られて見えなくなる。
 それを見送っていたノルンに、声が投げかけられた。
「ノルンっ。今、リスカ様がいた」
「えっ!」
「あっち、一瞬だけど、間違いないよ。急ごう」
 そう言って、シーは切羽詰った顔で手を差し出した。
 ノルンはその手を握った。


 小枝や葉でできる引掻き傷なんて、気にならなかった。
「シー。ごめんなさい。少し、休憩を」
 ノルンは息を切らして、樹の幹に手をついた。
 反対の手で額を拭うと、ぐっしょりと汗が手についた。
 元々、飛んで移動することの多い天使は、走るのは不得意だった。
「ねぇ。シー、本当にこっちなのかしら。こんなに走って、追いつかないなんて……」
 服の袖を額にあてて、呼吸を整えながら、ノルンは不思議そうに言った。
「ううん。ここで合っているよ」
 シーの声は、思いの他遠くから聞えた。
「居たの!?」
 ノルンが、喜びの声をあげて、顔をあげる。
 ほんの数メートル離れた先、トゲトゲしい茂みの向こうにシーが立っていた。
 ノルンは期待に満ちて、辺りを見渡すが、シーの他に人影は見えなかった。
「シー……?」
 辺りを覆う暗闇のせいか、シーの顔が見えなかった
 雨の止んだ後の空では、また稲光が度々辺りを照らすようになったものの、それも大樹の多い森の中では明かりとしては不十分だった。
「ねぇ、サンプルの採取ってどうやって行うのか、知ってる?」
 シーの楽しそうな声が聞えた。
「シー? そんなことより、リスカちゃんは?」
「知らないかな。君は医療班だし。あのね、罠を仕掛けておくんだ。それがどんなに見た目が弱そうに見えても、何をしてくるかわからないからね。半殺しにして、大人しくなったところを檻に入れたあと、傷を治してやるんだ。効率いいだろう? もし、癒すのが間に合わなくても、それは事故なんだ。だって、ボクは『殺すつもりは無かった』もの」
 ノルンは息を飲んだ。
 そして、自分の回りの足元をよく見渡した。
 沢山の生き物が、鋭い棘の生えた茨に巻きつかれて死んでいた。
「シー。そんなやり方、ローランは――いえ、リューイ様も認めていないわっ」
 ノルンは目に涙を浮かべて言った。
「でも、神様はお許しになった。だってね。ボクの翼はこんなに綺麗でしょう? 他の命を奪えば、腐れ落ちてしまうはずなのにね?」
 闇の中に浮かぶ白い二枚の翼。
 己の翼の先に口付けて、シーは冷笑した。
「シー、それは違うわ。それに、貴方だって、黒い翼の人たちとの話し合いに賛成していたじゃないの」
「……ああ。あんなの、本当に成功すると思ってたんだ。幸せものだねぇ。ノルンは」
「だって、貴方――」
「『中央』が君ら『辺境』を認める日は来ない。これは、確定事項なんだ。
 ねぇ、何処からが事故で、何処からが殺人になるのだと思う? 君だって、医者として助けようとした命を救えなかったことがあるよね。でも、君の翼は綺麗なままだ。医療ミスも判断ミスも何も問われてはいない。
 それってさ、つまりは本人の生命力の問題なんだ。寿命だったんだね。だから、殺人ではないし、仕方なかった」
「シー…貴方『中央』の。……まさか、リスカ様を!」
 ノルンは、掌で顔を覆った。
「残念だけど、それはボクじゃないよ。安心した?」
 シーは、外套のポケットに手を入れたまま明るく答えた。
「シー、懺悔したいことがあるのなら幾らでも話を聞くから。秘密にして欲しいのなら黙っていてあげる。だから、もう戻りましょう。皆が心配するわ」
 ノルンは、涙を拭うと哀しく微笑んだ。
 そして、シーに向けて手を差し出す。
 ここに着たとき、シーが手を差し出したのと同じように。
「まだ、他人の事を思いやれるんだね。流石は『兄を擁護し続けて流された』だけはあるね。君だけなら、『中央』はいつでも受け入れてくれたのに。わざわざ拒むなんてさ。ボクには解らないよ」
「シー、お願い。もう止めて、それから、この子たちのお墓も作ってあげましょう」
 ノルンは両腕を広げた。
 足元には、小さな生き物たちの屍が横たわっていた。
「ああ、良いとも」
 シーは快諾した。
 ほっと、ノルンは胸を撫で下ろす。
「シー。後で、念のために貴方の羽根を診させて。確かに貴方の翼は綺麗よ。でもね、」
 途中で言葉が途切れた。
 シーの側に歩み寄ろうとして、ノルンは足が動かないことに気がついた。
(疲れすぎた?)
 そう思って、足元を見下ろすと、太い縄のような蔦(つた)が腰から下に巻きついていた。
 棘こそ無いものの、辺りの亡骸にまきついているモノと似ている気がした。
 青ざめた顔で、ノルンはシーを見つめる。
「言ったよね? ボクはここに罠を仕掛けて置いたって。周りを見たときに、どうして解らないのかなぁ? 『そこで立ち止まってしまったのは、君のせいだ』よね?」
 シーの言葉は、何処までも冷たかった。

 それは蔦だ、元はただの蔦だ。
 正し、天使によって作り変えられ、鋭い棘を生やすようになった。

「もっと早くに気がついて、君もソレを『作り変え』たら、間に合ったかもしれないのにね。可哀想に……馬鹿は死ぬまで治らないって言うから」
 遠くで、名前を呼ぶ声がして、シーは顔を上げた。
 歓喜に歪ませていた顔を、哀しみへと変えて、
「ヒュノっ。こっち! お願い、早くっ。――ノルンが」
 悲痛の声を上げた。


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