2009.05.04(Mon)
前日宣伝ですよーぅ。
イラスト・写真本コーナーで、そっと小説本を配布してます。

■参加イベント、スペース
5月5日 コミティア88
スペース:C22a サークル名:milktier (委託)

■新刊情報(クリックで大きな絵)
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SOUL WILL ~外伝1316~
著者:酉&那月 イラスト:酉
A5コピー/表紙カラー・本文モノクロ/28P  予価200円

ガイスト候補生のホロウは、
卒業させてくれない保護者に苛立ちを覚えていた。
そんなある日、倭刀を携えた女のガイストがやってきて、
ホロウの師匠になると言い出した。

――よーし、将来有望な糞餓鬼だ。
私がきっちり型に嵌め、もとい、仕込んでやろーなー。



本文のサンプルは、続きからどうぞ。

■本文サンプル(一部抜粋)


 待て、合図で止めなかった。
 訓練生はここで終わると思っていたのだろう、安堵し、肩の力を抜いていた。その喉に黒い縄が絡むと、眼を大きく見開くと、眼前に立つ男を見返した。
 二十歳になったかどうかというぐらいの青年は、若いにも関わらず白髪だった。黒の運動着姿だが、開始の合図から一歩も動いておらず、手にした本を読み進めている。
 黒い縄は、青年の足元、影から生えていた。
 黒い縄は、まるで生きているかのように動き、必死に外そうとする訓練生の手をかわした。
 影の縄は人の手には掴めない。
 だというのに、影だけは咽喉を絞め続ける。
「止めろホロウ、もう勝負はついたっ!」
 見ていた教官が、大急ぎで駆けつける。
 ホロウは、黙って本のページをめくった。教官の制止など耳に入っていないようだ。
 その間も、黒い縄は訓練生を影の中へと引きずる。
 倒れた訓練生が何とか縄を外そうともがいた。青ざめていた顔が、今度は赤へと変わっていく。黒い縄の先が、黒い蛇へと変化すると、息苦しさで浮かんだ涙を先の割れた舌がなめた。
 本を読むホロウの目は平然としたもので、そこに哀れみも慈悲も愉悦もない。あえて言うなら無関心。自分の影が何をしようと、どうでもいいといった風だった。
 本をめくる腕を教官が掴んだ。
「そこまでだ。仲間を殺す気か」
 教官は空いた右手でナイフを抜く。刃から吹く風が、影の縄を斬った。
 開放された訓練生が、むせながら息をする。
 側で見ていた他の訓練生たちが、引きずるようにして、彼をホロウの側から遠ざけた。
「仲間……ねぇ……?」
 ホロウの言葉には嘲りの色があった。
 白髪に灰褐色の瞳。整っている顔もあいまって、よく出来た冷たい人形ような印象を周囲に与える。
 ホロウは掴まれた腕を一瞥すると、
「……馬鹿馬鹿しい」
 わざと大きめの音を立てるようにして、本を閉じた。
 冷ややかに教官を見据える眼に、反省した様子はなかった。
 教官はホロウから手を離して身構える。教官の右手でナイフが光を照り返した。
 先日、今と似たようなことがあった。ホロウが先生を挑発し、挑戦を受けた教員が大怪我したのだ。
 生徒たちは遠巻きに二人を見守っている。誰かが他の大人を呼びに行こうにも、今動けば目の前の二人を刺激してしまう気がして動けなかった。
 緊張を破ったのは、ホロウの方からだった。
 教官から視線を外し、踵を返す。
「何処に行く気だっ。授業はまだ終わってないぞ!」
 ホロウは足を止めて、背を向けたまま告げる。
「別に。教官が相手してくださるなら、俺も失礼のないよう、最初から本気で行きますよ?」
 白髪の青年、その足元で影がゆらいだ。
 次は本を読みながらではなく、勝負すると言っていた。
 それは訓練の域を超えたものになるだろう。
 この場で始めれば、周囲にいる他の生徒も巻き込んでしまう。
 そして、ホロウはそんなこと歯牙にもかけないのだ。
 ホロウの挑戦を受けることは、出来なかった。
 教官は忌々しげにホロウの背を睨んだまま、手にしたナイフを収めた。
 ホロウが去った後、教官は、模擬戦を再開した。。
 指示を出しながら、ホロウは見逃したのだと自分に言い聞かせる。
 そうやって、少しでも感じた怖れを忘れようとした。




./.

