flower border

新刊情報//精霊なしのロンド

Categoryサークル情報
ちはっす。本文は挿絵ともに終了したので、新刊のご案内です。
表紙絵は、前回のを無かったことにして、これから描き直す。

■追記//表紙画像を差し替えたよー。

表1-4印刷用(A5本)-のコピ
※クリックで少し大きく、424 x 600
差し替え前の下書きイメージ

精霊なしのロンド
【A5 / 表紙カラー・本文モノクロ / 36P】

 精霊郷(マスケットグラフ)に暮らすロンドは、
 自分と契約してくれる精霊を求めて、
 禁じられている森の奥へと踏み込んだ。
 しかし、そこで出会ったのは一匹の白い狼で―――。

※ソウルウィル3から登場している、ロンドの過去編エピソードです。
 単品でお話しは完結しています。


●本文のサンプルは、続きからどうぞ。

※本文サンプル(一部抜粋)
---------------------------------------------------

 初めは、精霊なしを不思議とは思っていなかった。
 精霊は、いつかは誰にでもやって来るものだと信じていた。

 物心ついたころから、精霊を見る事ができた。
 軒下のバケツに溜まった雨水、小さな花壇に咲く一輪の花、
 火種のくすぶる釜戸、どれも皆、その家の主と契約を交わしている者達だ。
 自分の所にやってくる精霊は、どんな子だろうと想像して、寝付けない夜もあった。

 春が過ぎ、夏が過ぎ、秋が終わって、冬が来る。
 やがて来る精霊の姿を思い描きながら、一年を過ごした。
 十五回目の春が来る頃には、幼馴染は皆、契約していた。
 いつ精霊が尋ねてきても良いように、窓を少しだけ開けておく癖がついた。
 それでも、精霊はやって来ない。
 三十回目の春が過ぎる頃には、妹の下に精霊が来た。
 あの日、泣いて喜んだ母の姿が忘れられず。
 あの日から父は、無理に精霊使いを目指さなくても良いのだと話すようになった。
 母は幾度となく幼い妹に言い聞かせた。
「お兄ちゃんの事を悪く言う人が居るかもしれないけど、精霊なしは変な事じゃないのよ。お兄ちゃんの分も、貴女ががんばるのよ」
 うん、わかった、と妹が無邪気に返事をした。

 この時、初めて知ったのだ。
 精霊なしのエルフ、自分を凶兆と考える村人がいるのだと。

 ここは、大陸最南端に広がる樹海の中。
 人間の住まわぬこの森を、人は精霊郷(マスケットグラフ)と呼んだ。


   ・/・

 地平の果てまで続く森は、どれほど歩いても終わりが無いように思えた。
「精霊さーん、何処に居ますかー。今なら、衣食住三食昼寝付き、お好みのデザートに良い男が付いてきますよーっと」
 暢気な声で言いながら、ロンドは生い茂る草を掻き分けた。
 褐色の肌に浮かんだ汗を、上着や服の袖でぬぐう。
「うわ、本気で誰も返事しねーの。こんな森の中でさ、暇してる精霊(こ)のひとりやふたり、居ねーの?」
 跳ねた金髪を、エルフ特有の長い耳にかけるようにして撫で付けた。空色の瞳には、不満の色が濃い。
「村から離れれば、フリーの精霊のひとりぐらい居るかと思ったんだけどなぁ。明日は別の方角に行くか」
 そう言って、ロンドは後ろ頭を掻いた。
 村で見かける精霊は、どれも他のエルフと契約を交わし済みの者ばかりだ。ならばと、村の外に出てみたものの、いくら歩き回っても一向に精霊の姿がみつからない。
 空が薄暗いうちに村を抜け出たのに、時刻は昼を過ぎていた。
「しっかし、精霊なしは標の樹より遠くに行くなとか言って。これなら別に、俺一人だって――」
 ロンドは、怪訝な顔をして立ち止まった。
 獣の匂いがする。
 僅かに揺れる草木の合間から、地を這うようにしてにじり寄ってくる黒い四足の獣の姿が見えた。
 狼だ。それも、一頭だけではない。
 間の悪いことに、ロンドはその内の一頭と目を合わせてしまった。包囲が完了してないにも関わらず、群れ全体が動き出した。
「冗談っ」
 ロンドはすぐ側の枝に飛びつくと、腕の力だけで一気に体を持ち上げた。腰を引っ張られる感覚と布の裂ける音がする。
 ロンドはそのまま、後を追って来る狼の頭を蹴飛ばして、高い枝へとよじ登った。
「ばーか。エルフが狼に食われるなんて、笑えねーっての」
 悔しそうに木に爪をたて、徘徊する狼に向かって言った。
 この高さまでは、そう簡単には上がって来られない。
 水でも飲もうと腰の水筒に手を伸ばして、何もない事にきがついた。ウエストポーチの袋の一つが裂け、中身が地面に散らばっていた。
「あーあ。直すの結構面倒だってのに。さっさと諦めろっての」
 樹の幹を背もたれにして、枝に沿って足を伸ばす。
 無事だった袋から赤い実を取り出して、齧った。
 酸味の強い皮の下から、さっぱりとした甘い汁が溢れる。
 狼が居なくなるまでの間、一息つくつもりで、ロンドは空を見上げた。


