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逆しまの空5-1

Category逆しまの空
 日の光も星明りも届かない暗闇を、いくつもの稲光がはしる。
 雷に照らされてようやく、空と大地の判別がついた。
 空を覆おう厚い雲が途切れることはなく、大地には広大な森が続いていた。

 その天と地の狭間を、真白い鳥が飛んでいた。
 それは幼い子供だった。
 金色の髪をなびかせ、黒のワンピースの背中からは、一対の翼が伸びていた。
 羽ばたく度に光の軌跡を残すその翼は、この暗闇の中では目立ちすぎた。

「――***!!」

 背後からの怒声にリスカは、ちらりと後ろに目を向けた。

 閃光が落ちる度に、暗闇の中に人影が浮かぶ。
 それは、この闇の世界に相応しい黒い翼を持っていた。
 一人は鎧を着込んだ少年、もう一人は軽装の女とわかると、また前を向いて翼をはためかせた。

 追ってくるのはどちらも、リューイが交渉しようとしたときに対岸にいた者たちだ。
 リスカは、リューイが伝えてくれた『地牙族』の言葉を思い返した。

 苛立った声が耳に届く。
「くそっ、いい加減にしろよ。本当に落としちまうぞっ!」
「――迅雷(ジンラ)、あんたはこのまま真っ直ぐ飛びな」
 鋭い矢のような女の声に危険を察して、リスカは見えない背後の気配に全神経を集中する。
 足元から恐怖が固まりとなって、迫ってくる。

 それが、何かは考える必要もない。
 天使が本能的に恐怖を覚えるもの、「闇」の塊だ。
 それも一つではない。

 リスカは自分の身体を抱きしめるように、翼を閉じた。
 すぐ隣を、何条もの闇の矢が掠めていく。

 飛ぶのを中断した身体は、失速し体勢を崩した。
 空を目指して飛んでいたのと同じように、今度は地面に向けて落ちていく。
 リスカは目を瞑り、落ちるに身を任せた。

 ふわり、と身体が浮いた。
「炎斬(カザン)の姐御っ。捕まえたっ」
 腹に回された腕も背中に当たる、感触も固くて冷たい。
 鎧を着ていた少年、迅雷が呼びかけると、それに答えるようにして新しい羽ばたきが聞こえた。
「気をつけな。なりは小さくても、何をしてくるかわからないよ」
 闇の矢を放った女の方だ。
「平気だよ、気絶してる。……それにまだ子供じゃないか」
「はんっ。あたしに言わせたら、あんたもまだまだ子供だね。砂銅(サドゥ)はこいつらにやられたんだ。あたしらだって、危なかったのを忘れたのかい」
「忘れるもんか! 兄貴を、あんな目に――」
「だったら、その捕虜をしっかり見ときな。こいつらの正体を掴むチャンスだよ」
 少年の頷く気配がした。
 天使らがこの未知の世界と探ろうとしたのと同じように、この世界の住人からみたら天使も未知の存在なのだろう。
「さぁ。仲間が出てくる前に帰るよ」
「あ、ああ…」
 躊躇いながら少年が答えると、リスカにはなじみの飛翔感が身を包んだ。
 幼子を落とさないように抱える少年の腕は、思いのほか優しかった。

(……シー。皆には上手く言ってくれるかな)
 キャンプから離れていくのを肌で感じながら、リスカは提案してくれた仲間の事をおもった。




***

 天使の子供がさらわれていくのを、森の中から見ている者がいた。
 大樹の枝の上に立ち、天を仰ぎ見たまま両腕を広げる。
 いつもは端整なその顔が歓喜に歪む。
「見ていて下さいましたか、麗しのヒアレイリア様」
 シーは聞こえていないとわかっていながら、朗報を天へと告げずにはいられなかった。
「これで六枚の翼を持つ天使は貴女ただひとり、これで貴女の座は揺がない」
 その声は喜びに溢れていた。

 一番大変だったのだ。
 あの戦鳥の周りには、いつでも誰かがついていて。
 誰も彼もが大事に守っていたから。
 それがようやく、この瀬戸際になって達成したのだ。

「麗しのヒアレイリア様。貴女を不愉快にさせる者も、残りは九名になりました。ボクを褒めて下さいますか」
 歓喜に身を震わせて、シーは暗い空を恋焦がれるように見つめる。
 まるで、そこに愛しい人の姿がみえているかのように。

「ボクを、救って下さいますか。麗しのヒアレイリア様」
 答える者は稲光しかいないというのに、シーは満足げに笑った。

 声もなく、ただ笑いつづけた。

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