 レギオン災害と呼ばれる事象がある。
 それは地震や風雪水害とは、異なる災厄。
 ゲートと呼ばれる「揺らぎ」より生まれる、異形の怪物レギオンがもたらす破壊だった。
 レギオンの正体は、意思の無い怪物であるとか、人の負の念が集まった悪霊の一種であるとか、様々な見解があるものの、ゲートの出現理由と合わせて、以前、謎のままである。
 分かっているのは、悪霊説が上がるように剣などの物理的な手段では対処が困難であること。
 周囲を蹂躙しつくした後は、新たな土地に移動することも、繁殖することもなく消えてしまうということだった。
 これまでにいくつもの国が、レギオン災害に飲まれ、地図からその名を消していた。多くの人々はレギオンが消えるまで、じっと耐えしのぐしかなかった。

 ただし、ごく一部の人間を除いては。
 【共在魂(ゼエレ)】と呼ぶこの世に在らざる力を用いて、その身ひとつでレギオンに戦いを挑む者たちがいた。
 例えば、古びた剣一本で立ち向かう戦士。
 例えば、天使の加護で奇蹟を行使する聖職者。
 例えば、悪魔と契約し力得た魔術師。
 例えば、精霊と契約しその力を借りて戦う精霊使い。
 そんな彼らを、人は【ガイスト】と呼んだ。

 やがてガイストたちは、より凶悪なレギオン災害に対処するため、互いに連絡をとり、連携するようになった。
 こうして生まれたのがガイストギルド連合であり、未熟なガイストを育て、尚かつ各地のガイストを支援する施設としてできたのが、ガイストアカデミーである。


./.


 そこに、張りのある女の声が割り込んだ。
「なんだい、男が駄々こねて。ちょっとばかり腕に覚えが在るからって、いい気になってると足元すくわれるよ」
 黒髪に東方装束を纏った女性が、陽気に手を振りながら歩いてくる。
 黒髪の女性を見て、アイギスは驚いたように瞬いた。
「皇眼(オーガン)殿! お久しぶりです」
「よう、アイギス、おひさ」
 ホロウは、恭しく頭を垂れるアイギスと黒髪の女性を見比べた。初めてみるガイストだ。
 年は三十歳ぐらい。ベリーショートの短い黒髪には銀色の房が混じり、左目には眼帯をつけていた。エルフの血が混ざっているらしく耳の先が尖っている。腰から下げた倭刀から妙な気配する。おそらく妖刀、魔剣の類を扱うガイストだ。
「相変わらず堅苦しいなぁアイギスは。おひさーってハイタッチとかそういう」
「難しいですな、それは、少しばかり」
 それもそうか、と、女性は片方しかない金の瞳を細めて笑う。
 ふと、ホロウに気付いたのかそこを見やる。
「で、そこの子は? アイギスの子にしちゃ育ちすぎてるし」
「ああ、ガイスト候補生……というより、後は手続きだけですから正式なガイストのようなものですが……」
「……ってかそっちが誰だ。おばさ――ッぶ!!!」
 『おば』くらいまで発音した瞬間、ホロウの顔面に女性の蹴りが入った。
 不自然なくらい爽やかに笑顔を浮かべて、
「よーし、将来有望な糞餓鬼だ。私がきっちり型に嵌め、もとい、仕込んでやろーなー」
 顔面を抑えてよろめくホロウの首根っこを掴み上げる。
「何勝手に…って、待て、何処に、っ!」
「イイトコだよイイトコ。大丈夫、向う所敵なしのガイストに仕立ててやろうなー。あと口の利き方な。たっぷりじっくりがっつりごりごりとなー」


./.


つづく
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