   ・/・


 褐色の腕に出来たばかりの花冠を通して、頭に金色の尻尾を二本つけた少女が野原で踊っていた。小さなつむじ風が、少女の側から離れることなく、小さな草花を揺らしていた。
「遠くに行くんじゃねーぞ」
 はあい、と少女のいい返事を聞いてから、ロンドは草の上に寝転んだ。
 暖かな日差しと、花の匂いを乗せた風が心地よく、連日の散歩の疲れもあって自然とまぶたが下りてくる。
 と、小さな手がロンドの肩をゆすった。
「ねぇ、ロンド兄ぃ。風の精霊ともっと仲良くなれたら、あの鳥みたいに空を飛べるようになるのかな?」
 ロンドは青い瞳を眩しそうに細めると、妹が指差す先を見上げた。妹の頭の向こう側、森の木々よりずっと高い所を一羽の鳥が飛んでいた。
 妹が契約を交わしているのは、つむじ風が得意な精霊だ。仮にその力が強くなったとしたら竜巻になる気がする。少なくとも、あの鳥のように穏やかに飛びそうにはない。
 けれど、
「ああ。きっと、飛べるようになるさ」
 そう言って、妹の頭をくしゃりと撫でた。
「あーっ。頭に触るのは、止めてって言ったじゃんっ」
 妹は抗議の声をあげると、乱れた前髪と緩んだ髪留めを直した。ほっぺたを膨らませて一生懸命睨むのだが、逆に愛らしさを強調するだけで怖くも何ともない。
「はは、悪い悪い。忘れてた」
 ロンドは笑いながら、更に妹の頭をかき回した。
「もーっ、ロンド兄ぃのバカ! 飛べるようになっても、誘ってあげないんだからね」
 妹は怒って家の方に駆けて行く。
 後を追うようにつむじ風も去っていった。
 ロンドは大きく伸びをすると、
「さぁて、俺も行くかなぁ~」
 服に付いた草を払った。
 くすくすと、女の笑い声がした。
「ふぅん。まだ子守なんてやってンだ」
 ロンドは不快をあらわに舌打ちすると、声のした方を睨みつけた。
 数名のエルフの男女が、丘の上からロンドを見下ろしていた。
 ロンドの幼馴染、村の若年組みのエルフだ。
「精霊なしは楽そうで良いねぇ。こっちは狩りだ見張りだ、色々あって忙しいってのに」
 笑い声の主は、緋色の目をした女だった。
 女の肩では、彼女の精霊である赤い火の粉が舞っている。
「ああ、お前らばかりに押し付けて悪かったな。俺も早いとこ契約して、そっちを手伝ってやりたいよ」
 ロンドはそっけなく言葉を返した。
 この村では、外見が人間で言う所の十五・六歳を超えると、体力的にも十分として、交代で村周辺の見張りに立つようになる。精霊と契約してさえいれば、ロンドも彼らと共に行動しているはずだった。
「またそんな事言って……。あたしもさー、二十年は待ったよ。でもアンタ、妹にまで先越されちゃったじゃない」
 妹の部分を強調して、女は話しを続ける。
「長老様は、ロンドと相性の良い精霊が近くに居ないからだって言うけど、違うでしょう。だって、すでに契約済みの――村の誰かと一緒にいる精霊しか見た事がないんでしょ? 普通、他の精霊と契約済みでも、ちょこちょこ精霊が顔を見せてくれるものなのに、全く無しのゼロとは驚きだわ」
 ロンドは舌打つ。
 まだ女と親しかった頃にうち明けていた悩みだ。
「嫌ねえ、そう睨まないでよ。事実じゃない。……アンタもさ。そろそろ自分が、人間との取り替え子だって自覚したら?」
「……ンだと」
 取り替え子とは、妖精が人の子を攫い、代わりに妖精の子を置いていくという民話だ。実際には、エルフと人の間に生まれた子、ハーフエルフを指すことの方が多い。
 ハーフエルフは妖精の血が薄れている分、精霊との契約が遅れる者も少なくないという。
 しかし、ロンドに人間の血が混ざっているはずがない。
 人間は、精霊郷(マスエケットグラフ)には住んでいないからだ。
「人間にしちゃあ、俺はちょいと若作り過ぎだろ。それとも、俺の知らないうちに、人間の寿命が百年以上に延びたのか?」
「やーねぇ。悟りなさいよ。遠まわしに、気配を感じ取るだけなら人間にも居るって言ってるの。例えば、ガイストとかね」
 ガイストとは、この世に在らざる力を用いて、異形の怪物レギオンと戦う者たちのことだ。
 エルフに代表される精霊使いの他に、悪魔や天使と契約した者や、武具に宿った魂の力を借りる者もいるという。
「アンタもそんな人間と変わらないって言ってるのよ。どう? いい加減、精霊使いを目指すのを諦めなさいな。可哀想なくらいに才能が無いんだから」
「……用が無いなら、絡むのもいい加減にしろよ。そんなに精霊なしが目ざわりか? とっとと本音を言ったらどうだ」
 女は緋色の瞳を、すっと細めた。
「ほんと、妹の前でばかりヘラヘラ笑って、嫌な男」



   ・/・


本編につづく

0 Comments

Post a comment