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逆しまの空5-5

Category逆しまの空
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 駆けつけたクウとローランが見たのは、天使が二人組み合っている様だった。
「ただ、見てただけだってのかよっ!」
 怒りをあらわにして、ヒュノが言い捨てる。
 ヒュノは尻餅をついていたシーの胸倉を掴んで無理やり立たせると、空いた左手で拳を握った。
「どうしてすぐに俺を呼ばなかったっ」
 シーは、怯えた様子で顔を背けると、これから自分を襲うであろう暴力から守ろうと、両手を顔の前にかざしていた。
 今にも殴りかかりそうなヒュノの腕に、銀髪の女性が手を添えた。
 仲裁に入ったのは、フォトだ。
「ヒュノ、およしなさい」
 彼女の指は、ヒュノの腕を軽く握っているだけに見える。
 しかし、ヒュノの左腕が小刻みに震えていることと、彼の表情からみて、そこには強い力がかかっている事が見て取れた。
 魔法に長ける種族にとって、外見は当てにならない。
 一時的に握力を高めることで、普通なら手の中を転がすだけの石を、砕き、砂粒が指の間から零すぐらいの真似はやってのける。
 何処まで身体能力が飛躍するかは、各々の持つ魔力の強さに比例した。
 そして、リューイの副官を務めるフォトは、この場に居る二枚羽の誰よりも強い力を備えている。
「っち、わかってるよ。悪かったな」
 ヒュノは舌打ちすると、シーから手を離した。
 シーはそのまま地面に尻餅をついた。

 ローランは、目の前の暴力が収まったことに胸をなでおろした。
 緊急招集とは、この喧嘩のことだろうか。
 これから我々は、黒い翼を持ち闇を操る地牙族の目を盗んで門まで戻り、更に『中央』の管理下にある天界側の門を奪還するという大仕事が残っている。
 場合によっては幾人か、人界へと落ち延びる必要も出てくるかもしれない。
 皆、気が立っているのだ。
 門を経由した羽根の知らせを受けて、すでにキャンプ地には全員集まっているようだ。
 内部を作り変え、家代わりにしていた大樹はまだ元の姿に戻す途中だったらしく、所々に瘤や大きな洞が残っていた。
 ほっとしているローランの傍らで、クウが何かを探すように大きく辺りを見渡して言った。
「……リスカ様は、どうした。リスカ様は、近くで結界に使った羽根を回収していたはずだろう」
 クウの声には、不安の色があった。
 はっとして、ローランも集まっている全員を見渡す。
 リスカの仕事はものの五分とかからずに終わる簡単なものだ。
 とっくに母親役のサナの懐に納まっていて良い筈なのに、真っ青な顔をした彼女の腕の中には布しかなかった。
 サナは小刻みに震え、彼女の視線は地面の上をさまよっていた。
 とても、話せるようには見えない。
 代わりに答えたのは、ヒュノだ。
「黒い翼の連中に攫われたんだってよ。シーが目撃してる」
 責めるような口調だった。
 床に伏せたまま、シーが顔をあげる。その目は、涙で潤んでいた。
「ボク、……怖くて……」
「それでずっと隠れて、歩いてここまで戻ってきたんだと。さっさと、羽根で知らせてくれれば良かったんだ。そうしたら俺が――――」
「そして、貴方も捕らえられるか、屍を晒しますか?」
 フォトの指摘に、ヒュノはまた舌打ちをした。
 ヒュノにも解っているのだ。
 六枚の翼にして戦鳥たる幼子の魔力は、二枚羽の比ではない。
 例え、二枚の翼の者が三人集い、翼の数を揃えたところで、超えられない壁がある。
 戦鳥の産声で失われた翼の数にも届かないのだと。
 クウが両腕を広げて異議を唱えた。
「リスカ様が攫われた……? 六枚の翼の戦鳥だぞ? 何処の誰にそんな真似ができる」
 クウの脳裏には、地牙族との交渉の際に生じた爆発が蘇っていた。
 サナの水球と少年兵の槍の反応だけでも、川原の一部が消え失せた。
 あの時、クウが生み出した光の盾は、水を零さなければいいだけの結界とは厚みも強度もあまりに違う。
 それだけに、被害も大きくなったはずだ。
 それを、リスカは仮初の姿のまま翼も出さずに、この世界の植物を『作り変え』ると、木の根を編み上げ強靭な壁を生み出してみせた。
 二枚の翼の天使が、『作り変え』た後の完成を思い描いてから行う術を、六枚の翼は瞬きする間に終わらせてしまう。
「リスカ様が願うだけで、この大地の植物も土も水もその在り様を変える。彼女が視線を向けるだけで、次の瞬間には周囲にあるもの全てが敵となって襲い掛かってくるだろうよ」
「事実よ。現に、私たち、あの子の居場所がわからないじゃない」
 アルンがはっきりと告げる。
 彼の手は泣き崩れるサナに向けられず、胸の前で腕を組んだままだ。
 その人差し指は、苛立った様子で腕を叩いている。
 クウは、信じられないという風に首を振ると、先ほどのヒュノと同じようにシーに詰め寄った。
 止めようとするフォトの腕を払って、クウは俯いている天使を見下ろした。
 シーは頭を抱えていた。
「ごめん、ごめんなさい……ボ、ボクが見たときはもう、リスカ様はあいつらに捕まってて……気絶してるみたいで……それで……」
「それで、自分だけノコノコと逃げ帰ってきたって? 少し前まで連中に仇を討つとか、言ってなかったか?」
「じ、実際に目の前にしたら……頭の中真っ白になって、足がすくんじゃって。ごめん……みんな、ボクが悪いんだ……」
「ああ、悪い。簡単な合図の一つも送れやしない何て、その翼はお飾りか? ああ、そうか。だから、アンタは『辺境』に居るのか。さしずめ『内弁慶で口先だけの罪』か?」
「ごめん……なさい、ごめんなさい」
 クウの投げかける言葉に、シーは俯いたまま涙を袖でぬぐう素振りをみせた。
 シーはただ、謝罪の言葉を繰り返し続ける。
 そのうち、側で見ていたミューまで、ぐずり始めた。
「もうヤダよぅ。クウも、ヒュノも、もう止めてよ。また、一人いなくなったんだよ。どうしてこんな時に、喧嘩するの」
 いつもなら、泣いてるミューを慰めてくれるノルンはすでに亡く、サナやアルンには他の面倒を見るまでの余裕がなかった。

 おずおずと、シーが遠くを指差した。
 それは、天界のゲートが隠してある山とは、別方向の山脈だった。
「リスカ様は、向こうに連れて行かれたんだな?」
 クウが念を押すと、シーはうなづいた。
「よし。ヒュノ、アルン、手を貸せ。リスカ様を連れ戻す」
「はぁ? 何で俺がお前の命令なんかに」
「だったら、ラライに頼むまでだ。彼女の足の速さは魅力的だからな」
「クウ……てめぇ」
 ヒュノが睨むのも構わず、クウは背中の翼を広げた。

 そのつま先が地面から離れる前に、呼び止める声があった。
「勝手な行動は許可できないよ。クウ」



つづく

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